第四話 生命は巡る
俺たちはウララの背中にまたがり、レイナの跡を追っていた。
「うわー……きれい……ねぇ、ぜあん……あれ何?」
暗い海底に、骨に包まれた無数の光が明滅していた。青白い光が暗闇に浮かび、海底を淡く照らしている。
「あれは……村の皆だよ」
「えっ……みんな?」
「ああ、俺たち人は死んだ後、血肉は魚に食われ、残された骨は丸くなり、体内にある発光器官の光玉がああして海を照らす」
「そうなんだ……」
メルンの声が沈む。
「別に悲しむことはない。命は巡り、やがて俺たちの体の一部となる。俺たち人はそうやって何万年もの間、海の中で生きてきたからな」
「ぜあん……それでも……生きていたほうがいい」
「……そうだな」
メルンの言う通りだ。
奴らの目的は分からないが、手遅れになる前にレイナを助けないと。
「ウララ、水中に浮かぶ、光の玉を辿ってくれ!」
「グォッ!」
この巨大な海蛇は俺の言葉も一応は理解しているみたいだ。ただ、今の反応が“はい”か“いいえ”かは分からなかった。
「ぜあん、あの光る玉は?
何で浮いているの?」
「ああ……あれは……」
正直、メルンには説明しづらいな。
「ぜあん?」
振り向くと彼女の純粋な赤い瞳が、
好奇心で満たされていた。
「わかったよ。言うよ。
あれは標だよ……海獣の骨に光玉を詰め込んだものだ。恒久的に光を放ち、街までの道筋を照らしてくれている」
「えっ……なんで……骨?」
俺の腰に掴まるメルンの腕に力が籠る。
「俺たちの肌や骨もそうだけど、海獣の骨は周囲の影響を特に受けにくいんだ」
「なら……メルンも死んだら……ああなるの?」
「そんなことはさせない!」
「えっ……ダメなの?
あれ、きれいだから、メルン、死んだ後は……らんたんになりたい」
なんだよ、そっちかよ。
てっきり恐がるのかと思った。
さっきは生きていた方がいいって言ってたクセによくわからんやつだ。
「それで、この暗い世界を照らすんだ……」
「メルン……」
思わず彼女の顔を見つめた。
まさか、俺と同じ夢を語る奴がいるなんてな。
.。o○
俺たちは海底のうち捨てられた貝家の残骸の中で休息をとっていた。
メルンが一息吹くと、海水で満たされた室内に空気が充満する。
やっぱりこの子、本当に海獣なんだな。
貝家は海獣の骨を編んで作られている。
骨は空気を生成、維持するが、こんな穴だらけのボロ屋だとそれも難しい。
それをたったひと息で……
「これだけあれば一晩は保つか……」
「ぜあん……どこに向かってんの?」
「ああ、要塞都市ベルグだ」
「よーさいとし?」
「巨大な貝城塞に囲まれた街だよ」
「ふむふむ……わからん」
「まぁ、おっきな街ってことだ」
「うん! メルン……街は初めてかも!」
「それはよかった」
メルンは楽観的だな。
軍隊を保有している街はここいらじゃベルグしかない。たぶん、レイナがいるのはそこだろう。
「……火をつけるね」
メルンの手のひらの表皮が浮き出て小さな岩石……いや、火石が生成される。
「メルン……もしかして、お前がいれば大金持ちになるんじゃないのか?」
「ほんとうか?
メルン……お金持ち……やった!」
「少なくとも、旅の足しにするには十分すぎるな」
「まだまだ出せるぞ!」
メルンは火石を際限なく生成し始める。
「まてまて……今はそんなにいらないって。
それにそんなに出して大丈夫なのか?」
「大丈夫……メルン……天才だから」
「はいはい」
やっぱり海獣ってのは根本的に俺たち人とは構造が違うんだな。
.。o○
メルンが寝静まり、ウララが周囲を見張ってくれた。
貝家の外では、海流が骨の隙間を抜け、低い音を立てている。
海流の音だけが響く中、ふと、現実が襲ってくる。
……レイナ……
英雄と呼ばれたザクトがどうして彼女を連れ去った?
あの場で殺されなかったのは何でだ?
「ぜあん……」
メルンが俺の膝で涎を垂らしていた。
ったく、幸せそうな顔して寝やがって……
大丈夫……レイナもメルンも俺が守るから。
震える手でメルンの頭をそっと撫でた。
.。o○
俺たちは数日掛けて点在する標を辿った。
そして、巨大な貝城塞に囲まれた、
要塞都市ベルグに到着した。




