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マダムと文学少女

 初夏、新緑の季節とも呼ばれたり日差しがキツくなり暑さを全身に感じる季節。人々は皆暑さから逃げるように、日傘をさしたり、水と戯れたりと夏を感じながらも暑さを凌ごうとしている。

 でも、そんな暑さを吹き飛ばすような事象も世の中には存在する。

 それは夏の恋!あらゆる夏のラブコメは私を悦に誘う。ラブコメの夏は王道と言えば王道だと思うけれど、それだけではないわ。

 暑さを凌ぐほどの熱さ!夏のラブコメイベントは暑さを吹き飛ばす。Byマダム・レイ

「マダムよ、暑いからってクーラーの設定温度二〇度はやりすぎじゃないか?」

 いつもは、Tシャツ姿で部屋に居る彼だが寒さで長袖のパーカーを羽織りプルプルと子犬のように震えている。可愛い彼を見るのも私は好きだ。

「ダディ、私は今猛烈に熱いのよ。」

「何を燃えてんだか知らないけれど、ちょっと温度上げるぞ?それと、昨日買ってテーブルに置いてた新刊知らないか?」

「コレのことかしら?」

 私の持つ本を見て彼の表情は少し強張る。

「そうだ。って、まさか先に読んだのか?」

「こんな所に置いてあるんですもの仕方ないわ」

 二人しか居ないリビングなのに堂々テーブルに置いていた彼が悪い、そんなもの読むのは当たり前。

「まだ読んでなかったのにー!」

「そんなに大事なら抱きしめて寝れば良かったのに」

「くっ、なんたる言い草!傲慢すぎないか?」

「こんな格言を知らない?貴方の物は私の物!そして私の物は私の物!」

 そう私はラブコメには傲慢になってしまうのよ!

「ちょっとどこかで聞いたことあるぞ?」

「ダディ!それ以上詮索すると怒られるわ!」

「まぁいい、そんな燃え上がるような気持ちになってるマダムに朗報だ」

 彼の言い方から察するに、たぶんアレだ私の好物とも言えるアレだ。

「その感じだと任務ね!」

 テーブルに置いていた冷たいコーヒーをグッと飲み干し、ダディの話に耳を傾ける。

「ははは、相変わらず任務となると察しがいいな」

 始まったわね、ダディの焦らし。

「で、どんな内容なの?」

 焦らされるのが分かっているけど、私はソファーに座り話を急かす。

 はやる気持ちを抑え込めない私を焦らすように話始める彼・・・たまにこうやって意地悪してくる。

「まあ待て、物には順番ってもんがあるだろ?焦らなくてもちゃんと言うよ」

 彼に主導権を握られるも食い下がる私。

「早く言いなさいよ!」

 (今にも襲いかかってきそうな勢いだな・・)

「明日とか今すぐにっていう任務じゃなくて俺達に与えられた時間には余裕がある。場所は東京のとある私立高校だ。偏差値的には普通なんだが、制服が可愛いと評判が良く入学希望者も少なくない。その高校に通う女の子からの依頼だがどうだ?受けるか?」

 私が受けるのをわかっている筈なのに、わざとらしく聞いてくるなんて、コレはたぶんさっきのお返し。

「意地悪ね」

 そっぽを向く私の横顔をツンツンしながら笑う彼は、悪戯っ子みたいで可愛い。

「フフフ」

 軽く笑うぐらいで済まそうって感じかしら?そんなことより今は任務の方が優先ね。

「今回の任務は潜入ミッションだ、マダムには用務員として任務に当たってもらう。もちろん変装してもらっての話だがな」

「珍しいわね、長期のミッションなんて」

「ああ時期が時期だけに仕方ないんだ。七月といえば期末テストの期間でもあるからな、彼女達のテストを邪魔するわけにはいかないし、なによりターゲットと接触する時間が僅かしかない。短期決戦は無理だろう」

 確かにダディの言う通りだと思う。学生の本分は勉強だ、こればかりは仕方ないわ。

「そろそろ任務の内容教えてくれないかしら?」

「分かったよ。あんまり焦らすと任務に支障をきたしそうだな」

「フフフ、みくびらないでもらいたいわね!それぐらいで私の気持ちは霧散しないわよ!」

「あっ、ああ」

 気合いの入った私の声に一瞬たじろいでしまうも瞬時に立て直す所は流石としか言いようがないわね。

「内容はこうだ」

『拝啓 ラブラブファクトリーの皆様、初夏の暑さが肌に感じられる季節に私毎の手紙を読んでくださりありがとうございます。私には同クラスに思いを馳せる男性がいます。彼とは幼い頃からの付き合いで、彼がこの学校を受験すると言った時も私は彼から離れたくなく、この学校を受けました。彼の近くに居るだけでいいと思っていましたが、日に日に彼への想いが強くなってしまい今は・・・目を合わせる事も出来ない程好いております。

 昔から人と話す事が苦手で、いつも彼の言葉に対して答えるだけで、私から話しかけた事もありません。どうかこんな情けない私を助けて頂きたい所存でございます。長々と読んで頂きありがとうございます。◯◯高校三年一組 宮下 愛』

 くっ、これはもしかして文学少女のラブコメ!この文を読むだけで彼女の切なさと、心の奥に光る彼への想いが伝わるわ!

 これは何としても成就させなければならない愛よ!

「ダディ、受けましょう!そして愛に生きるのではなく、彼女の内に秘めた情熱的な愛情を形に変えなくてはならないわ!」

 (あっ・・・コレはマダムを制御出来ないパターンのやつだな。ラブコメ狂信者め・・・)

 静止できないと踏んだダディは私を落ち着かせようと半ば力ずくで私を膝の上に座らせる。

「何かしらダディ?」

「ちょっとは落ち着けよ、話途中だ」

「ごめんなさい、気持ちが先走り過ぎたみたい」

 私の暴走はいつもの事だと彼の表情から見て取れる。ただ暴走し過ぎると愛ちゃんに迷惑をかけてしまうのも事実なわけで、私ははやる気持ちを押し殺す。

「落ち着いたなら話を続けるよ?」

 コクリと頷き彼の話に耳を傾ける。

 任務は、明後日から始まる。

 用務員さんが休暇に入るのが明後日で、そのタイミングで代役で入ることとなる。基本的に校内の清掃や点検作業といった仕事がある為四六時中二人を観察する訳にはいかない。


「準備はいいか?」

「ええ後はメイクだけよ」

 この二日間焦らすに焦らされた私は、暴走と抑制を繰り返していて、陸に上がった魚のような目をしていた。

 精神的に情緒不安定な私をダディは不安そうな顔で送り出そうとしている。

 (このままじゃマズイな・・・)

「マダム!」後ろからの彼の声に反応して振り返ると、突然のキスが待っていた。

 (行ってらっしゃいのキスかしら?)

 そのキスは軽いバードキッスではなく、しっとりと湿った唇は私に何かを伝えようとしていた。

 ダディこのキスは・・・行ってらっしゃいじゃないわね!コレは、かけがえのない愛する人を戦地に送り出す時の儚さの詰まったキス!

 貴方はいつもそう、私が欲しい時に欲しいものをくれる・・・

 (おふぅ・・・こんなキスされたら目覚めてしまうじゃないの・・・内そこに押し込んでいた何かが・・・)

 私はその場で崩れ落ちそうになるが、ダディは受け止め更に激しくキスをしてきた。

「はうぅぅぅ」ダメ・・・これ以上は任務に支障をきたすわ。

 私は、長く続くキスから顔を背け、キスから逃れる。

「ダ、ダディ大丈夫よ目が覚めたわ!」

「フフフ、ならいい」

 私はメイクをして、いかにも疲れたアラサー用務員に扮する。そんなメイクをしても可愛さはどうにもならない。コレばっかりは諦めるしかない。

「ダディ準備は出来てよ?」

「じゃあ行くぞ、◯◯高校へ!」

「待っててねー!愛ちゃーん!」

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