ギャルとジジイと、裏山の宝探し
ラポルナでの生活が始まって数日。
地下でオタクモード全開のアルテは相変わらず籠城中で、レイラは「館の防衛線を構築する!」と息巻いて庭の木をメイスで叩き割っている。
そんな中、ニナは二階の自分の部屋で、腕組みをして天井を睨みつけていた。
「――ねえ、また覗いてるでしょ!」
天井の隙間から、青白い顔をぬっと出していたスケベジジイが「ひひひ」と鼻の下を伸ばした。
「見ておるだけじゃ!」
「それを覗きって言うの!」
ニナは手慣れた手つきで卓上の塩コショウ入れを掲げた。
「ぬあぁぁっ! 塩はやめるのじゃ! ワシはただ、ピチピチのお姉ちゃんが朝の支度をする尊い姿を目に焼き付けておっただけじゃ!」
「言い訳が完全にアウトなんだよねー」
ニナは呆れて溜め息をつくと、ふと何かを思いついたようにパッと目を輝かせた。塩の瓶を置くと、ふんぞり返るジジイを見上げる。
「ところでおじいちゃん。この辺に昔の宝箱とかない?」
「……ぬ? 宝箱とな?」
「そう! ほら、この館って昔からいろんな領主がいたんでしょ? 地下以外にも、昔の人が隠したお宝とか落ちてたりしないの?」
「ひひひ! 甘いのうニナちゃん! ワシを誰だと思っておる。千年以上この土地を見守ってきた地縛霊じゃぞ? この街のどこに何が埋まっておるかなど、手のひらを指すように分かっておるわい!」
「マジ!? どこ!?」
ニナは速攻でジジイに詰め寄った。先ほどまでの拒絶が嘘のような食い付きぶりである。
「教えてくれたら、今日の夕飯の時に『おじいちゃんって意外と頼りになる~』ってお兄ちゃんの前で褒めてあげる!」
「むむっ!? ニナちゃんに褒められるのは悪くないのう……。よし、ついてくるのじゃ!」
◇
というわけで、ニナはシャベルを片手に、ジジイの案内で領主館の裏山へとやってきていた。
「ラインのやつは頼りにならんからな。元国王だか何だか知らんが、あの男には覇気というものが足りん! ワシの現役時代なら、あんな軟弱な男は一兵卒にも採用せんわい!」
すいすいと木々を通り抜けながら、ジジイがラインへの不満をぶつぶつと漏らす。
「まあまあ。そこがお兄ちゃんのかわいいとこなんだからさ。で、宝はどこ?」
「ひひひ、焦るでない。この大木の根元じゃ。昔、どこぞの裕福な商人が税を逃れるために隠した金品が埋まっておるはずじゃ」
「よっしゃ!」
ニナはザクッ、ザクッとシャベルで土を掘り返し始めた。しばらく掘進むと、固い手応えとともに、古びた小さな鉄の小箱が顔を出した。
「出たーーーっ! マジであったじゃん!」
「ふはは! ワシの目に狂いはないのじゃ!」
ニナが錆びついた鍵を石で叩き割って箱を開けると――中には、怪しく輝く赤い宝石が埋め込まれた輪っかと、羊皮紙の巻物が入っていた。
「うわ、なにこれ! 指輪? ブレスレット?」
「どれどれ……む? それは確か、昔の商人が火炎の魔導具とか言っておったような……」
「えー、火が出る魔道具か!いいじゃんいいじゃんお宝っぽい!」
ニナが興味本位でその輪っかを腕にはめ、近くの枯れ木に向かってポーズを決めてみた。
「えーい! ファイヤー!」
――ズドオォォォン!!!
次の瞬間、山が揺れた。
ニナの腕から放たれたのは、小さな火花などではなく、極大の炎の龍だった。激しい熱風とともに、目の前の枯れ木どころか、裏山の崖一面が一瞬でド派手に吹き飛び、赤々と燃え上がった。
「「……」」
ニナとジジイは、口をぽかんと開けて消し炭になった崖を見つめた。
「……ねえ、おじいちゃん」
「……なんじゃ、ニナちゃん」
「これ、ただの火起こし道具じゃないよね?」
「う、うむ……。今の炎の術式は殲滅の炎環…。そういえば、その商人が使えば街が滅びるとか何とか言っておったような気がしてきたのじゃ……」
「早く言いなさいよバカじじいーーーっっ!!」
「ひいいいっ! ワシのせいじゃないのじゃあぁぁっ!」
◇
その頃、領主館の庭で薪割りをしていたラインは、裏山から上がった凄まじい爆発音と煙を見て、目を丸くしていた。
「……何だ今の音は?」
「むっ!? 敵襲か!?」
防衛線を構築していたレイラがフランジメイスを構えて飛び出してきた。
そこへ、髪を少し焦がしたニナが、手のひらサイズに小さくなったジジイを首根っこで掴みながら、山から走って戻ってきた。
「お兄ちゃん! たすけてー! 裏山でちょっと宝探ししたら、山が吹っ飛んだー!」
「は?」
「ひひ……ひえぇぇ……ニナちゃんが突然、古代の戦略兵器を起動させたのじゃ……」
ラインは煙を上げる裏山と、ニナの手にある見るからにヤバそうな赤い宝石の魔導具、そして情けない顔で縮んでいる地縛霊を見比べ――。
「ハァ……」
ポケットからヴァレンティア特産の最高級胃薬を取り出すと、無言で水もなしに丸呑みしたのだった。




