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第二十六話 北京奪還と覇王の裁定

# 第三部 第六話:北京奪還と「覇王の裁定」


元和十年(一六二四年)冬。


中原の決戦で清国最強の「正黄旗」を粉砕した日明連合軍は、その勢いのまま、清国が占領していた都・北京へと肉薄した。


海上からの鄭芝龍ていしりゅうによる完璧な兵站、加藤忠広・真田幸村が率いる無敵の陸戦隊。そして、それらを後方から冷徹に操る最高海軍提督・黒田長政の縦横無尽の知略の前に、北京を囲む堅牢な城壁も、もはや形骸に過ぎなかった。


日本の最新鋭カノン砲が一斉に火を噴き、北京の重厚な城門が轟音とともに吹き飛ぶ。


「豊臣の義戦、ここに極まれり! 突撃っ!」


加藤、真田の精鋭、そして復讐に燃える明国の遺臣たちが、怒濤のごとく紫禁城へと突入した。清国の皇帝ホンタイジは、日ノ本の圧倒的な近代戦力の前に都の維持は不可能と判断。残存する八旗兵を率い、長城の北、満洲の故郷へと再び退却していった。


漢民族の悲願であった「北京奪還」は、日ノ本の武勇によって、ここに成し遂げられたのである。


「おお……我らが故宮、我らが紫禁城よ……!」


血と煤にまみれた大和殿たいわでんの広場で、明国の遺臣たちは涙を流して地に伏した。大坂から大朱印船で丁重に送り届けられた明国の皇族・唐王とうおう朱聿鍵しゅいつけんもまた、感極まった面持ちで天を仰いだ。


しかし、歓喜に沸く明の者たちとは対照的に、黒田長政の目は冷徹に戦後の現実を見つめていた。


北京は取り戻した。だが、二百年以上続いた「明」という国家の統治機構は、長年の腐敗と内乱によって完全に骨抜きになっていたのである。ただ明朝を復活させるだけでは、数年も経たぬうちに再び内乱が起き、北方の清国に飲み込まれるのは火を見るより明らかであった。


大和殿の玉座を前に、唐王、鄭芝龍、そして日本軍の将星たちが集まった。


「長政殿、我が明国を救っていただいたこと、言葉に尽くせませぬ。ただちに私が帝位に就き、明を再興させたい」


唐王の言葉に、明の遺臣たちも頷く。


しかし、長政は静かに首を振った。


「唐王殿、そして明国の諸将。旧き器に、新しき水を注ぐことはできませぬ。もし今、ただ明を復活させれば、またぞろ旧来の特権階級が蔓延り、民は飢え、清国が再び南下してくるでしょう。我が父、黒田如水が日ノ本で成し遂げたことを思い出していただきたい」


長政は広大な中国大陸、朝鮮半島、そして日ノ本が描かれた大地図を広げた。


「力による一独裁の時代は終わりました。これより、この大陸に必要なのは、漢民族も、満洲民族(清)も、朝鮮も、そして我が日ノ本も、等しく知恵を出し合う『アジア合議評議会』の設立にございます」


長政の口から飛び出した壮大な戦後構想に、広間は水を打ったように静まり返った。


「な、何だと……!? 天下の中華を、異民族や島国と同列に扱うというのか!」


明の文官たちが色めき立つ。


だが、長政の横に立つ真田幸村が、十文字槍を床に突き立てて一喝した。


「静粛に。清国を陸の上で叩き潰したのはどこの誰か。海を封鎖し、皆様方に兵糧を届け続けたのは誰か。現実を見られよ。日ノ本の武力がなければ、皆様方は今頃、北の荒野で命を落としていたはずだ」


長政は言葉を継いだ。


「明を滅ぼすのではない。明国は『漢民族の自治政府』として存続させます。しかし、軍事、外交、そして海の交易権は、大坂の合議会と、鄭殿の水軍、そして我が黒田が主導する評議会が一元管理いたします。……戦を商いに変え、富を等しく分かつ。拒む者があれば、我が艦隊はただちに撤兵いたします。清国の八旗兵が戻ってきたとき、自力で戦えるとお思いか?」


冷徹な、しかし極めて合理的な「覇王の裁定」。


唐王は長政の鋭い眼光の奥に、かつて日ノ本を救った天下の偉容を見た。力による支配ではなく、システムによる統治。これこそが、如水が最期に秀頼へ託し、長政が磨き上げた「世界を治める知恵」であった。


唐王は深く息を吐き、頷いた。


「……分かった。黒田殿の裁定に従おう。我が明国は、新しきアジアの和を築くため、その評議会に加わる」


北京の空に、明国の国旗と並んで、豊臣の五七の桐、そして黒田の藤巴の旗が堂々と掲げられた。


武力による征服ではなく、経済と合議による新秩序。東アジアは今、旧来の中華思想を脱ぎ捨て、全く新しい「共存の時代」への第一歩を踏み出したのである。しかし、この平穏を維持するためには、北へ逃れた清国との最終的な決着、そして新世代の台頭が必要であった。


(第6話・完)


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