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12月4日 其の二 新米桃井のロリコン根絶計画

 で、再びやって来たのは、彼、混野ろり雄が一人で住むマンション。

 エントランスのインターホンを押してみたものの反応が無い。どうやら居留守を決め込むつもりのようだ。

「出ないの?」と桃井もこ。

「そうみたい」私は答える。

「ここは、あたしに任せてください」

 桃井もこは言うと、ふわふわと空中を歩き、ガラス戸をすり抜けた。

「なっ……」

 私の驚きの声をあげる様子を見て、得意そうに笑う桃井もこ。

 やはり彼女は幽霊のようなものらしい。

 ともかく自動扉が開いたので、私は、そこを通り抜けた。

「すごいわね」

 私は素直にそう思っていた。

「いいえ、普通です。半霊体のあたしとしては普通のことです。あ、半霊体というのはこういう、物質を通り抜けることができるっていう便利なものなんですよ。でも、半霊体になる条件っていうのがごくごく稀で、霊界にもあまり居ないので、自慢なのですよ」

 稀なのであれば普通じゃないじゃないか、と思ったのだが、ツッコミを入れたら泣きそうな儚さを持っているような気もするので、やめておこう。

 私たちはエレベーターに乗って、六階へ。

 そして彼の部屋の前に着いた。

 そして、インターホンを押すが、音が鳴っても反応が無い。

 居留守を決め込むつもりらしい。

「では、通り抜けて鍵を開けますね」

「うん、お願い」

 そして、ガチャリ、と音がしたので、扉を開けてみる。

「混野ぉ!」

 呼んでみるが、反応がない。居ないのだろうか。

 だが、居ようが居まいが関係ない。

 私のそばには今、まがりなりにも警察と名の付いた権力の存在があるのだから。

 私は靴を脱いでドタドタと上がりこみ、桃井もこも地に足を付け、ぱたぱたと部屋の中に入った。そして、混野の秘密の部屋の扉を開け、入ると、その中心のデスクに混野は居た。

「混野! 居るんだったら返事くらいしなさいよ」

 私がそう言うと、

「なっ……ど、どうやって入ってきたんだ……」

 驚きの表情を向けた。しっかり鍵を掛けたはずだ、という顔だった。

「桃井さん。これが最悪のロリコン、混野ろり雄です。そして、部屋中に貼られているのが、被害者の方の写真です」

 私が言うと、写真を見つめた桃井は、

「……ふむ……時田まこと、十六歳。女子。英輝えいてる学院女子高校二年六組。帰宅部」

 と、写真の彼女の情報らしきものを口にして、さらに、

「あ、驚かないでください。実は、これは霊界警察に与えられる特殊能力で、顔を見ただけで名前と年齢と所属機関がわかるんです。正確に言えば、目を見ればわかる、なんですけど」

 聞いてもいないことまで喋ってくれた。

「彼女のことを、よく知っているのか? もっと教えてくれ!」

 今度は混野の目が爛々と輝き出した。どうも混野は自分の立場というのをわかっていないらしい。私の訴えによって、混野は今にも霊界警察の手で逮捕されようとしている状況なのに、その捕まえに来た霊界警察の桃井に、逆に質問なんてしていた。

 すると桃井は、またしてもどこからか取り出した『マル秘! 持ち出し禁止!』と表紙に書かれたファイルをぱらぱらとめくり、

「えっと、こういう場合は……あった。こほん」

 咳払いし、天井に向けて立てた人差し指をくるくると回しながら、

「えー、混野ろり雄さん、それは教えられません。何故なら、あなたが時田まことさんを好きでいることは、ロリコンだからです。ロリコンは犯罪的です。病気です。重大な犯罪に繋がるケースも多いです。なので、あたしたちはそれを根絶しなければなりません」

 とか言った。

「ねぇ、桃井さん」

「何でしょうか、桂さん」

「さっきから、そのファイル見てるけど、『マル秘! 持ち出し禁止!』って書いてあるのに、良いの?」

「いいえ、本当はダメなんですけど、新米なものですから!」

 どん、と自分の胸を叩いて言った。

 誇って言うことじゃないと思う。

「混野、要するに、時田まことって子のことは諦めなさいってことよ」

 なかなかはっきりとした言葉を使わない桃井の代わりに、私がそう言った。

「そうですそうです」

 相槌を打つ桃井。どっちが霊界警察から来たんだかって感じだ。まるで出来の悪い部下のフォローをする上司にでもなった気分だ。

「まことちゃんのことを諦める……? そんなの、無理だ。そもそも、俺はそこまで重度のロリコンではないじゃないか。まことちゃんは十六歳だし、俺なんかよりはるかにロリコンのペドフィリアでチャイルドマイスターな奴らは大勢いて、そっちの方が問題なんじゃないかな」

 チャイルドマイスターって何だよ。

 ロリコンのプロか何かだろうか。

「言われてみると、確かにそんな気もします」と桃井。

「こら、口車に乗せられちゃダメ。時田まことって子が重度のロリなんだから混野は重度のロリコンだ、くらい言いなさいよ」

「は、はい。そうです。今、桂さんが言った通りです」

 大丈夫なのかな、この子……。

「それで、具体的にどうするんだっけ?」

 私は、彼女の言いたい言葉を引き出そうとする。

「えっとですね……」

 桃井は、またしても極秘ファイルを取り出して、確認した後、びしっと混野を指差し、

「あなたが時田まことへの恋心を捨てないならば、時田まことは消滅するでしょう」

 と言った。

「はっははは、そんな馬鹿な」

 混野は信じていない様子だった。





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