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第10話:竜脈


 目が覚めると、僕はカイルの部屋の大きなベッドの上にいた。

昨日、カイルの背中で眠ってしまってから、そのままお部屋まで運んでもらったみたいだ。たっぷり眠ったおかげで、あたまの芯がすっきりと軽い。


「あ、アレン。起きた? おはよう!」


 ベッドの横でマフラーを巻き直していたカイルが、へらへらとしたいつもの笑顔で僕を覗き込んできた。

僕はカイルの顔を見ると、なんだか昨日の涙を思い出して少し恥ずかしくなり、プイッと横を向いてから、ガリガリとノートに文字を書いた。


『おはよう、カイル。十分な睡眠により脳のエネルギーは完全に回復した。……それで、今日は何をするの?』


脳内でも『 カイルのばか、じろじろ見るな。……で、どこか行くの? 』と、ツンツンしながら聞いてみる。

カイルは僕のノートを見ると、「へへ、アレンが元気いっぱいで嬉しいなぁ!」と顔を緩ませてから、あたまの中にちょっとだけ真面目な声を響かせてきた。


『 今日はね、アレンに里の一番大事な場所を見せてあげようと思って。おひげの長老ガイエン様たちもそこで待ってるからね 』


カイルにおんぶされて部屋を出て、里の最奥にある巨大な地下空洞へと向かう。

 そこは漆黒の岩肌に囲まれた、ものすごく広い空間だった。その中心には、見上げるほどに巨大な、大樹のような形をした『竜脈の結晶』がそびえ立っている。

だけど、その結晶はなんだか全体的に灰色っぽく濁っていて、元気がなさそうに微かにチカチカと点滅していた。

 結晶のふもとでは、長老のガイエンや、バザルおじいさんが、大勢の術師たちと一緒に難しい顔をして頭を抱えている。


「ううむ……やはり竜脈の乱れが収まらん。このままでは里を結界で隠し続ける魔力が底を突いてしまうぞ……」


おひげのガイエンが絶望したように口を動かしている。


(……なにあれ。あのでっかい石、すごくイライラしてる。流れがめちゃくちゃで、詰まってて、すごく非合理的)


 耳の聞こえない僕には、みんなが何を話しているのかは分からない。

だけど、僕の「目」には、結晶のまわりを流れる目に見えない不思議な「力」の川が、あっちこっちでぶつかり合って、ぐちゃぐちゃに渦を巻いているのがはっきりと見えていた。あのぐちゃぐちゃした流れを見ていると、なんだかあたまがムズムズして落ち着かない。


 僕はカイルの背中からトッと地面に降りると、トコトコと結晶のほうへ歩いていった。


「あ、アレン様!? 危ないですから近寄っては……!」


ガイエンが慌てて声をあげるけれど、僕は無視した。

結晶の根元にたどり着いた僕は、ぐちゃぐちゃに絡まった川の「結び目」のような場所に、小さな手をそっと伸ばした。

 ただ、あたまのムズムズを直したくて、その結び目をツン、と指先で突っついて、綺麗に流れるようにほんの少しだけ動かしてあげたんだ。


 その瞬間――ゴオォォォォンッ!!!と、地響きのような澄んだ音が空間全体に響き渡った。


灰色に濁っていた巨大な結晶が、一瞬にして、目の眩むような美しい無色透明の光を放ち始めたのだ。

ぐちゃぐちゃだった力の川が一斉にまっすぐ整い、ものすごい勢いで里全体へとサラサラと流れ出していく。結晶はさっきまでの元気のなさが嘘のように、ピカピカと力強く輝きだした。


(よし。綺麗に流れた。すっきりしたぞ)


僕は満足して、いつものようにノートに文字を書いた。


『カイル。この大きな石は中の配管が詰まっていたから、ぼくがちょっとお掃除して直してあげた。これで大丈夫だ』


脳内でも『 カイル、なんか詰まってたからポンって叩いたら直ったよ! ぼく、お掃除じょうずでしょ! 』


と、いっしょうけんめい得意げに威張ってみせる。

だけど、まわりの大人たちは、誰一人として動かなかった。


 長老のガイエンは、持っていた杖をガラガラと地面に落とし、おひげを震わせたまま口をあんぐりと開けて固まっている。バザルおじいさんも、目玉が飛び出そうなほど目を見開いて絶句していた。

 一族の天才術師たちが何日もかけて直せなかった里の命綱を、わずか6歳の、魔力すら見えないはずの子供が、文字通り「指先ひとつ」で完璧にコントロールして直してしまったのだ。


「な、なんという……なんという天才……! いや、これぞまさしく、世界のすべての力を従える、次代の最高神の御力……っ!!」


 ガイエンがガタガタと震えながら、その場にバッと膝をついて僕に平伏した。バザルも「ハハ……ワシの度肝を抜きおって……!」と、圧倒されて言葉を失っている。

 僕はみんなが急に地面にハハァーッて跪きだしたのを見て、あ、またいつもの勘違いだ、と呆れて顔を真っ赤にした。

大慌てでカイルの足元に駆け寄って、彼のマフラーをぎゅっと握りしめて引きこもる。


『 ……みんなまた大げさに勘違いして、おばかさんだ! ぼくはただのトカゲ族のお掃除担当なのに! カイル、みんながこっちを見てるからお部屋に戻るぞ! 』


 脳内で恥ずかしそうにギャーギャー怒る僕を、カイルは「あははは! さすがアレン様! 世界一かっこいい!」と、誇らしげに抱き上げるのだった。


 自分がどれほど規格外の才能を見せつけたのか、僕はまだ何も知らなかったけれど、おひげの長老たちが完全に僕に脱帽したことだけは、なんとなく分かった。

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