第十五話 ルソンの乱
## 第二部 第五話:ルソンの乱(マニラ急襲)
東シナ海で日本艦隊に大敗を喫したスペイン帝国は、激しい危機感を募らせていた。
当時、世界最強の「無敵艦隊」を擁し、「日の沈まぬ帝国」と謳われたスペインにとって、アジア最大の拠点はフィリピン・呂宋島のマニラであった。
マニラ総督フアン・デ・シルバは、日本の急激な海洋進出を力ずくで押し潰そうと、暴挙に踏み切った。市内に暮らす数千人の日本人移民——関ヶ原の戦い後の浪人やキリシタン、商人たち——を「謀反の疑いあり」として不当に拘束し、財産を没収、日本町を焼き払ったのである。
「野蛮なる日ノ本の使徒どもに、帝国の威光を知らしめてやるのだ」
この凶報は琉球経由で大坂城の豊臣秀頼、そして最高海軍提督・黒田長政のもとへ届いた。
「我が同胞を理不尽に害するとは、南蛮の非道、許し難し!」
大坂合議会は激怒した。秀頼は即座にマニラへの「討伐軍」派遣を決定し、ここに日ノ本初となる本格的な「海外派遣軍」が組織された。
指揮を執るのは黒田長政。陸戦の総大将に抜擢されたのは、亡き加藤清正の武勇を継ぐ熱き若武者・加藤忠広と、かつて大坂城で秀頼を支えた猛将・真田幸村であった。
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慶長二十年(一六一五年)秋。
五千の精鋭を乗せた大朱印船艦隊は、荒れ狂う南シナ海を突破し、ルソン島・マニラ湾へと姿を現した。
「あれが、南蛮の築いたマニラ城か……」
船上から双眼鏡を覗く加藤忠広の目に、堅固な石造りの城壁が映る。ヨーロッパ式の近代要塞。幾重にも並んだ大砲が、容易に近づく者を寄せつけない「不落の要塞」であった。
しかし、日本軍はただ突撃を繰り返す武者集団ではなかった。彼らには、官兵衛が遺し、長政が育て上げた「近代戦」の頭脳があった。
「忠広殿、焦ることはない。父上が播磨で家康を破った戦いを思い出すのだ。まずは海から、敵の牙をへし折る」
長政の号令とともに、大朱印船の艦砲射撃が口火を切った。長崎から持ち込んだ最新鋭の「フランキ砲」と、超長距離射程を誇る「カノン砲」が、マニラ城へ向けて火を噴く。
ドォン! ドォン!
凄まじい砲撃の嵐が、石造りの見張り塔を打ち砕き、城壁の砲台を次々と沈黙させた。スペイン軍の旧式大砲では、日本の最新鋭砲の射程には到底届かない。
「マードレ・ディオス(神よ)! 日本の火力がこれほどとは……!」
スペイン兵たちが恐怖に震えるなか、湾内への強行上陸が始まった。
「豊臣の武名、異国の地へ轟かせよ! 突撃っ!」
加藤忠広率いる「蛇の目」の旗印を掲げた黒田・加藤の精鋭陸戦隊、そして真田幸村率いる「真田の赤備え」が、煙の立ちこめる海岸線へと次々と飛び降りた。彼らが手にするのは、南蛮伝来の最新式ゲベール銃——火縄を用いないフリントロック式の鉄砲である。
スペイン軍が誇る無敵の歩兵「テルシオ」(長槍と銃の密集陣形)が、整然と前進してくる。しかし、幸村は冷静に叫んだ。
「敵の陣形が整う前に、鉄砲の三段撃ちにて粉砕せよ!」
ズガガガガガッ!
統制された連続射撃が、スペインの密集陣形を正面から引き裂いた。鉄甲に身を包んだ日本の武者たちは銃撃を掻い潜り、一気に肉薄する。忠広の振るう片鎌槍と、赤備えの鋭い剣撃が、スペイン兵を次々と叩き伏せていく。かつてない戦術と圧倒的な武勇の前に、スペインの歩兵陣はたちまち壊滅した。
勢いに乗った日本軍は逃げ惑う敵を追ってマニラ城の城門を爆破し、城内へと突入。囚われていた日本人たちを無事に救出した。
マニラ総督シルバは、加藤忠広が突きつけた槍の刃先を前に、ついに膝を屈した。
「我らの……負けだ」
長政はシルバに対し、日本人への謝罪と賠償金の支払い、そしてマニラにおける日本の通商権を完全に認める講和条約に調印させた。
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ルソン島に、「藤巴」と「五七の桐」の旗が堂々と翻った。
遠く離れた異国の地での、完全なる勝利。日本は自らの力で西欧列強の鼻をあかし、東南アジアにおける一大勢力としての地位を決定づけたのである。
しかしこの勝利の報は、さらなる世界の巨大なうねりを引き寄せることになる。海の向こう、大陸の国「明」が——滅亡の危機を前に——日本へ救いを求めて動き出していた。
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