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アークの手配により、リリアナは滞在する部屋へと案内されることになった。案内してくれる公爵家の侍女サラによれば、屋敷の奥にある公爵家のプライベート区画にリリアナの部屋は用意されているらしい。
「ずいぶんと遠いのね。そういえば、遊びに来たときもこんなに奥まではお邪魔したことがなかったわ」
「はい。こちらは使用人の立ち入りもかなり制限されております。決められた者しか、立ち入ることの出来ない公爵家のプライベートスペースです」
「え?じゃぁ、私も立ち入っちゃ不味いんじゃない?ーーいつも公爵家に滞在する時の客間じゃ駄目なのかしら?」
立ち入りが制限されているらしい、公爵家のプライベート空間に入って良いものかリリアナがどぎまぎしていると、サラが微笑ましそうにリリアナを見つめた。
「リリアナ様は本当にお可愛らしいですね。もちろん、リリアナ様はユーリス様のご婚約者様ですものこちらで問題ありませんわ。かえって、ご婚約者様に一般の客間をご用意するなど、公爵家の沽券に関わりますーーーさぁさ、着きました。リリアナ様はこちらのお部屋をお使いくださいませ」
細やかな細工の施された重厚な扉の前でサラが立ち止まると、扉の前で待機していた騎士に声をかけた。
ーーーっ!騎士まで配置されているの?!
「こちらはユーリス様のご婚約者のリリアナ様です。本日よりこちらのお部屋の主となります。ユーリス様から、心して任務に当たるようにとのご指示です。ーーーリリアナ様、こちらは今後リリアナ様のお側に仕える騎士のロイとジャックです。他に交代で2名おりますが、後々ご紹介いたしますね」
騎士がいたことに驚くリリアナを見て、サラは本当にリリアナは素直で可愛らしい婚約者だと感じた。
サラに紹介された騎士を2人も、素直に驚くリリアナに初々しさを感じていた。また、公爵家の嗣子が、華奢で儚げな印象のある男爵令嬢を選んだことに興味深々でもあった。
「本日より、リリアナ様の護衛騎士を拝命いたしましたロイと申します。何かあれば何なりとお申し付けください」
「同じくジャックです。よろしく」
「リリアナ・メイルズと申します…しばらくの間お世話になります」
ーーー真面目なロイと、砕けた感じのジャックね。2人とも親切そうで良かった!
護衛騎士として紹介されたロイは茶色の短髪でがたいの良い真面目そうな男性で、反対にジャックは女性にモテそうな金髪に、甘いマスクの線の細い男性である。
リリアナは個性が全く正反対の2人が護衛騎士なんて面白いなと思った。そんな護衛騎士の2人に挨拶し微笑むと、横でサラがゴホンと咳払いをした。
「何てす?2人ともだらしのない顔をして!シャキッとしてくださいませ!ジャックも、その挨拶はふざけているのですか!リリアナ様は次期公爵のユーリス様の奥様になられるのですよ!」
サラがヘラヘラとした態度の護衛騎士の挨拶に不満があるのか叱咤すると、ジャックが笑って答えた。
「申し訳ありません、リリアナ様。次期公爵として日々精進している生真面目なユーリス様が、仕事も手につかない程、夢中なご婚約者様がこんなに儚げで清楚な雰囲気の女性だったなんて驚いてしまってーーー」
「ジャック!あなたって人は!」
反省するでもなく、リリアナをからかうジャックにサラの激が飛ぶ。
ーーージャックは口が上手いのね
初対面の場を和ませるための軽口だとリリアナは、ジャックの言葉を軽く流した。後日それが身に染みて実感することになるとも知らずに。
そして、サラもリリアナに一言あるらしく、真面目な表情でリリアナに向き合った。
「リリアナ様も、しばらくの間なんて謙遜ならさずにお願いします。こちらは、次期公爵夫人のお使いになられますお部屋でございます。ユーリス様ご自身で、ご婚約者様であるリリアナ様のために家具やカーペット、調度品に至るまでお選び抜いたお部屋となっております」
「え?ーーー今回は緊急避難的な滞在と聞いているのだけど?」
サラから割り当てられた部屋の意味を聞いて、改めてこの部屋を使っても良いものか考えてしまう。
「ユーリス様とリリアナ様のご婚約は先日まで確定はしていなかったものの、随分と前から公爵家内では、婚姻への準備が着々と進んでおります。なので、滞在期間に関わらず、正式なご婚約者になられたリリアナ様がお使いになられるのは、こちらの部屋以外にはございません」
ーーー嘘でしょ…。そんなこと聞いてない…
リリアナがびっくりして立ち尽くしていると、サラがリリアナに割り当てられた部屋の中へ案内してくれた。騎士2人も興味あり気に部屋の中を覗き込むと、サラに思いっきり部屋の外へ追い出されてしまった。
ーーーサラは騎士にも強い態度がとれるのね。逆らわないように気を付けなきゃ
リリアナが使用人の上下関係を確認しつつ、部屋の中に足を踏み入れると、メイルズ男爵家の自室とは比べようもないお洒落な空間が広がっていた。
「ーーここは、美術館か何かかしら?」
リリアナがそう思わず呟いてしまうほど、部屋の中は洗練された家具や調度品が置かれている。ぎらぎらとした成金主義の物はなく、各々が調和を保ちながら最高級の品位を放っている。リリアナがチェストに置かれた、アンティークの置時計を感心しながら見ていると、サラはとても嬉しそうに部屋の紹介を始めた。
「お気に召されましたか?ユーリス様がリリアナ様はあまりに華美な物は好まないと仰り、品位のある落ち着いた雰囲気のお部屋作りを目指していらっしゃいましたーー隣の部屋は衣装部屋でーーー」
「ちょっ、ちょっと待って!この衣装類は一体?!」
「こちらはリリアナ様のドレスとアクセサリーでございます。こちらもユーリス様が、リリアナ様のためにご指示を出され揃えられたものです。もちろん、リリアナ様のお気に召すものがなければ、ユーリス様から仕立て屋を呼ぶように言われております」
「公爵家はお金にゆとりがあるって知ってはいたけど、理解はしてなかったのかも…」
リリアナは金銭感覚だけでも慣れるのに一苦労するなと改めて感じ、深いため息をついた。




