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第5回(女神様は彼と遊ぶ・その5)

「なにおぅ」

 両の掌を頬の両側で広げた格好のまま、女神様がきっとこっちを睨みます。違うよ、風ちゃんの気持ちを代弁したんだよ。なんか目を真円に見開いて口を×の字に結んで固まってるけど、風ちゃんが今なんか返すとしたらきっとこんな感じでしょ?

「むぅ。納得はいかないけど反論できない」

 女神様はがしがしと頭を掻きながらぼやきます。緩く波打ち、背中の半ばを過ぎるほど長く豊かで、反射じゃなく正味放射によってその金色こんじきを知らせる髪が、蛍は淡緑だけど女神様の髪は金色の冷たい光を出すんだね。暗い所で見ると宵明けの明星を柔らかく溶いたような、はっきりと目を射るんだけど眩しくない感じに輝いて、そんなとっても素敵な金髪なんだから女神様、もっと扱いには気を遣おうよ。がしがしーっとか、傷んじゃいそうでこっちがハラハラするっしょ。

「ぬぁ」

「にゅ?」

 ん? いま風ちゃん、再起動しかけなかった?

「しかけたよ」

 実際、声が漏れただけじゃなくて表情も変わってます。単純な記号に代替され人間味を失ってたそれが、今じゃ口は“あ”の形に開きかけ両目は若干飛び出し、そもそも風ちゃんあんなに眉が濃かったはずないんだけど明らかに増毛してる。その隆眉がそれを動かす筋肉の限界を超え額に鋭く立ち上がり、よーするに無から有へあまり極端に表情を変え過ぎて結局また人間味を無くしています。女神様がうんと両手を伸ばし、風ちゃんの両肩にかけました。おーい、ゆさゆさ。それでもやっぱり、風ちゃんにこれ以上の変化は現れません。風ちゃんの中で今どんな作家が懊悩してるんでしょう。まぁ、様々な可能性を脳裏に渦巻かせた挙げ句、結局の所は“ぬぁーにしやがんだ”等々、その辺に落ち着くに一票。

「んー。あんまり詰まってるようだとただ事じゃないかも」

 女神様はちょっと心配そうに言いながら、親指と人差し指とで既に剝ききってる風ちゃんの目を更に開かせようとしています。女神様は上手に展開できたのにね。

「そりゃ宇宙帆船に出来てエレちゃんに出来ないなんてこと無いでしょー」

 風ちゃんの顔をあれこれしながら事も無げに言います。あ、今更だけどさっきのあれ、動画に撮っとけば良かったなぁ。で、ネットに公開して、真似してみたよーって twitter で当の宇宙帆船に無茶ブリすんの。

「…ぬぁーんてことは勿論やらんよな?」

 ぞぞぞ。なんか風ちゃんが突然復活したっ。しかも目が恐いっっ。きゃーっ。

「おらっ! 散るな! 逃げるなっ!」

「わたたっ。いきなり動いちゃヤダよ」

「そっちはそっちで人の肩摑まえて何やってやがんだ、バカ女神」

 くっ。“バカ女神”しか当たらなかった。

「いーからちょっと摑まらせてよ。腹筋と背筋だけでずっと体支えてるなんて、エレちゃんでも無理だよぉ」

 情けない声と表情で女神様は懇願します。文字による伝達の弱点として一度に複数の状況をお伝えできないとゆー根本的な問題がありますが、現在の女神様の姿を遅ればせながらきちんと描写させていただくとですね、上半身だけをこの場に現して虚空に浮遊静止し、床にその両手は届かず、だから顔を風ちゃんに向けようと思ったら確かに上体を腹筋と背筋の力のみで支えなくちゃいけません。え? 何をぽかんとしていらっしゃる。だってあの虚空に開いた穴からずっくんずっくんって這い出てきた物体X=四角柱の、その大部分がもももももって回転して遠心力展開したのが女神様の上半身なんですヨ? 現に女神様のウエストの辺りを見ると、ほら、あの卵割みたいって言った溝ですよ、その細く深い溝を隔てて薄い板切れみたいな物が、今はもうこれは女神様の下半身の一部なんだって想像がつきますが、これがまだ虚空に開いた不可視の狭い穴に四角く圧縮されて詰まってるみたいです。女神様ってば、全部こっちに出てきてから元に戻れば良かったのに。

「うーん、ちょっと一休みさせて。この技すっごい疲れるんだよぉ」

「ちょっ」

 風ちゃんが慌てます。女神様が風ちゃんの両肩を摑んでた手にぐいっと力を入れて、風ちゃんを引き寄せたからです。そうするなり風ちゃんの首に抱きついた女神様は、風ちゃんの右肩にこてんとおでこを乗っけました。前のめりになった風ちゃんは右手を床に、左手は女神様の背中に反射的にかけてしまい、うっと固まります。ちょっとー。なになになんなのー、このラノベ的展開はー。

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