第十四話 琉球海戦と東シナ海の女王
# 第二部 第四話:琉球海戦と東シナ海の女王
慶長二十年(一六一五年)の夏。
「大航海宣言」によって解き放たれた日ノ本の黒鉄の巨船たちは、東シナ海を南へと突き進んでいた。豊臣の桐紋、黒田の藤巴、島津の丸に十の字――三家の旗印をはためかせた「大朱印船艦隊」の第一陣である。
最高海軍提督・黒田長政が目指すのは、日本、明国、南蛮の三方を結ぶ海上交易の要衝――琉球(沖縄)であった。
「この海を制する者が、アジアの富を制する」
艦隊の先鋒は、薩摩の島津忠恒に任せていた。島津家にとって琉球は古くから関わりの深い土地であり、いわば王国独自の海の生命線。しかしその日、碧緑の海面には不穏な影が差し込んでいた。
「報告! 前方に国籍不明の武装船団! 数、およそ四十!」
物見の叫びに、甲板が緊張で張り詰めた。水平線の彼方からじわりと現れたのは、巨大なジャンク船の群れ。だがそれは、ただの商船ではなかった。
明国が厳しく定めた海禁令を嘲り、東シナ海を縦横無尽に荒らし回る中国系の大海賊「徽王一味」の私設艦隊――そして、その後ろ盾として控えるスペイン東洋艦隊の武装密貿易船である。彼らは日本の急激な海洋進出を快く思わず、琉球を兵糧攻めにして日本の交易網を根絶やしにしようと目論んでいたのだ。
「ふん、海の狼を気取る悪党どもめ。薩摩の戦の恐ろしさ、海の果てまで刻み込んでやろうぞ!」
島津忠恒は不敵に笑い、さっと抜刀した。
「全船、戦闘陣形! 薩摩の海の戦を見せてやれ!」
海賊船団は数の力を頼みに突撃し、接舷させての白兵戦に持ち込もうとした。それが彼らの得意とする戦法だった。
しかし、長政が父・如水の遺産を余すところなく注ぎ込んで造り上げた新式艦隊は、彼らの想像をはるかに超えていた。
「敵船、射程に入りました!」
「放てっ!!」
号令一下、漆黒の大朱印船の舷側に並んだ南蛮製フランキ砲が一斉に火を噴いた。
ドォン!! ドォン!!
凄まじい砲声とともに鉄球が奔り、海賊のジャンク船を次々と撃ち砕く。船体は一撃で粉砕され、火薬庫を直撃された船は赤黒い炎を噴き上げて爆発した。まるで海を割るような砲撃の威力に、海賊たちはたちまちパニックに陥った。
「馬鹿な……! なぜ日本の船が、これほどの巨砲を積んでいるのだ!?」
狼狽する敵を、忠恒は見逃さなかった。
「退くな、突っ込め! 『チェスト』と叫んで乗り込めい!」
島津の快速船が、傷ついた敵の旗艦へと猛然と迫る。接舷するや否や甲板へ躍り込んだのは、世界最強とも謳われる薩摩示現流の使い手たちであった。
「チェストォォォッ!!」
凄まじい気合いとともに振り下ろされる野太刀が、海賊たちの武器ごと肉体を両断していく。
一方、後方から迫るスペインの密貿易船に対しては、黒田長政率いる本隊が動いた。長政は巧みに風上を押さえて敵の機動を封じ、船首に据えた超長距離砲でスペイン船の帆柱を正確に打ち砕いた。
戦いは、半日で決した。
東シナ海を我が物顔に荒らし回っていた海賊艦隊は壊滅し、スペインの船も大破して南方へと逃げ去った。
琉球の港に入港する大朱印船艦隊を、王府の役人も民衆も、歓喜の声で迎えた。長政は秀頼の名において琉球の主権を安堵し、この地を「九州王国・大坂合議会」の公式な海上補給・交易基地とすることを高らかに宣言した。
「四郎兵衛、見よ」
長政は琉球の海を静かに見渡しながら呟いた。
「父上が言った通りだ。海を制すれば、明国も南蛮も、我らに頭を下げざるを得なくなる。……だが、これでスペイン本国が黙っていようはずもない」
「琉球海戦」の勝利により、日本は東シナ海の制海権を完全に掌握した。しかしそれは同時に、アジアの富を独占せんとする西欧列強の巨獣――スペイン帝国との全面衝突へのカウントダウンでもあった。
次なる嵐の舞台は、さらに南の呂宋へと移っていく。
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