第十三話 驚天動地の大航海宣言
# 第二部 第三話:驚天動地の「大航海」宣言
徳川家康の崩御を受け、江戸の徳川家は二代・秀忠のもと、大坂合議会に対して「完全なる恭順」を誓った。これにより、応仁の乱から百五十年以上にわたって日ノ本を焼き尽くしてきた乱世の火種は、名実ともに完全に鎮火した。
国内に、敵はもういない。
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慶長二十年(一六一五年)春。大坂城の奥深く、限られた者しか足を踏み入れることを許されぬ「開かずの間」に、豊臣秀頼と黒田長政の二人が相対していた。
長政の手には、亡き父・黒田如水が息を引き取る直前に手渡した、厳封された一通の書状があった。
「父上は仰せになりました。『家康が世を去り、国内が真に一つになった時、この封を解け』と」
長政が小刀で封を切り、色褪せた和紙をゆっくりと広げる。そこには、病床にありながらも遠く未来を見据えていた天才軍師の、恐るべき執念が凝り固まっていた。
――「国内で領地を奪い合う狭き時代は終わった。これよりは、海の向こうの莫大なる富を掴み、欧州列強の脅威から日ノ本を守るべし。黒田の知略、加藤の武勇、島津の航海術、毛利の水軍を一つに束ね、世界の海へ打って出よ。これぞ、我ら西国大連合の真の存在意義なり」――
書状を読み終えた秀頼は、しばらく言葉を失った。窓から吹き込む春風が、二人の直衣をそっと揺らす。やがて秀頼の瞳に、静かながら激しい決意の炎が灯った。
「如水殿は、我らに『世界と戦え』と遺されたか。……面白い。太閤殿下が果たせなかった大望を、我らは全く異なる形――商いと海軍によって――成し遂げてみせよう」
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数日後。大坂城の大広間にて、歴史を覆す緊急合議会が召集された。
全国から集まった諸大名を前に、秀頼は高らかに「大航海宣言」を告げた。
「これより、日ノ本は独自の『大朱印船艦隊』を組織する。長崎、鹿児島、博多、堺、そして浦賀を五大貿易港とし、異国との交易を全面的に拡大する!」
どよめきが広間を包んだ。親徳川派であった東国の大名たちは驚愕に顔を強張らせ、西国の大名たちは待ってましたとばかりに前のめりになった。
この壮大な計画の総指揮——最高海軍提督——に任ぜられたのは、黒田長政である。
長政は、亡父・官兵衛が遺した長崎の富を惜しみなく投じ、新時代の軍船の建造に着手した。それは従来の安宅船や関船とは一線を画す、南蛮のガレオン船技術を取り入れた漆黒の巨大武装商船であった。大砲を数十門搭載し、数千石の荷を積んで嵐の海をも乗り越えられる——まさに、海を征く移動要塞である。
「我が黒田の技術と、毛利・小早川の瀬戸内水軍の練度を合わせれば、世界最強の艦隊ができる」
長政の指揮のもと、博多と長崎の造船所では、昼夜を問わず巨木を挽く鋸の音が鳴り響いた。
一方、薩摩の島津忠恒もまた、この宣言に血を沸き立たせていた。
「航路の案内は我が島津が引き受けよう。琉球から台湾、さらには呂宋に至る海の道は、我が一族が最も得意とするところ」
加藤家もまた、海外交易路を守るための「陸戦隊(海兵隊)」の組織に動き始めた。最新の南蛮式火縄銃で武装した精鋭が、武士でありながら船乗りとしても鍛え上げられていった。
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数ヶ月後。長崎の港に、人々が見たこともない巨大な漆黒の船が数十隻、威風堂々と錨を下ろしていた。帆には豊臣の五七の桐、黒田の藤巴、加藤の蛇の目、島津の丸に十字の紋章が、誇らしげに潮風に翻っている。
出陣の式典に臨んだ秀頼は、集まった数万の将兵を前に、黄金の采配を西の大海へと向けた。
「日ノ本の覇気を示せ。大海原の向こうにある富を、我らの手で掴み取るのだ!」
「応!!!!」
地鳴りのような鬨の声とともに、大朱印船艦隊が一斉に帆を上げた。
史実の日本が選んだ「鎖国」という閉ざされた道とは真逆の、世界を相手に覇を競う「大航海時代」の幕が、いま鮮烈に上がった。
しかしその輝かしい船出の先には——アジアの海を支配する欧州列強の、血に塗られた牙が待ち受けていた。
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