一章 最終節 学園の守護少女
寮に戻るともはや日課になるのではないか、というほど悟が部屋に侵入していた。
アフターファイブの内容を聞きたがる悟に説明するのが日課になっていたわけだが、どういうわけか今日は怪我だらけの優を見て、悟はデバイスを片手に優の体を診察していた。
「…ひどいな、内臓までダメージ来てるぞ?」
打ち身、火傷、擦り傷…。それだけならまだしもだいぶ内側もやられている結果がディスプレイに表示されて悟は言葉を失った。
「交通事故半年分くらいもらったような怪我だな」
「福引よりも性質が悪いだろ」
優はベッドの上で「へへ」と笑うが、よくこれで歩いて寮まで戻ってきたものだ、と悟は感心していた。
「こいつ…いくぜ?」
ガンカートリッジタイプの注射器を見せて、優が嫌そうな顔をする。
「まじで?」
「おう」
ぶすり、と二の腕に針を差し込まれてトリガーを引く悟。
「ぐあっおおぅ、やばいっ」
液体を体内に注入されて優が気色の悪い声を上げる。微小機械で身体の内側から修復するものだ。
「ヴぁー、効くぅ」
優がぶるっと身体をよじらせる。壊れた細胞を修復される感覚はなんとも言い難い。
「しかしお前、そんな怪我ばっかりしてるとそのうち微小機械耐性がついて、機械化肢体と交換するハメになるぜ?」
「そいつはカンベンしてくれ」
優はうんざりすると悟がにやりと笑う。
「廃棄都市か…」
説明された話を思い出して悟が頭を掻いた。
「廃棄都市化した旧東京はクレーターの中で、その中には浮浪者とか違法者がたむろってるって話だったね」
「新都開発計画に最終的な後押しをしたのが、関東大震災だろ。ぼっこりそのまま東京が地盤沈下して最悪だったって話だ」
優もその経緯を思い出していた。
自分たちが五歳だか六歳だかの時の話でいまいち記憶にはないが、大変だった思いでは確かにあった。
地盤沈下で完全に機能を失った都市は廃棄され、未だに日本地図上はそこが暗部として未記入になったままでもある。再興計画はあるが、全て廃棄都市にいる連中が一切立ち入らせてくれないのも問題で、日本政府は世界からも痛烈に批判されているのが現状でもある。
「何はともあれ…ぶっ放すだけのやり方じゃだめだなぁ」
優は自分の行使術式に対する理解が甘かったと呟くと悟がうんうんと頷いた。
「そりゃあよ、女も強引なやり方は逃げる」
「何の話だ」
優がうんざりすると悟は「なんだろ」とワザとらしく振舞う。
「まじめな顔してなんてこと言いやがるんだお前は」
優がうーと本気で悩みだすと、悟が両手を叩いた。
「優は行使術式で何をどうするかって方向性決めた?」
「ん?一応、世界でトップクラスになろうと…」
曖昧に言われて悟は顔を顰めると、モバイルに守護者を接続する。秋雨が持っていたものと同じタイプのウェアブルコンピュータだ。
「ぅぉ?」
どっから声を出しているのかわからないような声を出して、悟がディスプレイを眺めて目を輝かせた。
表示されている行使術式のどれもこれもが、起動高速化、出力強化されている。無茶苦茶な組み上げ方をされているにも関わらず、整合性が図られているその行使術式はとある一種の芸術品のようでもあった。優は悟のように知識でそれを組み上げているわけではなく、感覚でそれを行っている。
出力制御以外は完璧…か。
なぜそれで出力を常に最大に設定されているのか理解できずに悟が苦笑する。
「結局、目に入った奴だけでも助けようって思ってるのかね」
優が先ほどの解答を出して悟は目を細める。
「くそ真面目なこと言ってるトコ悪いけど、この行使術式とかほとんどは、最大距離からとある何かを狙撃しようとしているように見える」
悟の理解力をなめていた、と優は顔を顰めた。
「まぁ、そういうのが必要になるかもしれないだろ?」
「単独起動じゃ無理だぜ、この射程距離は桃花ちゃんみたいな観測行使術式のようなものを必要としてる」
「…」
優は舌打ちすると、悟は目頭を抑えた。
「その仮想敵とやらは、とんでもない化け物だな。RPG的にラスボスクラスか?こんな行使術式を行使してみろ、日本が四、五発で沈む」
理論上可能であるから困る。悟は正直に身震いした。行使者とはこんなことが可能なのだとすれば、危険視される理由もわかる。
「このアイディア…米帝なら喜んで買うだろうけどよ」
いくつかの行使術式を眺めて、不意に悟は手を止める。
「守護者さんよ…この表示不可能領域はなんだ?」
「あなたには知る資格がありません。閲覧するには桃花かそれ以上の上級仕官に許可を得てください」
「あ…そ」
悟は覗き見しようとしたが、全て接続拒否される。諦めることにした。
「ヴぁー」
再び優が奇声を上げて悟が怪訝な顔をする。
「気持ち悪いぜ…」
「しかたねぇよ。微小機械が俺の中で駆け巡ってるんだから」
「微小機械がなかったら二ヶ月は入院ってところだろうな」
前時代の医療技術を思い出して悟が呟くと、優は「退屈そうだな」と呟く。
今の時代、医療機関は機械化肢体技師と微小機械調合技師、精神科医だけで十分だ、とまで言われるようになった。微小機械で修復不可能な身体は機械化肢体で補う。その技術は内臓器官まで及び、昔の呼び名である肢体技師はそのまま残ってはいるものの、肢体だけでは留まらなくなった。
眼球であろうとも、内臓であろうとも、脳であろうとも治らない部位はなくなった。
「桃ちゃんに今日はいろいろ教えてもらったな…」
「殊勝なこと言うなよ。まじで明日、日本がなくなるかもしれないって食料買い込みに行く衝動に駆られた」
悟がとぼけてみせる。明日、日本が無くなるなら食料を買っても意味がないのではないか、とも思ったが優はそれを受け流す。
「力を持つってことが強いってわけじゃなくて、強い、弱いとは別の話だってことがわかったんだ」
「そうか、それはそれで興味深いな」
悟はそう言うと、桃花で思い出したことがあった。
「正式見解でイージス護衛失敗は桃花に責任はないってことで記者会見発表されたよ」
「お?デバイス貸してくれよ」
悟は優にデバイスを放り投げると、優がそれを受け取った。
「そう言えば姉ちゃんが優もそろそろ顔を出せって剥れてたぜ?」
「むくれるって…子供かよ、あの人は…」
優は苦笑しながらデバイスを操作して桃花の情報を流し読みする。七歳で任務参加とか華々しいデビューを飾り、ありえないようなことですら完遂させている桃花の活躍ぶりを改めて見る優はふと思いついた。
「いた」
優がデバイスを悟に投げると、悟はそれを受け取ってディスプレイを眺める。
「Nシステムにハッキングか?」
「おう、そこ見てみ」
優に言われて悟は空中に写っている二人の人影を見て、拡大処理する。
桃果と秋雨が写っている。
「廃棄都市上空だね」
悟がカメラの場所と地図を適合させて場所を特定する。
「さっき出て行ったのこれだったらしいな。でもなんでこんな場所なんだろ」
「一時間前からずっと動いてないっぽいんだ」
優に言われて悟が首を傾げる。
「監視だけにこれだけの戦力を投入する必要はないと思う。二人とも特A級行使者だし」
意味がわからん、と優と悟が首を傾げる。上からの命令には従わなければならないのだろうが、そんなために同じ場所に一時間以上もずっと居続けなければならないと思うと可愛そうにも思える。
「あー、これだ」
優は自分の精神接続情報網で情報を集めて、モバイルに情報を送る。
「ああ、なるほどねー」
悟は表示された情報を読み取って納得する。
ここ学園都市で最近多発している、未成年者連続誘拐事件は特に行使者が狙われているために、警察省から魔法省(SPM)に協力要請があったのだろう。行使者を誘拐するともなれば、犯人も行使者である可能性が限りなく高い。そういう意味では連携が必要でもある事件だった。
「警察からの依頼があったんだろうね」
悟も納得したのか悟を見ると、優がぴっと悟のデバイスを指差す。
新しい情報が表示される。
「ビンゴ、悟の推察通りだぜ。日本警察は桃ちゃんと秋雨先生に協力要請を出している」
「ハッキングするのは構わないが、気をつけてくれよ」
悟はため息を吐くと、優がにやにやと笑う。面白半分や興味本位でやる優に罪悪感はない。
「強襲もありえる…か」
悟が秋雨と桃花の攻撃力集中状態を見て、息を呑んだ。
「知名度の優先かもしれない…あの二人を相手にしたら分が悪いことはわかりきってるしな」
悟は自分の考えを修正すると、優が「なるほど」と呟く。
「そういや、桃ちゃんにボッコボコにされたんだけどよー」
優が悔しそうに呟く。
「半殺しだよな、それ」
「……」
そう言われて優は何も言えなかった。
「何だよ、本当のことだろ。悔しいのはわかるけどよ」
思いっきり落ち込み始める優に悟が慌てる。
「あいつは…中距離戦で俺を完全に殲滅したけど、接近戦はどうなんだろ」
「やっぱりやられっぱなしって嫌か」
負けず嫌いなのは昔から変わらないな、と悟が苦笑する。
有り体に言われればそうなんだけど…。
優はやはりもやもやとした気持ちが拭えなかった。
「特A級と戦闘して勝ちたいなら俺じゃ力不足だぜ。特A級かそれ以上の人に教導頼まないと…っつーか学園五指に入る行使者の二人だからそんなの探すのは無理だろ」
悟が諦めろよ、と諭そうとすると優がポンと手を叩いた。そもそもそれ以上の人間など、本当に存在するのかも怪しい。
「あ…」
悟も一人の人物を想起して絶句する。
「貸せ」
「…本気かよ」
悟はデバイスを優に渡すと優がその人物を呼び出す。
「あら〜?優ちゃーん」
間延びした声で金髪碧眼の見ているだけで落ち着くような美しい女性の顔が表示される。鳳凰院の名を冠する、一大企業のトップに君臨し、世界最強の行使者、Br級行使者、鳳凰院さくら、その人だった。悟の実姉で優の保護者でもある。
「さくら姉ちゃんって…階級はS級行使者以上だよね?」
「そだよ〜。私はぶれいかーきゅーですよー」
まるで酒でも入っているのはないか、と思われるほど暢気な口調。
「どうかしたの?」
優の頼み辛そう顔を見て、さくらが急に真剣な顔と緊張感のある表情に変わった。
「え、あ、いや…」
優は思い切って言うことにする。
「頼みがあるんだ」
「私の頼みは聞いてくれないのに?」
「うぁ」
今まで何度も顔を出せと言われても無視していたことにさくらが不満そうな顔をしている。
「そ…それは悪いと思ってるよ」
「思っていても行動しないとねぇ…」
意外と根に持つのは知っていたが…このままでは話が進まない。
「特A級を上回る立ち回りを覚えたいんだ。教えてくれないか?」
「…特A級かぁ」
さくらがうーんと考える。
「私に教えてもらいたいの?」
「うん」
優が正直に頷く。悟はそんな話を聞いてハラハラしていた。
「私、今、オフシフト中だからいいよ〜」
優はそう言われて珍しいと感じた。さくらはその能力などで世界中から引っ張りだこにされているために、仕事が空いている時間などないと思われるほど多忙な日々を送っている。身を持て余しているなど、正月でも余りない。
「でも、特A級ってメルティちゃんとか桃花ちゃん、京姐とかもだよね?知らないかな?」
その桃花や秋雨に勝ちたいんです、とは言えずに優は視線をそらす。
「しらねぇっす」
「ふぅん」
さくらはにっこりと微笑むと視線を動かした。
「学園一年生、アフターファイブのBクラス、担当が秋雨先生で桃花ちゃんと一緒に教導受けてるのが優ちゃんになってる報告があるよー」
「…」
全部知っていてカマをかけやがった。
優と悟が息を呑む。さくらは嘘を吐かれるのが大嫌いで昔ひどい目に合ったことが脳裏に浮かぶ。冷や汗が止まらなかった。
「おっけー、明後日には行けるからお姉ちゃんに任せなさい?」
さくらはそういい残すと回線がブラックアウトする。
「俺…しーらね」
悟がデバイスを引っつかむとすごすごと部屋を出て行く。
「俺、終わったな」
優は天井を見上げて、自分の短い人生を振り返った。
同時刻 廃棄都市(旧東京)上空
命令とは言え、廃棄都市群(スラム街)を呆然と眺めているだけの仕事。
緋村桃花と秋雨京という日本屈指の殲滅力を持つ行使者二人がただ上空で経過観察と抑止力のためだけに動いていると世界の他の機関が知ったら日本はよほど暇なのか、それとも馬鹿なのかと呆れるだろう。
「広域探査行使術式には何も引っかかりませんよ」
桃花は左目だけ閉じて行使術式の情報を解析するが、特に怪しい人影や組織だって動いている連中はいない。もし、これで見つかるような連中ならばとっくの昔に検挙されているであろうし、桃花たちが動くこともなかっただろう。抑止力、というのは戦力に余裕がある者が行う手段であって、今の日本がそれを行うにはさすがに…。
「あちらさんだって隠れるのに必死だろうよ。それにあそこに居る可能性があるだけであって、確実にクロでもない」
秋雨は客観的に述べているつもりなのだろうが、やはり心のどこかでこんなことをしている暇はないと言外に言っているようで、顔を顰めていた。
実際、廃棄都市には所々で何かを燃やしているのか、焚き火のような赤い炎が上がっているだけで特に街としては静かな方だった。
「強制介入はしない方針ですよね?」
「日本警察様は穏便だからな。魔法省(JPM)と違って手荒なことはしたがらない。ただでさえ日本は非武装地域なんだ。そこに武力介入したら政権が転覆する」
政治的な話だ。と桃花はとりあえず納得しておく。魔法省(JPM)は政治とは少し違う立場を取っているのだから政治に詳しくなくてもかまわない。
「とは言え、私たちが強制介入すると私たちについて回る制限も厳しくなるだろうな。まぁ、心情的なもんだ。政治的にこちらを弾圧しようとすれば鳳凰院が日本に宝具を供給しなくなるから…」
秋雨の言うことも最もだ。日本は日本国内にエネルギーを供給している鳳凰院を軽んじてはいない。利権争いも一家が国家よりも強いという特色すら持っている。
「特別財団鳳凰院に勝てるところと言えば、昔は米帝くらいなもんだったが、米帝ですら最近は鳳凰院の言いなり」
桃花が呟くと秋雨が苦笑する。
「今回、魔法省(JPM)の暗殺命令に鳳凰院家の人間がリストアップされて、それを抑えたのも、さくらさんだよ」
「そんなことがあったんですか」
強硬姿勢もそこまで来るとただの自殺志願者にも思えてくる。桃花は呆れると秋雨がくっくっと喉を鳴らした。
「優もさくらさんの養子なんだよ。知らなかったのかい?」
秋雨に言われて桃花が眉をひそめる。
「優くん、両親は健在だと言ってましたけど?」
「そりゃさくらさんのことだろ。まぁさくらさんは独身だけどな。あいつにとって両親っていうか親や身寄りはあの人だけってことだろ。プライバシーのことだから後は本人に聞いてくれ」
秋雨はこれ以上は話をするつもりはないと地上を見つめる。
ややこしいことになってきましたね。
桃花はそう思うと探査に影が映る。
「ブレイク」
桃花の言葉に秋雨が迎撃体勢を取る。
「陽動作戦ですかぁ?」
間の抜けたような声と天使のような微笑を浮かべてさくらが二人を見ている。いつ接近されたのかわからなかった。桃花は気づいたらそこにいたさくらを見て、頭を下げる。
「お疲れ様ぁ」
ぱたぱたと手を振って桃花に答えると、さくらは秋雨を見るや否や、頬を叩いた。
「学園へ戻りなさい。秋雨、緋村」
鋭い口調と目つきに変わった。日本魔法省(JPM)の支配者としての面影と威圧。
「対象優に何者かが接触しようとしています。先ほど、優とプライベート通信中にノイズを感知しました。あなたたちがこんなところで何をしているかは知りませんが、警察省など放っておいてかまいません。最優先事項を履き違えないように。そして急ぎなさい」
さくらが光の矢のように学園へ飛翔していく。
秋雨は「申し訳ありません」と呟いて、それに続いた。
「さくらさん…」
桃花は唯一先輩として認める行使者の毅然とした態度に驚いた。
男子寮を監視しているメルティアルは先日付けで日本自衛隊の教導へ出向いた。自分と秋雨がここにいる。学園が空で優は一人だ。
なぜそんなことも気づかなかったのか。
桃花はそう考えるとモバイルを取り出して優を呼び出す。学園へ向かう間に連絡がつけばまだ何とかできるかもしれない。
反応は…なかった。
何かが始まろうとしている。
桃花の中でもやもやとした感情が渦巻いた。
彼はもう、罪過を知る刻なのだろうか?
それともそれとは別の思惑が始まっているのだろうか…。
(ねぇ桃花ちゃん、優ちゃんと何かあったの?)
精神情報網からの強制介入を受けて桃花は慌てて、自我防壁理論の水準を引き上げる。危うく自分の思考が全て相手のさくらに流出するところだった。
(勝手に回線に上位割り込み(ラインオーバライド)かけないでください)
(ごめんねぇ。優ちゃんがなんだか、あなたたちを超える訓練を受けたいって呟いてたのよ)
プライベートな会話、とはそのことなのだろうか。
桃花はふとそう考える。
(何かした、と言えばしたかもしれません)
C級行使者に対して特A級の必殺フルコースをお見舞いしてぼこぼこにした挙句、殺し損ねました、とはさすがに言えなかった。保護者であり姉でもあるさくらがそんなことを身内にしたと知ったら、命がいくつあっても足りない。
(優ちゃんが特A級を超える技術を身に着けたいって言ったの。まぁ悪いことではないんだけれどもね)
何か思案しているような物言いだが、それも理解できる。今、優にその技術を教えれば彼は確実に行使術式の分野では追従を許さない成長株になるだろう。が、精神的に危険な狂人になりかねない。
(男の子って腕力とか力で女の子に負けるの嫌う遺伝子(性格)を持ってるみたいなのよね。まぁ、今の世の中、どこも女の子だらけだからなおさらねぇ)
なるほど、とは思う。
確かに男の子であるということはそれだけで珍しい。
(実は気づいてるんでしょ?自分より強い人が優ちゃんだって)
苛々する。
絶対にそれは認めたくなかった。
(どういうことですか?)
思わず心が乱れた。
(気付かない振りするの、やめようね?)
さくらはそう言うと、桃花は強制的に回線を切断する。
学園 非常階段
優を抱えた悟は目の前の少女の背中をじっと見つめていた。
宝具を装着した自動拳銃を片手にしている学園の制服を着た少女が男子寮の優の部屋で発砲し、悟と同時に外へ出たところだ。
優は完全に気を失っている。微小機械治療が最高潮に達して強制的な睡眠を強いられている優は完全に無防備な状態でもあった。そこに来て、銃声、発砲、交戦と来れば悟でなくても驚いたはずだ。
「そっちの子、生きてる?」
「死んだように眠ってるぜ」
尋ねられて答えると、少女は「こんなときにも冷静なのね」と苦笑して、一階から周囲の闇に目を凝らした。
ドンッ!
茂みに向かって発砲すると、茂みが動いて何かが飛び出して逃げていく。
「君の名前は?」
「俺は悟っす」
「あぁ、さくらさんの」
さくらの実弟であることを確認して少女はなるほど、と呟く。
「私は三年の沢樹沙織、よろしく」
いかにも神経質そうな戦闘少女は端正な顔で周囲を見回しては警戒している。
「よろしくっす」
悟はそう言うと自分の法具を部屋に置いてきてしまったことを後悔した。持っているのは整備工具とポータブルデバイスのみで、さすがにこれで殴る程度では行使者には勝てるわけもない。
「私がどうして男子寮にいるのか、とかさ…」
「襲ってきた連中は何者なのか?って聞かないといけないっすか?」
悟が言葉を奪うと、沙織は頷いた。
「普通の人はそういうこと尋ねるものよ」
「礼儀がなってない後輩なもんでね」
悟は冗談交じりに言うと、黒塗りのセダンがものすごい勢いで突っ込んでくる。
目の前で止まると沙織が運転席の後ろのドアを開き、そこに乗り込む。悟は優を頭から車に押し込むと沙織が引っ張りいれて、そのまま優を引っ張った。悟は優の足を抱えてそのまま車に乗り込んでドアを閉めると車が急加速した。
「あなた誘拐のプロになれそうね」
「仕事の相棒はあんたで決まりだな」
悟はため息を吐くと、沙織が「失礼」と狭い車内で身をくねらせて助手席に移動する。
「きれいなおみ足で」
短いスカートからいろいろ見えた気がする。
悟は運がいいのか、こんな状況に巻き込まれて運が悪いのか考えると沙織が苦笑した。
「手伝ってくれたサービスってことで」
「最上級のサービスだ」
悟は優に怪我がないかデバイスで走査するが、特に問題はなさそうだった。
「微小機械治療中でね。本来、こんなふうにしたら危ないんだ」
「大変だね〜」
元気のいい声を聞いて悟はルームミラーに目をやると、いかにも活発そうな少女がにこにこと笑ってハンドルを握っている。今時、車を手動操作すること自体が珍しいのに、学園の制服を着ているところを見ると、彼女も三年らしい。
「君は誰だい?」
野生の獣のようなぎらぎら光る瞳が印象的な少女に尋ねられて、悟は自分の名前を口にする。
「大変だったねぇ、アタシは…」
名乗ろうとした少女は舌打ちすると速度制限を無視するためにアクセルをべったりと踏み込み、ギアを素早くチェンジさせていく。悟は後ろを見ると黒のセダンが二台追走していた。
車は国道に出てしまっているため、速度を上げれば自然と他の車を追い越す形になる。
「アタシは…ちょお、どけー」
ハンドルが左右に振られると悟の頭も左右に振られる。
「アタシの名前はっ!」
ブレーキと同時に赤信号を通過しつつ、輸送無人トラック群の間を縫って車線に復活した。
「この人は生徒会副会長の神山ユウ。片仮名でユウって書くの。そっちの子と同じ名前」
「変わってる表記だろー」
沙織に紹介されて、ユウは「うわははは」と笑っている。
新手の速度中毒者なのか、と悟はそのテンションの高さに唖然とする。
時速百八十キロ近くの車の中で左右に揺れる車。悟は優を押さえながら目が回りそうだった。
血圧が上がる…。
今自分の心拍数を測ったら面白い結果が出そうだ、などと頭の隅で思いついたが、車が接触しそうになるたびに体が強張った。
「失礼、空気の入れ替えでもしますか」
沙織が窓を開いた。気づけば学園都市郊外まで出てきていて、車の数も減った。
窓から身を乗り出して、沙織が助手席のヘッドギアに足を絡ませて、完全に上体を車の外に出して腹筋だけで体を支え、後ろに向かって銃を構えると、後ろの車二台も腕を出して銃口をこちらに向けていた。
ユウが車を真っ直ぐに走らせた瞬間、沙織が発砲すると追走していた車のタイヤに正確無比な一撃を叩き込む。百八十キロで走行する車のタイヤが破裂したとなれば、蛇行して事故を起こしてしまう。
案の定、車は横向になってガードレールにぶつかって、その後ろを走っていた車がそれに突っ込んで追走者が小さくなっていく。
沙織が素早く車内に身を引っ込めると同時に、ドン!っと何かが落ちてきた音が聞こえた。
「乗車したいお客様が…」
悟が天上を指差すと、ユウがぽかんと口を開けて天井を見上げる。
「乱暴なお客様だのー」
ユウはため息を吐くとハンドルを乱暴に左右に振る。思いついた方向にハンドルを曲げて蛇行しても何かが地面に落ちたような気配はない。
「乗車拒否してー」
「耳」
ユウに言われて沙織が警告。ユウは左手で耳を押さえると発砲。
悟は耳鳴りがひどかったが後ろを見ると道路上をボールのように人が跳ねていた。
「ありゃ死んだか?」
「だといいけれど」
沙織がさらりと呟くと、ユウは「あははー」と笑っている。
追走する車の中に行使者が混ざっていたのだろう。そして車を乗り換えるにしても少しやり方が強引すぎた、からと言って車内から撃たれたというのはあまりにも酷な話だ、と悟は思った。
「時速百キロを超える車を飛び移って、乗せてくださいって言われてもね。ノックしたみたいだけど面倒だから降りてもらったの」
「迷惑だしねー」
沙織にユウが答えると、悟は過激だこと、とつぶやく。
「んでセンパイ方はどうして優が危ないって気付いたんすか?」
「会長の命令。優くんが学園に来てから多少人事異動があったし、まぁ結論から見た推測だから人事異動を調べてたら優くんの周囲が異様にガードが固かったっていうだけの話なんだけど、何かあるとは思うでしょ」
沙織に説明されて悟はなるほど、と思う。内部事情に詳しいものなら誰でも疑問を持つだろうが、そこまで思考を巡らせているとするならば会長、とは頭の回転の早い人物なのだろう。
沙織が説明した内容は…。特A級行使者、秋雨京の一年二組赴任とアフターファイブBクラスの担当。同級特A級行使者であるメルティアル・ヴァンホーテンの男子寮着任。アフターファイブBクラスに同級特A行使者、緋村桃花が基本教育課程のアフターファイブに参加するとなれば、男子の黒沢優に何かがあると考えるのも自然だった。
「その子、特別なのか何なのか知らないけれど、最近学園に覗き屋が増えたのも事実なのよ。とりあえず、学園の生徒は会長の所有物みたいな考えだから、会長も放っておけなかったところよ」
「会長って傲慢なんだか、気配りが利いてるんだか、わからない人ですね」
悟が首を傾げると沙織は苦笑した。
「たぶんどっちも正解」
「会長はすげーんだぜー」
ユウが呟くと、ぐるりと学園都市を二周した車が女子寮に入った。
「女子の寮って車が入るんですね」
大型マンションのような地下駐車場に入って悟は男子寮との違いに驚いた。
「女子のほうが世界的に見ても人口が多いし、学園だって女の子ばっかりでしょ」
「ですね」
行使者人口は女子が大多数を占めるのだから、学園も結果的に女子が多くなるのも無理はない。
「たぶんここの子たちはあまり男子と面識ないから、失礼なことしちゃうかもだけど、その点はカンベンしてあげてね」
「セクハラは受けなれてますから…」
学園でのことを思い出して悟がうんざりとする。こっちがドキドキしてしまうようなことも多々あるし、セクハラは男子から女子ではなくて、今や逆の意味のほうが強い。
車が完全に停車するとドアが全て制服を着た女子たちに開けられる。
「お帰りなさい、副会長、沙織さん」
制服の袖に赤いリボンをつけた少女がユウと沙織に挨拶する。たぶん偉い人に当たる人物なのだろう。
「悟様も足元にお気をつけください。優様はこちらの二人が運びますので」
後ろに控えている少女が反対側のドアに回って優を引っ張って外に出す。
「二人を客室に運べい。ドアは四人で固めることー。っとB級行使者は八時間で交代だぞ?あとはー上空警護の人間は私についてくるんだっ」
ユウが声を張り上げるとてきぱきと少女たちが動き始める。
「後は沙織に任せるぜ?」
「了解、私はこの二人を会長に完全に引き渡すまで警護を続行しますよ」
沙織が返事をすると「まかせたぜー」とユウが走って通路に消えていく。
悟と優は最上階の客室に招かれると、優を抱えた少女が大事そうに優をベッドに寝かせると、敬礼をして部屋の外に出て行く。
テーブルを挟んで沙織と悟が向かい合って座る。男子寮の一室の三倍ほどは広いであろうホテルのスイートのような部屋で、優が寝ているベッドもダブルのキングサイズほどの大きさはあるだろう。
「あれは?」
壁掛けのディスプレイを指差すと「CODE:C3020」と表示されていた。
「コード、Cサンマルフタマル。緊急度はABCで表記されて脅威レベルはさらに細かくて、三千番台は脅威に対しての対応水準。十番台は待機レベルでスクランブル命令があった場合、六百秒以内に出撃できる準備をしておく、っていうことね。まぁ色々決まっているの」
「軍隊みたいっすね」
悟はそこまで学園がきっちりとした規則を持っていることは知らなかった。
「男子は希少種族だからね。死なれたら種の保存に関わるの。学園では女子が前線に立つでしょ。私たちは基本的に行使者だから軍事教練もしっかり受けてるの」
沙織は銃の入ったホルスターを外してテーブルの上に置く。
「アフターファイブ以外の生徒もしっかりと放課後、残ってるの知らない?」
「俺バイトしてましたからね。学園に残ることのほうが珍しいんで」
気付かなかったと悟が呟く。戦場は日常のすぐ側にあったなんて、誰が気付くだろうか。
「悟くん、私の身体見てくれない?」
沙織は精神情報網にアクセスして悟の情報を呼び出して、ちょうどいい、とブレザーを脱いでブラウスのボタンを外していく。
「え?」
悟は突然、脱ぎだした沙織に狼狽した。
沙織は立ち上がって悟に背を向けると、器用に下着まで片手で外してブラウスで前面を隠して振り向いた。
ごくり、と悟が唾を飲み込む。
「ん?」
静かな部屋に聞こえる、微かな機械的な作動音に悟は目を細める。
「私、半身不随で左側を機械化肢体に換装しているのよ。あなた、機械化肢体の整備士免許持ってるわよね?」
「ええ、一応一級の整備士免許持ってますよ」
悟が頷くとブレザーのポケットから簡易調整キットを取り出す。
沙織は悟の隣に座ると背を向ける。
「どこが悪いか自覚症状出てます?」
悟はポータブルデバイスを左手に持って、走査モードで透過レーザーを沙織の背中に当てる。
「どうも…反応が悪いのよね。思った瞬間に身体が動かないのよ」
「失礼しますね」
悟は沙織の耳の後ろを触って、デバイスからケーブルを引っ張って耳の後ろにあるジャックにコードを差し込む。
「あっ」
官能的な声を出されて悟は苦笑した。情報がしっかりと相互に行き交っているのを確認して、右手で左と右の肩に交互に触れる。
「ペンか何かあります?」
「テーブルの上にない?」
悟は視線をテーブルに向けるとボールペンが転がっていた。ちょうどいい具合に真鍮で出来ている。これを利用しようと悟はひんやりとしたそれを沙織の肩に当てる。
「ひぅ!?」
冷たいものを当てられて沙織が驚いた。左右交互にそれを当てて、悟はペンを置いた。
「変な声出さないでくださいよ。自制心が持ちませんって」
悟が苦笑いすると、沙織は照れるわけでもなかった。
「こんな身体でも私をオンナとして見れるの?」
不意に尋ねられて、悟は機械化肢体に換装した人の心理的劣等感を目の当たりにして、言葉を逸した。
「俺は行使者とか機械化肢体とか別に関係ないと思ってますよ。そこに精神があって、意思があるのなら、俺は人間だから一緒だと思ってるんです」
悟はデバイスの透過キーボードを叩く。
「君は優しいんだね」
「優しいとかそうじゃないとかじゃなくて、俺は人間として優しくありたいって思ってるんです。本当はみんな優しいんでしょうし、優しくないかもしれない。結局は優しい人でありたいって思うから、優しくなれるんじゃないでしょうか?」
「私にはわからないわ。それこそその人の考え方一つでどうにでもなりそう」
「どうにでもなれるってことは、優しくなれるってことです」
悟は作業を終了されてジャックからコードを引き抜く。
「沙織さんは戦闘とかするときに、痛覚神経を最小限に設定してますね?」
「そうね、痛いのは嫌じゃない。機械の部分だけでも痛みを簡略化できるならそうするでしょ?」
悟はなるほど、と呟く。
「その時、言っちゃなんですけど、生身の部分と機械の部分の電気信号が錯綜しちゃってるんですよ。同じ痛みなのに信号の強度が違うわけですから、人間の部分の脳が混乱するんです」
「へぇ…わからないわ」
だろうね、と悟は苦笑する。
「まぁそれ、軍用肢体じゃないんで、本当はそういう事できるわけじゃないんです。ソフトウェアから強引に信号強弱度を受け取るシナプスに影響を与えているから、ナノソフト的な干渉が」
「わかるようにしてくれない?」
沙織は苛々しているのか、声を荒げた。
「まぁ運動させようとする電気信号まで干渉しちゃってて、コンマ三秒ほど機械化肢体のほうに送信する電気信号が遅れちゃってるんですよ。それが微妙な差になって違和感を通達しているんだと思います」
「どうにかならない?」
「しました」
悟がさらりと言うと、沙織は服を着て立ち上がり、左肩と右肩を交互に動かす。確かに楽になったような気がした。
今まで何度か医務室に行ったがあまりよくならなかったのに、悟の作業の早さに沙織は驚いた。
「ありがと」
「どういたしまして」
沙織はテーブルを挟んで反対側のソファに座ると、部屋に来たときと同じように向かい合う。
「本当はもっと道具とかがあれば、手首の衝撃を緩衝させることもできるんですがね。通常設定は生活水準に設定されてますから、拳銃に法具を装備させているんですから反動制御ももっとうまくできるはずなんですよ。でも緩衝水準を上げると整備に時間がかかりますね。換装時期も早くなっちゃいますから…」
「ふふ」
悟が得意げに話を始めて、沙織は思わず笑ってしまった。
瞳をキラキラと輝かせて、まるで子供が母親に対して自分の自慢話をしているような悟が純粋な少年のように見えた。
「あ、すみません。宝具とか機械化肢体とかのことになると夢中になっちゃってですね…。つい」
恥ずかしそうに悟が頭を掻いた。
「別に構わないけど、君みたいな行使術式を使える行使者でもないのに、どうして学園に入学できたのかようやく理解できたのよ」
「宝具の扱いは行使者と同じくらい自信がありますし」
「そうだね。君の武器はそれだね。人間として法具を扱う技術がものすごいのね」
悟は褒められて苦笑した。
「俺はですね、人間も行使者も機械化肢体に換装した人も、分かり合えると思うんです。分け隔てなく受け入れる人間を理解者、なんて呼び方してますけど、きっと誰もが理解者なんだと思うんですよ」
「それは…とても素晴らしい考えですわね」
いつの間にか入り口に少女が立っていて、沙織が慌てて立ち上がり敬礼する。
「お座りになって?」
しゃなり、しゃなり、と優雅に少女が近付いてくる。言われて沙織は悟の隣に回って座ると、沙織が先ほどまで座っていたソファに少女が腰掛ける。
勝気な瞳をした三年生。恐らくこの人が生徒会長と呼ばれる人だろう。確かに責任感はありそうな印象を受けた。
「砂山悟、くん?」
「うぃっす」
悟が返事をすると少女はゆっくりと頷いた。
「私は倉山結衣と申します。不肖、私が学園生徒会長を勤めさせていただいており、鳳凰院家様のご子息のご尊顔を…」
「結衣さん社交辞令って学園の教育プログラムに含まれてるんですか?」
わざとらし過ぎる言い回しに悟が言葉を遮ると、結衣の態度が豹変した。
「死ね」
「うぉ!?」
突然の言われように悟が仰け反って驚く。
舌打ちした結衣はどがんっとテーブルにブーツの踵を押し付けて足を組んだ。
「うぜぇ、ちくしょう。なんだこの事態は。上からは優のことやお前のことは知らされてなかったんだ。鳳凰院ってのは厄介な連中だ」
「結衣さん、そんな言い方はだめですよ」
沙織が困ったように笑うと結衣は大げさにため息を吐いた。
「今日は突然、メルティさんと京の姐さんに、桃花の奴が学園周辺にいない。そんなのバレたら狙われるに決まってんだろ。上はバカなのか?それとも底抜けに間抜けなのか?おい、どう思うよ」
「それはもう聞きました」
悟は萎縮して答えると結衣は「そうか」とまた舌打ちした。これが学園トップの行使者全員を束ねるものとはとても思えない。
「どうして俺たちを助けてくれたんですか?」
「あん?」
じとり、と睨まれて、悟は聞いてはいけないことを聞いたのか?とびくびくする。
「学園の生徒がわけもわからん連中に攻撃されて、しかも行使者を奪われたなんて体裁に関わるだろうが。日本の学園は行使者の精鋭なんだよ。そんな汚名を指揮官である私が浴びるのは許されないだろう?わかるか?」
「は…はい」
沙織の言葉を思い出して、そういうことか、と悟は納得した。この人は傲慢であり、優しい人でもあるのだろう。
「学園の生徒は私の所有物だ。それを勝手に持ち出してどうこうしようなんて、許すか?許さないよ」
ふっふっふっと不気味に笑う結衣。
横暴に次ぐ横暴だが彼女は彼女なりに必死に動いたのだろう。
「報告を聞いた」
「はぁ」
次は何を言われるのか、学園の教師に何かを言われるより怖いと悟は正直にそう思った。
「黒沢優が奪われそうになった数分間、お前が戦闘をしたんだな?」
「戦闘っていうか、優を引っ張って外に連れ出そうとしただけっす」
「それでもお前がいなかったら敵は易々と優を奪取していただろうな。礼を言う」
テーブルの上に乗せられた足を見て、悟は礼を言う態度ではないな、と思う。
「お?」
ブーツに取り付けられている法具を見て、悟は事もあろうか足を引っ掴んで持ち上げる。
「なっ!?」
結衣は慌ててスカートを押さえて慌てふためく。
「これ、壊れてますね」
「見ただけでわかるの?」
沙織が尋ねると悟は頷いた。
「ええ」
悟はふと射抜くような視線を向けられていることに気付いて結衣の顔を見る。
「お前も壊すか?壊れてみるか?」
「す…すんません」
足をそっと爆発物を扱うように、テーブルに戻すと結衣が米神を押さえた。
「お前はそういうのに詳しいのか?」
「いちおー」
死刑宣告はまだか?と悟が返事をすると結衣はふむ、と瞬間的に思考するとポンと手を叩いた。
「私の肢体と言い、宝具といい、すごいじゃない」
沙織が感嘆すると結衣がにやりと笑った。
「技術って奴は使って初めて真価を問われるんだ」
「はい?」
結衣の邪悪な笑みに悟は顔を引き攣らせる。
学園、男子寮。
さくら、秋雨、桃花は空になっている優の部屋に到着して現場検証を始めていた。
「折衝があったみたいですね」
「小競り合い程度かな?」
桃花にさくらが同意する。他の男子生徒たちは何事かとすでに野次馬になっていたが秋雨がそれらを追っ払っていた。
「問題なのはどうやってここまで侵入して、そうやって優くんを運び出したのか、なんですけど。目撃者がいないんですよ」
さくらは拳銃を取り出して、窓を開けると無造作に撃った。ばいんっと薄いプラスティクを指で弾いた様な音がして弾丸が無力化されて床に転がる。
「封殺は完璧ですか」
「対物理はね」
さくらがふと桃花を見ると、桃花が空に向かって手を伸ばしていた。
「こわすなよー?」
部屋の入り口から秋雨がにやにやと桃花を眺めていた。
「行使術式…起動準備。圧縮情報展開、不必要情報排斥…」
「桃花ちゃん?危ない等級の行使術式はだめだよ?」
と言いながらさくらと秋雨は自分自身に保護行使術式を展開させる。桃花を中心に膨大な行使術式方向が集約されていく。高まっていくそれがビリビリと大気を振動させていた。
私より、優くんのほうが強いなんて、認めたくないよ。
ずっと考えていたことだった。
「私が優くんを守ってみせるんですっ!」
誰に言った言葉でもなかった。ただそうあることが望みだった。
臨海に達した桃花の行使術式方向があふれ出そうになる。開放を待ち望んで桃花の中で暴風雨のように暴れていた。
「鋭敏なる刃!」
桃花が腕を掲げて振り下ろすと、桃花の身長ほどある刃が窓枠ごとぶち破って封殺に当たると光と音、そして電流を迸らせる。
「うああああああっ!つらぬけええええっ!」
桃花がそう叫ぶと封殺壁にびしり、と皹が入った。
続いて秋雨がごすっと桃花の頭に手刀を叩き込む。
「えう」
桃花が頭を抱えると鋭敏なる刃が解除される。
「貫いてどうするよ」
桃花は両手で頭を押さえて瞳に涙を貯めて秋雨を上目遣いで睨みつける。
「痛いじゃないですか」
「そうかそうか」
秋雨は皹を見ると、自動修復されて元に戻った。
「まぁ…特A級の行使者が攻撃しても簡単には破れないってことですかね」
さくらが苦笑すると、秋雨は安心したのか胸を撫で下ろしている。
秋雨は内心、寮ごと桃花につぶされるのではないか、と冷や冷やしていたのだ。
「進入経路の特定は難しいですけど、優ちゃんは逃走したのかしら」
「さくら隊長、サイフがあそこに」
机の上に放置されたそれを指差して桃花が報告すると、さくらはきょとんとする。
「隊長、だなんて懐かしい呼び方してくれるのね。まぁ、お財布があそこにあるんじゃ学園都市からも出られないでしょうし、ねぇ」
学園都市に入るには許可証がいるし、出るにも同じ許可証が必要で、大抵はサイフの中にそれを携帯しているものだ。さくらは財布を手にして中身を確認すると許可証がそこに入っている。
古びた写真を見つけて、はっとする。
自分、悟と車椅子に座っている優に、そしてもう一人の女性が写っている写真。
これは何年前の写真だったか。優と悟が小学校に上がる前の写真だったはずだ。
「どうしました?」
秋雨が尋ねてさくらは写真を財布の中に戻す。
「さくらさん、優くんは目立つ瞳の色をしているから狙われていると知って不用意に出歩いたりはしないと思います。目立ちすぎますからね」
半分正解の桃花の発言にさくらは頷く。
「レイシアは優ちゃんが保有してるのよね?呼び出せる?」
「はい!」
桃花が優に渡した法具に精神情報網経由で呼びかける。
完全に優にレイシアを渡していたことを失念していた。機転が利くさくららしい発想だった。
さくら、秋雨、桃花は行使術式、飛翔を起動準備して待機する。レイシアと接続できれば直にでも場所が判明する。ある意味、時間の問題でもあった。こちらが向こうの場所を感知したことを逆探知されてしまえば、優は完全に違う場所に運ばれてしまうかもしれない。レイシアを放棄して優に対して強力な封殺をかけてしまえば追う手がかりは完全に失われてしまう。それだけは回避しなければならない。
「桃花」
秋雨が黙り込んでいる桃花を急かすと、桃花が俯いて首を横に振る。
「反応、ありません。優くんは…通信可能な状態にいないものと判断します」
「くそっ」
桃花が泣きそうな顔をして、秋雨が悔しそうに歯噛みする。
「面白い情報があるのだけれど」
さくらが精神情報網を介して桃花と秋雨に情報を送信してくる。受信した二人がその内容を見て、気付いた。
「Nシステムの情報履歴ですね」
「本当ですね。黒のセダンが国道を時速百四十キロで走ってる」
秋雨と桃花が情報を解析する。
「逃走車両は一台で、追走車両が二台」
「その後、追走している車が横転してもう一台がそれに突っ込んでるんですよ」
秋雨にさくらが情報を照合する。
「運輸省の情報と照合しました。逃走車両は学園所有」
桃花が報告する。
「前に座ってる二人は学園の生徒みたいね。あら、三年生だわ」
画像を拡大、鮮明化処理してさくらが「おてんばさん」と呟く。
「私も魔法省(JPM)のデータベースと照合した。行使者データにあった。一人はB級行使者、三年の沢樹沙織。医療データに機械化肢体手術を六年前に受けている。もう一人は同じくB級行使者の神山ユウ」
秋雨から情報を受け取って桃花が学園のデータベースにアクセスする。
「二人とも生徒会所属です」
「後部座席に優ちゃんと悟ちゃんを見つけたわ」
さくらが安心したのか胸を撫で下ろす。
生徒会が優たちを無事に保護しているであろう、と分かれば急ぐ必要はない。
「Nシステムによるとユウさんの運転する車両は一時間かけて学園都市を二週していますね」
「対追跡者の行動でしょうねぇ。よく訓練されていますこと」
さくらがそんな教練までさせているのか、と呆れる半分、必要なのだろうと悲しくなった。
「行き先は…学園女子寮だな」
秋雨は車両の行き先を特定して完全に三人は脱力した。
「結衣には連絡をしっかり入れるように言い聞かせないと」
「ですね。まぁ学園生徒たちには連絡が行ってるでしょうね。私たちはある意味、学園とは部外者に位置しますから、必要な情報交換の範囲内にいないということでしょう」
歯噛みする秋雨にさくらが考えを伝える。
「あそこにいるなら安全です」
桃花は学園女子寮を思い浮かべて、心の底からそう思った。
あそこは生半可な要塞ではない。迂闊に攻撃しようものなら四百名を超える行使者が反撃を行うだろうし、防衛システムも完備されている。日本で一番安全な場所は国会議事堂でも首相官邸でも、皇居でもない。他の追随を許すことなく学園女子寮だった。
「生徒会が動いたということは結衣の指示だな。よく動いてくれた」
秋雨は結衣を再評価する。教師たちとは何だかんだと仲たがいを引き起こしてはいるものの、行動力や判断力は指揮官として申し分ないものがある。
「結衣さんってすごい人なんですか?」
桃花がいまいちわからない、と呟く。桃花のように世界中を飛び回って積極的に作戦に参加しない結衣のことは桃花の耳には余りその名前が届くことはない。
「去年の修学旅行でフランスに行ったんだ。その時、フランスで日本大使館が襲撃された。テロリストが篭城をして何だかんだごねてる所に結衣が単独潜入して二十八人のテロリストを完全無力化した。篭城してから十二分の出来事だよ」
被害者はゼロだ。と秋雨が付け加える。
「…あれ、結衣さんがやったんですか。日本人一名が無謀とも果敢とも取れる行動を起こして無事解決したって言われてましたが」
桃花が苦笑すると、さくらも苦笑する。神風撫子とか新聞に載っていたはずだ。
「あの事件は解決まで最短記録を持ってるわよね。私も鼻が高いわ。教え子が優秀だと」
じろり、とさくらが「優秀である教え子が優ちゃんの警護を怠るなんて信じられない」と言いたさそうに桃花と秋雨を流し目で見る。
桃花と秋雨はそれぞれ視線を泳がせて別の方角を見ると、さくらはため息を吐いた。
「とりあえず、女子寮へ移動しましょう」
窓から三人が飛び出すと、ようやく人心地つける気分になれた。
悟はテーブルの上に置かれた法具の山と入れ替わり入って来る女子たちの機械化肢体を調整してはうんざりしていた。とりあえず、女子生徒の調整はある程度終わったし、作戦中なので後回しにすることにして、法具の山を片付けに入る。
「お前もよくやるな」
優が感心すると、悟は「あー」と呟く。
ここまでの経緯を簡単に説明されたが、被害者である当の本人は眠っていたので実感がないらしい。
ポータブルデバイスを片手に悟は忙しそうに様々な法具を調整しては、行使術式の高速化処理を行っていく。
「まぁ経緯はわかったんだけどよ。なんでお前はそんなことしてるんだ」
「会長の命令だよ。助けてやった礼はしても罰は当たらないらしい」
結衣が言うにはそんだけの技術があるならば、学園の専属整備士になればいい、金は払う。バイトもしなくていいだろう、とのことだ。
その山を見つめて、優は顔を引き攣らせる。
様々な武器の形態をしていたり、球体だったりする法具の山はざっと見ただけでも十個や二十個ではすまない。
「が、がんばれよ」
「おう」
優が再びゴロンと横になる。微小機械の反作用は簡単には抜けないはずで、それを知っているから文句も言えない。怪我人は怪我人らしく大人しくしていて貰った方が悟も安心できた。
「お前は友達が作業していても眠れるのか。たいした友人を持ったものだな、悟も」
うとうとし掛けて声をかけられる。
優は目を開くとそこには結衣が仁王立ちで立っていた。
「誰だお前」
優が上半身を起こして結衣を睨みつける。
「噂の生徒会長だよ。助けるように指示してくれた人」
悟は手を休めることなく優に知らせると、優は「あー」と寝ぼけた頭で結衣の顔を見上げた。
「どもっす。あっした。おやすみ」
優がごろんと横になる。ぷちっと何かが切れるような音がした気がする。
「てめ、コラ、起きんかワレ」
結衣が優の襟首を掴んで無理やり上半身を引っ張り上げて頭を前後に揺らす。
「ヴぁー世界が揺れるぜぇ」
がくりがくりと首が千切れそうになる。
「やめんかい!」
優が腕を掴んで無理やり引き剥がすと結衣がふんっと鼻を鳴らす。
「一つ二つ質問に答えろ。優、貴様はなぜ狙われる」
「俺の行使術式の容量が人より多いからじゃないのか?大規模な法具を使わなくても俺一人でそこらへんの兵器よりも数十倍の威力をひねり出せるだろうしな」
「そうか、それならいいがな。先ほど魔法省(JPM)に問い合わせた処、お前の暗殺命令が出されていてな。それを桃花と京姐が指し止めている。これはどういうことだ?」
優も悟もそれは知っているので今更な話だった。
「それは知っているんだな」
結衣は当人たちがそれを知っているのか確認したかっただけなのだろう。それ以上は暗殺に関して尋ねない。
存外にバカではないらしい、と優も結衣を観察する。
「さくらさんや京姐、桃花がこちらに向かっている。お前の身柄を明け渡すがいいかな?」
別に反論することも意義を唱える意味もないので優が沈黙を保つ。余計なことを言えば結衣はそこを突いて来るだろうと優は何と無く直感で感じていた。
「俺もか?」
悟が手を止めて結衣に尋ねると結衣が頷いた。
「俺はこいつらを治してからがいいな。受けた以上仕事はきっちりやりたい主義なんだ」
「それは殊勝なことだな。そうか、この部屋はこれからお前の作業場にして構わん。診察と法具の修理をお前に任せるから自由に使え」
結衣はそう言うと悟は「うぃ」と右手を上げて作業を再開する。
正直な話、医者と整備士を一度に両方手に入れられたことはデメリットには絶対にならず、利用価値は十分にあると結衣はほくそ笑む。
「一流の道具はこちらで揃えて置くことにしよう。私は一流以外は認めん」
「一流の仕事をしてご覧に入れますよ」
悟はそれ以上口を開かずに集中し始める。
「専用デバイスではなくて汎用デバイスでよくやるものだ」
半ば呆れたように呟く結衣。
「到着したようだぞ」
周辺警備していた生徒から、さくら、秋雨、桃花の到着を知らされて結衣がドアのほうを向くと、ドアが開いた。
「お疲れ様です」
「ご苦労様です」
敬礼している結衣にさくらが答礼する。
「早速ですが、コードCサンマルフタマルを解除してくださいな」
「了解」
結衣はポータブルデバイスをブレザーのポケットから取り出す。
「全員、聞け」
寮内放送がオンラインになって、遠くで結衣の声が響いた。
「現時刻を持ってコードCサンマルフタマルを解除する。全員、通常活動を…」
「待ってくれっす!」
ユウの声がデバイスから響く。様子から察してただ事ではなく、ひどく慌てている。
「全員、解除は待て」
結衣は寮内放送からユウとの直通回線に切り替える。
「なんだ?」
「レーダーにアンノーン。行使者反応です!攻勢行使術式方向を確認しました!」
「落ち着け」
結衣が静かに対応する。ここで慌ててはユウがもっと混乱する。対空レーダーをディスプレイに接続させて、外部カメラも同時に表示させる。
拡大処理させると最大望遠で人影が二つ。
「迎撃は任意だ。現場指揮官のお前に任せるぞ」
「了解しましたっす。任意で迎撃します。対空圏内に入った瞬間から集中砲火しますね」
ユウとの回線が切れると同時に別回線から通信。使用周波数帯域が学園の生徒たちが使用するものではない。SPYレーダーに表示されている二つの点はこちらの防空圏内ぎりぎりのところで、砲火がほぼ意味を成さない場所だ。
防空権ぎりぎり、という時点でなんとなく相手を察することができる。
先ほど、日本魔法省(JPM)に優のことを報告したのが間違いだった。あそこは味方でもあり敵でもある。
「これから恐らく、防空権ぎりぎりで攻勢行使術式を展開しようとしてる、くそったれなバカ野郎と話をする」
寮内放送で結衣が言い放つと、通信を外部と接続する。
「こちら学園指揮官の結衣だ。通信帯に割り込んでいる意図を明確にせよ」
結衣がさくらを横目で見ながら応答する。さくらは身振りで桃花と秋雨に二人で屋上へ向かえと指示を出すと、桃花と秋雨が敬礼してから走って部屋から出て行く。
「こちら日本魔法省(JPM)、特別攻勢部隊、鋼鉄の処女。黒沢優を引き取りに来た」
「これはこれは、殺戮部隊さんが、こんな夜遅くまでご苦労だ」
結衣はそう言うと一息置いた。
「断る」
断言してしばらく間が空いた。さくらもその意図に反論はないようで、何も言わずに目を閉じている。
「それでは強引な手段になるが、武力介入させていただく」
「まぁ待て、話をしようじゃないか」
結衣がすっ呆けた。
「無用」
「待てと言っている。こちらは鳳凰院さくらを始め、秋雨京、緋村桃花を現場配置している」
早口で通信が切られる前に結衣が相手にこちらの保有戦力を通達する。
Br級行使者一名、特A級行使者は自分を含めて三名保有している、ということは通常一個連隊と同等の火力を保有している計算になる。加えてここは行使者のみで編成されている純行使者連隊だ。もしその気になれば日本は無論、過去日本の掲げた思想である大東亜共栄圏を二日で達成するであろうと言われる火力を保有していた。
その戦力に対して武力介入だと?ふざけるな!そんなのは言葉の上でも脅しにもならんぞ!と結衣が邪悪な笑みを浮かべる。
結衣の判断は正しかった。
レーダーにあった反応が消える。形勢不利と見た相手が撤退してくれたのだ。
「申し訳ありません。さくらさんの名前を使うような真似をしてしまいました」
結衣がデバイスの通信を中断してさくらに謝罪すると、さくらは首を横に振る。
結衣は今度こそ警戒態勢を解除する指示を寮内に通達して、武装解除の指示を矢継ぎ早に飛ばしていく。
「考えてみたら、ここってすごい戦力スポットなんだな」
一種の緊張感の最高潮を抜けて、優が安堵のため息と同時に呟いた。先ほどの「話し合い」如何ではここが完全に戦場になるかもしれないのだ。優と言えども緊張する。
「そだよぉ、学園の生徒会長は隊員とも言える全ての生徒の指揮官でもあるの。だから責任もあるし大変なのよね」
さくらが人事のように言うと、結衣は首を横に振る。
「私は確かに学園の最高指揮官として自負していますが、さくらさんの指揮下にあることは忘れてはいません」
褒められて恥ずかしいのか、結衣が顔を赤くしてさくらに言うと、さくらは苦笑した。
「自分は星空を眺めている者を休ませますので、一度失礼します」
結衣は敬礼して颯爽と身を翻してデバイスを片手に部屋を出て行く。寮内放送では今回のコードCサンマルフタマルの経緯を説明して事態収束までの報告をする結衣の声が流れている。事態は収束したが、解決はしていないという結衣の声に優もそれは同意できた。
悟は釈然としない気持ちを抱えていた。
今回の戦闘という戦闘は、男子寮から女子寮の移動の間だけで、結局、優はどうして狙われているのか、などという重要なことは何一つわかっていない。最も根幹にある黒沢優の重要性という概念がすっぽり抜け落ちてしまっている。
さくらはレイシア…守護者を回収すると優に伝えると、優はそれをさくらに渡した。桃花はどこと無く寂しそうな顔をしている。
「とりあえず、これで一時事態は収束するものと思われます。今回はこちらの不手際で皆さんに迷惑をおかけしたということで報告します。今後は不手際が無いようにしますね」
さくらはそう言い残して女子寮から撤退した。




