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 ーーーなせここに…?


 魔獣に襲われかけた林から避難すると聞き、リリアナは当然メイルズ男爵家の屋敷に戻るものだと考えていた。しかし、アークはリリアナとは考えが違ったらしい。アークの転移水晶によって、パトリックとリリアナが連れてこられたのは、リリアナが予想していなかったところだった。

 リリアナは、帝国内でも最高級だとすぐにわかる調度品が並ぶアークの執務室に転移したのだ。


 ーーーここって、帝都のリーフェンシュタール公爵家の屋敷よね…


 アークの学園入学の前、帝都のリーフェンシュタール公爵家の屋敷にお邪魔した際に、新たに執務室を与えられたのだとアークに連れてこられた記憶がよみがえる。リリアナは帝都の屋敷へ連れてこられたことに疑問に思いながらも、きょろきょろと辺りを見渡した。


「ユーリスお坊っちゃま。おかえりなさいませ」


 ーーーっ!!誰かいる!!


 全く気配を感じていなかった背後から声をかけられ、アークの腕に抱き抱えられていたリリアナは、驚きのあまり、うっかり悲鳴を上げるところだった。


「セバスチャン、リリー姉さまが驚いてしまったよ。気配を隠すのも程ほどにね」


 驚いたリリアナを目にしたパトリックが、姿を現した初老の老人に声をかけ、たしなめた。


 ーーーセバスチャンって!!


 リリアナは久しぶりに耳にする名前に懐かしさを感じた。セバスチャンは、リーフェンシュタール公爵家に代々仕える執事の家系であり、数年前に引退し、息子に後を次がせていたはずの人物である。リリアナとは、ここ何年も顔を合わせていなく、すっかり年を重ねたリーフェンシュタール公爵家の執事だとは気がつかなかった。


「これはこれは、失礼をいたしました。リリアナお嬢様、お久しぶりでございますーーーおや?少しばかりリリアナお嬢様のお召し物が汚れていらっしゃいますね。ユーリスお坊っちゃま、いかがなされましたか」


 セバスチャンは、挨拶早々に乱れた衣服のリリアナを心配してアークに訊ねた。


「先ほど、カルラ・ルカが反応したためリリアナの元に転移した。リリアナはメイルズ男爵領の林にいてね、そこでメイルズ男爵領ではいないはずの魔獣に襲われかけていた。とりあえず、経緯がわかるまで、リリアナはリーフェンシュタール公爵家で過ごしてもらうことにした」


 後で、父上に報告しなくてはねーーと、アークは言うと、セバスチャンにリリアナの部屋と着替えの準備を指示した。


 ーーーいやいや…私の意思確認は?


「ーーあのー、アーク?私は自分の屋敷に戻らせてもらえないの?」


「今回の襲撃について、詳しいことが判明するまでは、リーフェンシュタール公爵家で過ごした方が安全だ。メイルズ男爵家の警備もしっかりしているが、こっちには私設騎士団もあるからね」


 アークの言うことは最もで、皇族に次いで高貴な立場の公爵家は警備も厳重である。ただ、リリアナにも譲りたくない事情もあるのだ。


「でも、もうすぐお姉さま達のご結婚もあるのよ?学園に入学する準備もあるし。家族水入らずで過ごす最後の夏なのに」


 メイルズ男爵家は帝国内の貴族の中で弱小貴族ではあるが、領民や家族の結束は強い。お祭りや町おこしのイベントなど一丸となって取り組んできた。そんな家族や領地と離されるのは、リリアナは不満だった。

 それに、リリアナの姉達の結婚式が済むと、姉達は婚家で過ごす事が大半になるであろう。男爵令嬢のリリアナが今後、姉達の婚家である侯爵家や伯爵家といった上級貴族に会いに行くのは敷居が高い。ゆっくり家族で最後の長期休暇を過ごしたかったのだ。


「確かに、レベッカ嬢やメアリー嬢と過ごす機会は、彼女達の結婚を期に減るかもしれないね。だけど、今はリリーの命の安全を優先させてほしい。俺は、魔獣に襲われかけていたリリーを見たとき、生きた心地がしなかった。どうかわかってほしい」


「兄上の言う通りだよ。今日は足首の軽い怪我で済んだけど、兄上が助けに来なかったら、大怪我や命の危険もあったんたからね…」


 アークとパトリックに説得され、リリアナは渋々引き下がる。リリアナも本当のところは2人の言うことが正しいと分かっているのだが、突然の生活を一変させる事態に心の整理がつかないのだ。


「先ほど、メイルズ男爵にはリリーが公爵家に滞在する旨を連絡しておいた。追って、リリー専属のメイドもこちらに派遣するよう要請したから、とりあえず部屋で休んでいて」


 ーーーカナをリーフェンシュタール公爵家に呼び寄せるの?


 メイルズ男爵家の専属のメイドまで呼び寄せるとは、もしかしたら今回の襲撃事件を調べるのは時間がかかるのかと不安になった。リリアナを罠に嵌めた犯人の背後には、大きな存在がいて、アークは何か知っているのではないかとリリアナは思った。

 

 とりあえず、アークの指示でリリアナは公爵家の部屋を与えられ休むことになり、公爵家の侍女サラが呼ばれた。リリアナよりも少し歳上に見えるサラは、とても柔らかな物腰の女性で、公爵家の滞在中リリアナの専属とされた。



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