夏休み(空編)同窓会 遊離視点
俺はお婆ちゃんから事情を聞いた。それは空の中学校の同窓会らしい。それだけだと聞こえは良いが、実際は違った。空はイジメられていのだ。その強すぎる力を制御できずに同級生を傷つけてしまったそうだ。幸い大事には至らなかったが、同級生たちはみんな空を怖がり避けるようになった。それだけでは飽き足らず同級生は空に対して酷い仕打ちをしだした。
靴に画鋲を入れられたり、教科書に落書きされたり、靴を隠されたりというスタンダードなイジメから始まり。石やゴミを投げられたりして傷を。心と体に。その少女は三年間耐え切った。それを知りながら、同窓会の誘い。ちゃんちゃらおかしい。これもイジメの延長なのだ。これをきっかけにイジメられた日々を思い出すも良し。実際に参加して孤独にさせるも良し。それを考える連中は人として大切な何かを失っているように思う。俺は空とお婆ちゃんに悲しい思いをさせるこいつらが。顔は知らないこいつらが憎かった。どうにかしなければならない。俺は考えた。同窓会は明日の午後七時から。じゃあ、空には遅れて来させよう。俺はその旨をお婆ちゃんから空に言うように頼んだ。もちろん、俺が一枚噛んでいることは秘密にしてもらった。お婆ちゃんは心配していたが大丈夫。きっと上手くいく。そして、空もお婆ちゃんも中学生の同級生たちも救われる大団円を作る。俺はお婆ちゃんからお爺ちゃんの祭りの服を借り、狐の面を付けた。変装はこの程度で良いだろう。俺は計画の成功を祈りながら、朝を待った。
いやぁ、やはり空は強い。せっかく借りた服がボロボロだ。お婆ちゃんにはなんて謝ろう。俺は考えていた。ひとまず何事もなかったかのように空の家で待ち構えないとな。俺は急いで家に向かった。今頃あそこでは長年の蟠りも一掃され、大団円になっているはずだ。俺は計画は無事に成功したと思った。空や彼らに必要だったのは明確な悪。それも力を合わせないと倒せそうもない悪だったのだ。それをただ俺が勝手に買って出た。全く損な役回りだ。痛いし、きついし良いこと無しだ。でも、胸には確かな満足感があった。これがあるから、人助けはやめられない。こんなねじ曲がったことしてたら、いつか痛い目を見ることだろう。それもそれでありだと思う。
「ただいま。今、帰ったよ」
「おかえり。遅かったね」
そう言って家に入ると空が言っていた。あれ、なんで。今頃仕切り直しの同窓会が開かれていることだと思っていたのに。俺の予想は見事に外れていた。
「その、悪い。急に散歩したくなってな」
あははと笑う。誤魔化せたらいいなと淡い期待を込めて。
「そんなことじゃ誤魔化されない」
そう言う空は俺の格好を見ていた。狐面を首から下げ、ボロボロの和服を着ていた。
しまったぁ、完璧にバレちゃったやん。俺は自分の詰めの甘さが嫌になる。
「いや、そのなんだ。これはそこで拾ったんだよ。俺急いで全裸だったからさ。助かったよ」
言い訳すればするほど俺は惨めになっていた。
「ばかぁ…///」
そう言って俺の胸におでこを当ててきた。えっ、許されたの俺。
結構酷いことをしたはずだ。ちゃんと自覚がありますよ、私は。
おぉっと一人称が変わっちまった。
「えぇっと、これはいったい」
戸惑いを隠せない。なんて言えば正解なのか。教えて神様。
「遊離はずるい。いつもいつもカッコつけて」
空の猫なで声が俺の脊髄をバーストさせる。うわわ、こそばゆい。
「その…怒ってない」
「怒ってる。でも、それ以上に好きが抑えられない」
なんだ、この会話は。俺に死ねと言っているようなものだ。体が熱い。燃えるようだ。
「これはお礼」
その言葉と共に空は腕を俺の頭の後ろに回し、唇を重ねてきた。しかも結構長めに。
「んぅ…はぁ。あと、これもお礼」
その言葉よりも拳が早かった。ごすっと俺のお腹に重い拳が入った。
「いってぇ…」
俺は悶絶してしまった。さっきの拳よりも重かった。
「遊離が悪い。遊離が」
まるで言い訳をするように何度も俺が悪いと言う。はいはい、今回は全面的に俺が悪いですよ。否定はしません。
「ごめんなさい」
俺は謝った。その言葉を聞いて空は良しと頷いていた。
許してくれたのか。俺は顔を上げた。
「私を妻にしてくれたら許す」
許されなかった。
それから空は俺とお婆ちゃんをこっぴどく怒られた。お婆ちゃんはとても嬉しそうな顔をしていたが。それに俺の格好を見たからバレたわけではなかったようだ。服を切り裂かれた時の体の傷。それを見て空は確信したようだ。まさかあの時の風呂が敗因だったとは。さすがの俺でも予想が出来なかった。
「それにしても良かったのか。折角仲直りのチャンスだったのに」
俺は空に尋ねる。あれだけのことがあれば人は改心すると思うが。そんな俺に空は屈託の無い笑顔で答えた。
「いらない。私は遊離がいてくれればそれでいい」
俺は恥ずかしさのあまり空の顔が見れない。そんな俺の表情で空は恥ずかしくなったのか急に「出て行け!」と言った。あぁ空も恥ずかしいことがあるのね。もしかしたら、昨日の一件も含まれているのかも知れないなと思った。
「はいはい、出て行きますよ」
俺が素直に言葉を聞き入れると空は俺の裾を掴んできた。
「その、ごめんね。学校が始まったら、大丈夫だから。だから」
今は駄目らしい。女の子の心はとても繊細なのだ。図太い俺には理解出来ないことがあるのだろう。俺はそんな空に笑顔で答える。
「おう。また学校でな」
俺の言葉に空は満面の笑みを浮かべていた。




