第二十話 日ノ本、世界の海へ
# 第二部 第十話:日ノ本、世界の海へ(新たなる黎明)
宮古島沖の激戦において、西欧列強が誇る「無敵艦隊」を撃破したという驚天動地の報は、大坂城を揺るがし、やがて日ノ本全土に歓喜の嵐を巻き起こした。
世界最強と謳われた絶対王政の巨人・スペイン帝国を、正面から打ち破った。この歴史的勝利により、もはや日ノ本を侵略せんとする国は、世界のどこにも存在しなくなった。それどころか、オランダ、イギリス、さらには敗戦を認めたスペイン本国すらも、大坂合議会に対して対等な外交と通商を求める使節を、競うように派遣してきたのである。
武力によって他国を従えるのではない。圧倒的な武名と、海を通じて繋がる富によって、世界の均衡の主導権を握る――。これこそが、黒田如水が水鉢の中に見据え、息子の長政たちが体現した「開かれた国」の、一つの到達点であった。
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元和五年(一六一九年)春。大坂城、大広間。
豊臣秀頼の前には、最高海軍提督・黒田長政をはじめ、加藤忠広、島津忠恒、毛利秀就、そして江戸から参陣した徳川秀忠にいたるまで、日ノ本の命運を担う東西の諸侯が、晴れやかな面持ちで一堂に会していた。
二十代半ばを過ぎ、諸将が等しく認める名君となった秀頼は、居並ぶ顔々を静かに見渡し、厳かに口を開いた。
「諸侯が平等の下に知恵を出し合う『大坂合議会』。そして海の向こうの国々と富を交わす『大朱印船艦隊』。この二つの車輪により、我が国は乱世の泥濘を脱し、世界の海と等しき存在となった。……皆のこれまでの忠義と奮闘、誠に見事であった!」
言葉が終わるや、諸将から地鳴りのような歓声が上がった。かつて領地を奪い合い、骨肉の争いを演じていた武士たちが、今は一つの国家の誇りを胸に、固い握手を交わし合っている。
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その喧騒から離れた、大坂城西の庭。
夕暮れ時、瀬戸内海へと沈んでいく真っ赤な陽を浴びながら、黒田長政は一人、静かに佇んでいた。長年の激闘と過酷な航海が刻んだ白髪には、父・如水の晩年に重なる深い風格が漂っている。
長政は、手元にある小さな水鉢を見つめていた。
その水面には、赤く染まる空と、異国の巨船が行き交う大坂・堺の港の活気が、美しく映り込んでいる。
「父上……」
長政は静かに微笑み、水面にそっと指を触れた。
「貴殿の遺された『水の如き知略』、私は最後まで全うできたでしょうか。日ノ本は、狭い島国の檻を飛び越え、世界の荒波をも味方につける大樹となりましたぞ」
風が吹き抜け、水面が細かく波立った。まるで亡き天才軍師が「よくやった」と息子の肩をそっと叩き、微笑みかけているかのように、夕日が長政の面をやわらかく照らし出した。
そこへ、「長政殿!」と呼ぶ声がした。
振り返ると、加藤忠広と若き毛利秀就、そして真田幸村たちが、笑顔でこちらへ歩いてくる。その手には、海外から届いたばかりの異国の葡萄酒が握られていた。
「さあ、提督! 新しき時代の誕生を祝う宴が始まりますぞ。黒田殿が来られねば、酒が始まりませぬ!」
「ふっ、分かった。今行く」
長政は水鉢から顔を上げ、諸将のもとへと歩き出した。その力強い足取りは、これから幾百年と続いていくであろう日ノ本の果てしない繁栄へ向けて、確かに大地を踏みしめているようであった。
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大坂城の天守に掲げられた豊臣の五七の桐と、黒田の藤巴の旗が、世界の海から吹き付ける新しい風を受けて、どこまでも高く、誇らしげに翻っている。
鎖国なき日ノ本。
水平線の彼方に広がる新世界へと、日本の船団は今日もまた、白帆をいっぱいに張って漕ぎ出していくのだった。
**(第二部・完)**
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