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第十八話 鎖国なき日ノ本の繁栄


# 第二部 第八話:鎖国なき日ノ本の繁栄


元和三年(一六一七年)秋。


日明同盟軍が大陸の渤海湾にて清国軍を破ったという報は、世界の海を瞬く間に駆け巡った。西欧列強はもはや日ノ本を「極東の島国」と侮ることができず、アジアの海と陸の均衡を左右する「巨大な軍事・経済帝国」として認めざるを得なくなっていた。


かつて太閤秀吉が夢見ながらも届かなかった、大陸の莫大な富へ至る道。それが今、黒田長政の智謀と大坂合議会の力によって、平和的な「商い」という形で完全に日ノ本へともたらされていた。


明国から免税で仕入れられる極上の絹や陶磁器、そして日ノ本の近代化を爆発的に加速させる鉄鉱石や硝石が、大朱印船艦隊によって次々と国内へ運び込まれていく。史実が選んだ「鎖国」という閉ざされた殻を破り、世界に向けて両腕を広げた日ノ本は、空前絶後の黄金時代を迎えていた。


その繁栄の象徴が、九州王国の心臓部たる長崎と、合議会の本拠たる堺であった。


かつての長崎はキリシタンと南蛮船が静かに行き交う港町に過ぎなかったが、今や世界中の商人がひしめき合う国際巨大都市へと変貌を遂げていた。博多や鹿児島、さらには東国の浦賀にいたるまで、港湾には石造りの巨大な倉庫群が立ち並び、異国の言葉が飛び交っている。


長崎の町を視察に訪れた黒田長政は、街の活気に目を細めた。


「四郎兵衛、見よ。これが父上の夢見た『水』の如き世だ。堰き止めるのではない――流れ、混ざり合うことで、国はこれほどまでに強くなる」


傍らに立つ栗山四郎兵衛もまた、感慨深げに頷いた。


長崎の市場には、明の商人、琉球の使節、ルソンからやってきた東南アジアの交易商に加え、オランダやイギリスといった西洋の商館が軒を連ねていた。彼らがもたらすのは富だけではない。西洋の最先端の医学・天文学・航海術、そして明国の儒学や印刷術が、日ノ本に古くからある伝統と融合し、独自の「和魂洋才」の文化が爆発的に花開いていた。


国内の産業も激変していた。


明国から大量にもたらされる鉄鉱石を用い、加藤忠広の治める肥後や毛利家の長州では、南蛮式の近代高炉がいくつも建設された。そこから生み出される強靭な鉄は、大朱印船の船体を覆う装甲となり、さらには農具や最新のフリントロック式鉄砲へと姿を変え、日ノ本の国力を土台から押し上げていく。


宗教を巡る火種もまた、官兵衛の遺した知恵によって制御されていた。


「神仏を尊び、同時に異国の神の知恵も利用せよ」という方針のもと、大坂合議会はキリスト教の信仰を一定のルールのもとで容認した。ただし西欧列強による「宗教を使った侵略」を防ぐため、寺社勢力や儒学者たちを合議会の教育機関に組み込み、民衆の精神的な自立を促している。力で弾圧するのではなく、知識と豊かさによって国を治める――これこそが、如水が最期に秀頼へ授けた「最高権力なき統治」の真髄であった。


大坂城の天守閣。


二十代半ばを迎え、名君としての風格を完全に備えた豊臣秀頼は、城下に広がる堺・大坂の繁栄の灯りを静かに見つめていた。豊臣五七の桐の旗の下、武士も商人も、民もすべてが活気にあふれている。


「如水殿。日ノ本は、ついに天下という狭い器を踏み出し、世界の海と等しくなりましたぞ」


秀頼が微笑んだその時、長政が険しい面持ちで大広間へ入ってきた。手には、オランダ商館長から極秘にもたらされた一通の警告書が握られていた。


「秀頼公、繁栄の影から、ついに本物の怪物が動き出しました」


長政が地図の上に置いたのは、ヨーロッパ絶対王政の頂点に君臨する、スペイン・ポルトガルの巨大な影であった。


マニラでの敗北、そして日明同盟による東シナ海の完全掌握に激怒したスペイン国王は、アジアにおける日ノ本の息の根を完全に止めるべく、ヨーロッパ本国から「本物の無敵艦隊アルマダ」をアジアへ派遣することを決定したという。


その数、大戦艦を筆頭に百五十隻以上。


日ノ本の「鎖国なき繁栄」の前に、大航海時代最大にして最後の、地球規模の決戦の嵐が、すぐそこまで迫っていた。

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