古代魔力炉の正しい使い方
裏山の爆発事故の翌日。
地下の最奥では、アルテがクマの出来た目で、青く輝く永久魔力炉の前に立ち尽くしていた。
傍らには、数冊の手帳が散乱している。
「おかしい……解読の鍵を使って裏コマンドの第一段階は解除できたのに、そこから先の術式展開がロックされている……。これを解除しないと、魔力炉の全出力を引き出せないのに!」
アルテは髪をくしゃくしゃに掻きむしり、ブツブツと早口で呟く。
「まさか国家機密級プロテクト? 王家の血統認証か、それとも特定魔導言語の詠唱? 一体どんな厳重なシステムが組まれているの!」
そこへ、ニナに「塩を撒くぞ」と脅されて地下の掃除をさせられていたジジイが、ぷかぷかと浮きながら通りかかった。
「ひひひ、アルテちゃんは相変わらず真面目じゃのう。そんな難しい顔をしておると、せっかくの綺麗な顔にシワが寄ってしまうぞう?」
「喋りかけないでスケベジジイ! 今、超高度なプロテクト解析で頭が破裂しそうなの!」
「プロテクト? なんじゃそれ。……ああ、その魔力炉の真ん中で赤くチカチカしておるルーンのことか?」
ジジイは半透明の指先で、魔力炉の基幹部分を指さした。
「そうよ! これが解除できないの! 現代の魔導理論じゃ太刀打ちできないレベルのセキュリティなんだから!」
「なんじゃ、そんなものただのダイヤル式の鍵じゃぞ?」
「……は?」
アルテの手がピタリと止まった。
「何を言ってるの? これは古代の最高峰術式で――」
「いや、昔これを作った術士の奴がのう。『領主館の奴らは大体バカだから、難しい術式にすると操作方法を忘れる』と言ってな。右に三回、左に二回、魔力をちょんと流せば開くようにしておいたと言っておったわい」
「……」
アルテは半信半疑どころか一ミリも信用していない目でジジイを睨んだ。
だが、試しに手帳の術式構造をその「右三・左二」の入力順に当てはめて計算してみると――。
「嘘でしょ!?複雑に見えた多層魔法陣のプロテクトが、一瞬で全部噛み合って……解除された……!?」
カチリ、と地下室全体に澄んだ音が響いた。
「嘘……本当に開いちゃった……! 単純なダイヤル式の物理入力パターンを魔力回路でカモフラージュしてただけ……!? どんなセキュリティ意識なんだよ!!」
「ふはは! 言ったであろう、ワシの知識は確かだと!」
「おじいちゃんすごい! これで魔力炉の真の姿が開放される! 一体どんな恐ろしい古代兵器や、国家を滅ぼす魔法機能が隠されているの!?」
アルテが興奮で頬を紅潮させ、解除コマンドを実行した。
――グォォォォォン……!!
永久魔力炉が眩い黄金色の光を放ち、館全体がガタガタと振動し始める。
「ひひひ! 確かあれはのう、館の敷地全体に『全自動温水床暖房&魔法式スチームエアコンディショナー』を展開するモードじゃったな!」
「は?」
「あと、庭の井戸から湧き出る水を、全自動で美肌の湯に変える機能もついておるぞ!」
「……はあああっ!?」
◇
――10分後。
食堂でレイラが持ってきた胃薬を飲んでいたラインのもとに、ドタドタと足音が響いた。
「ライン殿! 大変だ! 館の床が突然温かくなって、庭の古井戸からモクモクと湯気が立ち上り始めたぞ! 敵の熱線兵器の攻撃か!?」
レイラがメイスを構えて駆け込んでくる。
続いて、庭からニナの歓声が聞こえてきた。
「やばーい!! 井戸からめっちゃ温かいお湯出てるんだけど! 」
そして地下から、ショックのあまり抜け殻のようになったアルテがトボトボと上がってきた。
「アルテ……地下で一体何があったんだ?」
ラインが尋ねると、アルテは死んだような目で虚空を見つめた。
「永久魔力炉……真の機能は……『領主館を極上のリゾート空間にする環境維持装置』だった……。国家級の魔力を使って……ただの全館暖房と温水プールを作ってたみたい……」
「ひひひ! 快適じゃろう? 昔の領主は寒がりでのお!」
ドヤ顔で現れたジジイの頭を、アルテは無言で【塩】の瓶を丸ごとひっくり返して埋め尽くした。
「ぬぁぁぁぁっっ!? 感謝の塩漬け!? なぜじゃぁぁっ!?」
「……ハァ」
暖かくなった床の上で、ラインは本日二包目の胃薬を水で流し込んだ。
のんびり隠居生活を送るはずの寂れた領主館は、ジジイの適当なヒントと古代人の無駄すぎる高度技術によって、着々と「快適すぎる超ハイテク温泉リゾート」へと変貌を遂げていくのだった。




