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第五話 莫大なる富

# 第五話:莫大なる富


「戦とは、煎じ詰めれば金銀の殴り合いよ」


九州王国の執政となった黒田如水は、長崎の港を見下ろす丘の上で静かに呟いた。


徳川家康が発した「九州征伐」の動員令により、東国の大名たちは着々と軍備を整えつつある。その数、およそ三十万。まともにぶつかれば、いくら猛将・加藤清正や島津義弘が率いる精鋭といえど、数の暴力に圧し潰されかねない。


数で劣るならば、圧倒的な「質」と「兵器」で凌駕するしかない。そしてそれを支えるのは、江戸幕府の度肝を抜くほどの莫大な資金力であった。


如水が目をつけたのは、海であった。


家康が国内の統治に腐心し、異国との交易を制限し始めようとしている隙を突いて、如水は九州の地理的優位性を最大限に活かした「海上交易作戦」を始動させる。


まず動いたのは、薩摩の島津義弘であった。


「琉球の口は、我が島津が預かる。明(中国)の絹や磁器、東南アジアの硝石は、すべて琉球経由で九州へ流れ込むようにいたそう」


島津の独自の海上ルートにより、明国からの物資が怒涛のごとく九州へ流入し始めた。


さらに如水は、長崎の地を完全な「自由交易港」として開放した。ポルトガル、スペイン、そして新興勢力であるオランダやイギリスの商館を誘致し、南蛮貿易を一手に掌握したのである。


長崎の奉行所に、南蛮の商人たちが集められた。


彼らの前に姿を現したのは、黒田家の若き俊才たちと、漆塗りの輿に乗った如水であった。キリシタンの知識にも通じていた如水は、キリスト教の布教を一部容認することを条件に、南蛮商人たちと破格の交易協定を結んだ。


「我が九州王国は、汝らのもたらす銀や絹を高く買い取る。その代わり、日ノ本中のどの大名にも渡していない『最新の兵器』を、我が方にのみ調達せよ」


如水の放つ異様な覇気と、提示された莫大な金銀に、南蛮商人たちは目を剥いた。


「オー、黒田の王よ。望むものは何ですか? 火縄銃か、それとも大砲か」


「すべてだ」


如水は冷徹に言い放った。


「最新式の鉄砲、そして城壁を一撃で打ち砕くフランキ砲。さらには、それらを動かすための硝石と鉛だ。集められるだけ集めよ。金に糸目はつけぬ」


この交易により、九州王国には短期間のうちに数万挺の最新式火縄銃と数百門の大砲、そして山のような弾薬が運び込まれた。これらは清正が築いた関門海峡の要塞群や、島津の「鉄砲集団」へと順次配備されていく。


一方、江戸の徳川家康のもとには、不穏な密偵の報告が相次いでいた。


「内府様、長崎や薩摩の港が、見たこともない異国の巨船で埋め尽くされております。黒田は異国の富を貪り、兵たちへ恐るべき威力の新式銃を配り終えている模様にございます……!」


家康は、苦々しく爪を噛んだ。


「如水の奴め、金で天下を買い叩く気か。……だが、どれほど武器を集めようとも、九州一国。数の利は、依然として我らにある」


圧倒的な兵力で九州を孤立させ、兵糧攻めにすれば勝てる——家康はそう踏んでいた。


しかし如水の智謀は、すでに九州の海を超え、本州の「ある巨大な勢力」の恨みに火をつけようとしていた。徳川を包囲する蜘蛛の巣は、如水の手によって、さらに広く、深く張り巡らされていく。

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