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12月5日 其の一 霊界警察極秘ファイル

 十二月五日。

 桃井もこが、私の前に現れた翌日の朝のことだ。

「桂さん、桂さん、起きてください」

「んぅ……」

 ベッドで寝返りを打とうとした私の肩を、ぐいぐいと引っ張る何かを、

「うっざぁーい!」

 と大声で叫んで、まどろみの中でバシン、と振り払った。

「……………………」

 ややあって、ボンヤリとして働かないでいる頭が、少しずつクリアになっていって、ようやく私は完全に覚醒した。

 体を起こすと、何故か私の家に桃井もこが居て、しかも何故か縮こまって震えていた。

「もこぴー……」

「あ、桂さん……もう、大丈夫でしょうか……」

 何がだ。

「ていうか何でここに居るの、もこぴー」

「何故かと問われれば、それはやはり、計画の完遂には協力者の存在が不可欠とマニュアルに書いてあったので、桂さんに強力な協力を求めようかと!」

「私に?」

「はい!」

「私のただの同級生だった混野ろり雄がロリコンから脱却するための協力を?」

「そうです!」

「どうやって?」

「それはマニュアルに書いてあります。読み上げましょうか」

「それって、大丈夫?」

「何がですか?」

 極秘のマニュアルを部外者に、しかも霊界の人間ではない私に見せるのは、ある種危険な行為なのではないか、と言ってあげた方が良いのだろうか。

「……あった。このページです」

 とにかく、私は桃井の差し出したマニュアルに目を通した……。


  ☆


〈注意点〉

 もしも、該当者に児童に対する直接的な性的虐待が認められた場合、すみやかに課長以上の者に報告し、以降はチャイルド・マレスター根絶課か、現世の警察等に引き継ぐこと。


〈更生方法の例〉

 該当者の性的対象を特定し、その者に一時的な消滅の呪いをかけることで戒めとし、幼女を偏愛する性質の改善に繋げる。この時、罪の有無にかかわらず、性的対象となった者を消滅の呪いをかけるのだが、必ずそれを事前に告知すること。

 場合によっては、性的対象者の精巧なニセモノを使うこともあるが、その場合は必ず事前に課長以上の者へ申請すること。その場合でも、安全確保の観点から性的対象者本体には一時的に消滅してもらうことになる。この時、霊界に消滅した者を招き、丁寧な対応をすること。

 そして、該当者の更生後に、消滅者を復活させた時には必ず、消えていた時、つまり霊界で過ごした時間の記憶を消去すること。


〈更生手順の例〉

 まず、ロリコンである該当者の周囲の人間関係を調査し、ごく近しい人間、もしくは被害者本人に接触する。協力者の存在なくして、計画の完遂は困難である。この時、自らが霊界警察の者であるなどということは、決して口にしないように――――


  ☆


 ……と、そこまで読んだところで、

「げ、今気付いたんですけど、霊界警察って名乗っちゃいけないそうです! この極秘ファイルに書いてありましたっ。ここ、見てください、ここ」

 桃井はそう言って、私に文章の一部を指差して主張してきた。

 そこで私は言ってやる。

「……あのね……その極秘ファイルを私に見せるかな、普通」

「あァッ! 見ないで下さぁい!」

 桃井は、ばたりこっ、とファイルを閉じて、その勢いで発生した風が私の前髪を揺らした。

 何なのこの子……。

「それで、その極秘ファイルってのには、私にどうしろって書いてあるの?」

「さぁ……何も……」

「はぁ?」

「協力者が必要とは書いてあるんですけど、それについての具体的なことは何も書いてない……」

「で、もこぴーは私にどうしてほしいの?」

「とりあえず、あたしと一緒に行動してください!」

「何で私がそこまでしなくちゃいけないのよ」

「え」

 なんか、悲しそうな表情になった。

「私にだって、仕事とかあるのよ。あんなロリコン男にかまけてる余裕なんて無いんだから」

 そうだ、大学生である私は午前中は講義を受けなければならないし、午後からアルバイトだ。こんなわけのわからないもののためにそれらの用事をサボタージュするわけにはいかない。

「そんなぁ……じゃああたし、どうすれば良いんですか……」

 知らないです、そんなこと。




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