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第二十七話 アジアの若き龍たち


# 第三部 第七話:アジアの若き龍たち(新世代の誓い)


北京の奪還と「アジア合議評議会」の設立宣言は、東アジアの権力構造を根底から覆した。旧来の「中華が頂点に立ち、周辺国がひれ伏す」という冊封体制は崩壊し、各国が対等に富と主権を認め合う、地政学の新時代が幕を開けたのである。


しかし、この壮大な理想を現実のシステムとして機能させ、北方で再起を狙う清国の脅威に対抗するためには、旧弊に囚われない「新たな血」が必要であった。


寛永元年(一六二四年)春。大坂城。


長きにわたり日ノ本の海軍を率いてきた最高海軍提督・黒田長政は、度重なる大陸遠征がもたらした病により、一線を退く決意を固めていた。長政は大坂城の奥御殿に、次代の運命を担う若者たちを呼び集めた。


一人は、長政の嫡男であり、黒田家の次期当主・**黒田忠之ただゆき**。

一人は、豊臣秀頼の嫡男であり、豊臣の血を引く若き貴公子・**豊臣国松くにまつ**。

そしてもう一人は、明国の海の英雄・鄭芝龍の息子であり、母に日ノ本の血を持つ若き天才・**鄭成功ていせいこう**であった。


「若き龍たちよ、集まったな」


長政は青白い顔ながらも、その瞳には父・官兵衛譲りの鋭い光を失っていなかった。


「我ら旧世代の役目は、戦乱の泥を払い、新しき世界の土台を築くことまでであった。北京は取り戻した。なれど、真の試練はこれからだ。北に退いた清国のホンタイジは、未だ死んでおらぬ。奴らは必ず、我が評議会の隙を突いて全軍で逆襲してくるだろう」


長政は、世界大地図の前に立つ若き豊臣国松を見据えた。


「国松公。太閤秀吉様は力で大陸をねじ伏せようとして敗れた。我が父・如水は、知恵と富で世界を繋げと言い遺した。貴殿は、どのようなアジアを築くか」


十代半ばにして、父・秀頼譲りの堂々たる体躯と聡明さを備えた国松は、迷うことなく答えた。


「長政殿。私は、武力による脅しではなく、評議会という『法と交易の絆』で清国すらも巻き込む世を作りたいと考えます。なれど、法を守らせるためには、不義を働く者を挫く圧倒的な『力』もまた必要。私は日・明・朝鮮の若き兵を一つに束ね、評議会直属の『連合義勇軍』を組織いたします!」


「頼もしい限り。なれば、その義勇軍の矛、この黒田忠之がお引き受けいたす!」


二十代となった黒田忠之が、父の前で力強く胸を叩いた。史実では家臣との不和(黒田騒動)を起こした忠之であったが、この世界では世界の大海原と大陸という巨大な戦場を器として与えられ、父に勝るとも劣らない豪快な猛将へと成長していた。


「そして、海の路は私が守ります」


和服と明の官服を融合させた衣服をまとった鄭成功が、瑞々しい知性を湛えた目で微笑んだ。


「父(鄭芝龍)の築いた東シナ海の交易網をさらに広げ、評議会に参加するすべての民に富を行き渡らせます。富が行き渡れば、人は戦う理由を失う。それこそが如水公の目指した『水の如き統治』の極みのはずです」


互いの目を見つめ合う、忠之、国松、そして成功。


国境も、民族の壁も超え、新しきアジアの理念で結ばれた三人の若き龍たち。彼らは長政の前で、互いの手を固く握り締め、アジアの永遠の平和を誓い合った。


「見事だ……。父上、日ノ本の、いや、アジアの未来は安泰にございます……」


長政の頬を、安堵の涙が伝った。


しかし、新世代の誓いをあざ笑うかのように、北方の地平線から、再び不穏な暗雲が立ち込めようとしていた。


満洲の不毛の地で、清国の皇帝ホンタイジは、日本の近代兵器(フリントロック銃や地雷火)の技術を完全に模倣・吸収し、自軍の八旗兵を「近代化」させることに成功していたのである。


「日ノ本の若造どもが、生意気な評議会とやらを開いているようだな。偽りの平和ごと、我が新しき八旗の鉄砲と騎馬で踏み潰してくれよう」


清国による、文字通り国力を賭した最後にして最大の反撃の準備が整いつつあった。アジアの運命は、この若き龍たちと、進化した北方の巨人との最終決戦へと委ねられる。


(第7話・完)


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