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マダムとラブコメ

 朝からマダムがコーヒーも飲まずソファに寝そべってるなんて珍しいな。

 「どうしたマダム?」

 「ええ、三日前の任務の事を少し思い出していてね」

 「やっぱり暴走し過ぎたかしら?」

「暴走は今に始まった事じゃないが、少し抑えた方がいいかもな。まぁマダムの場合は心で動くタイプだから、ターゲット達に感情移入するのは仕方ない事だけどな」

「出来るだけダディには迷惑かけないようにするわ」

「はは、何言ってんだ?迷惑なんて微塵も思ってねえよ。むしろ精一杯頑張ってるマダムが好きだから、ドンとこいよ!マダムのミスは全部俺が受け止めてやるよ」

「フフフ大好きよ、ダディ」

 (ってめっちゃ照れてやがるな?まさか自分で言っといて恥じらうパターンのヤツか?)

 (尊すぎんぞマダムよ・・・)

 俺達が所属しているファクトリーは、色んなジャンルがある。

 例えば、オフィスラブもその一つだ。ただ相手が大人だとラブコメを熟知しているターゲットもいるから細心の注意が必要となってくる。

 俺達は、学生専門でやっている。いわゆる「アオハル」ってジャンルだ。このアオハルってのも中々難しい所はある。中、高校生が主な対象になってくるが、精神的にデリケートな所もある。

「ダディ、私達の仕事って少子化を減らせると思う?」

「どうしたんだ?突然」

「結局のところ、付き合ってそのままゴールってあんまりないんじゃない?だとしたらアオハルって学生特有の恋愛感情なのかなぁと思ってね」

「なんだ、そういう事で悩んでたんだな」

「あっ、悪い「なんだ」って言うのは失言だったな。マダムが悩んでいるのに気が回らなかった」

「ただ、俺の持論で言うとだな、アオハルってのは何も学生だけの物じゃないと思うし、恋愛だけでもない。アオハルってのは恋愛の原点だと思う。例えば部活だ、俺高校ん時野球に明け暮れてたなぁっていうのもアオハルだよ。それとは別に、私はあんまり友達居なかったから大した思い出はなかったなぁってのもある。俺達はそういった心が未熟な若い奴らの手助けをしてるって思えばいいんじゃないか?その助ける為の手段の一つとして、ラブコメシチュエーションを選んだ。そのラブコメっていうのは全てに通ずるものがある。部活を通してのラブコメ。引きこもりだった私を外に連れ出してくれたっていうラブコメもある。アオハルってのとラブコメって言うのは繋がりがあるんだ。それは社会に出ても一緒だよ。思い出があれば、あの時の気持ちをもう一度ってならないか?」

「フフフ、久しぶりにダディの熱い話が聞けたわ。そうよね、アオハルがあるから今があるって感じね」

「そうだよ。ラブコメの可能性は無限なんだよ」

「フフフ、ありがとう。貴方は最高のパートナーよ」

「チュッ」

 マダムからの頬へのキスは照れくさかったが、少しでも彼女の不安が消えるよう俺は彼女を支えて行く。

「で、今日は依頼は来てないの?」

「一応あるのはあるが・・・」

「はたして今のマダムでイケるかは分からん」

「えっ?そんなハードルが高いの?」

「じゃあ内容を言おう」

「私は私立◯◯高校に通う一年生です。三日前に体育祭があって、その時に友達に貰ったキーホルダーをグラウンドで無くしてしまったんです。大切な人からの物なので探すの手伝ってください。一年二組椎名 琴美」

「くっ、捜索イベントね!燃えるじゃないの!」

「ははは言うと思ったよ」

「じゃあ何であんな意味深な言い方したの?」

「ああ、実はターゲットは女子だ」

「まさか?百合系なの?」

「そういう事になるな。こういうラブコメは本来の趣旨から外れるがマダムはどう思う?」

「そんなの関係ないわよ!列記としたラブコメよ!」

「ははは、そう熱くなるよ。だろ?こういうのもラブコメでアオハルの一つだよ」

「確かに・・・」

「よし、今夜学校に忍びこんで探すぞ。その前に琴美ちゃんには連絡しておくよ。」

「えっ?一緒に探すの?」

「さすがにそれは無理だ、心配しなくても俺達が見つけてやるって言うだけだ」

「フフ、じゃあナイトミッションの準備しましょう」

 俺達は日付けが変わる深夜に、学校へと到着した。

 初めての学校だったから事前に敷地内を調べていたが、実際目にすると、あまりの広さに驚愕してしまう。

「これは広すぎるわね。体育祭が終わって三日間も探して見つからないのは納得出来るわ」

「ああ、子供だけじゃかなりキツイだろ。グラウンドも、中等部と高等部と分かれているしな」

「とりあえず照明器具は無しだ。これだけ広いと巡回の警備員が回ってくる。暗視ゴーグルを使うと良い」

「分かったわ。私は高等部を見た方がいい?」

「いや、二人でやろう。俺が探している時はマダムが監視をしてくれ。そしてアレを使う」

「アレ?」

「少し重いが仕方ない。光学迷彩技術の翠をあつめた、とうめいマントだ!」

「何か漫画に出てきそうなネーミングね。前から思ってたんだけど、ラブラブファクトリーって何でも作ってるわね」

「ああ、そうだな。基本的にはラブコメに都合の良い物しか作ってないみたいだ。前にオフィサーエージェントに色々聞いてみたんだが、何も教えてもらえなかった。パソコンで見ようとしたら、トップシークレットだと表示が出た上に、次に検索したらペナルティを与えるって警告文まで出やがった」

「かなり胡散臭いわね。まぁ私達にプラスになる物なら良いけど」

「そうだな。よし手筈通りやるぞ。後コレも渡しておく」

「コレは?」

「GPSを介して半径一〇m以内の異物に反応するようになっている。予め設定はしているから赤いボタンを押すだけでいい。異物が有れば暗視ゴーグルに今の地点から方角と距離が出るようになっている」

「ほんと都合の良い道具よね。何とかモンとか出てきそうだわ」

「それ以上は怒られるからダメだ!」

「分かったわ。気をつけるわ」

「グラウンドが広いから順番でやろう。まずはゴーグルとマントを装着して、グラウンドの角から攻める」

「じゃあ朝礼台に向かって左側から行くわ」

「しゃがんだまま歩くのはキツイし、足跡が付くと警備員に勘繰られるから、この自動台車、無音君に乗るといい。亀みたいに遅いが音もなく足跡も付けずに移動出来る。方向レバーを前に倒したり横にしたりすると、向けた方に移動する」

「これだけの為に作られた気がするわ・・・」

「細かいことは気にするな!警備員が来たら連絡する。俺は、その倉庫の影から監視しとく」

「わ、分かったわ」

 (ダディって道具の話になるとテンション上がるわね)

「じゃあ行くわよ」

 レバーを前に倒し前方へ進むと早速ゴーグルに反応が現れる。

「ダディ反応ありよ!」

「でも、無音君に乗ったままじゃ取れないわよ?欠陥品じゃないの?」

「大丈夫だ。レバーの先端に青いボタンがあるだろ?押してみな」

「ダディ!無音君からアームが出てきたわ」

「そうだ!もう一度押してみな」

「あっ!アームが勝手に動き出して目標物を掴んだわ」

「もう一度押せば無音君のポケットに収納される」

 (ほんとうにこれ専用じゃないの!ラブラブファクトリー恐るべしね)

 黙々と探索するマダムから通信が入る。

「どうした?」

「ええ、もうポケットが一杯よ、一度戻るわ」

「待て!動くな警備員がマダムに近いてきてる」

「えっ?」

 (ヤバいな、何かに勘づきやがったか?マダムへ一直線に向かってきてる)

「マダムよく聞いてくれ、おそらくバレると思う。だからゴーグルを外して素顔のまま其処に居てくれ」

「何のために?」

「俺を信じろ」

「わ、分かったわ」

 ゴーグルを外した私に忍び寄る警備員。とうめいマントのおかげで存在はバレていないが、キョロキョロと辺りを見渡している。緊張で鼓動が速くなるのが苦しい。

「ザッザ」

 (ふぅ行ったわね)

 警備員が踵を返し戻って行く時にイタズラな風が吹き荒れ、私の被っていたフードが外れてしまう。

「キャッ」

「ん?」

 声に反応した警備員が後ろを振り向くと顔だけが露わになった私を見て叫び声を上げる。

「こんばんは」

「ぎゃーっ!空飛ぶ生首が喋ったー!」

「えっ・・・」

 (ナイスアドリブだぞマダム!)

「マダム敵は怯んでいる!レバーの黄色のボタンを押せ!」

「カチッ」言われるまま、ボタンを押すと無音君はその場で回転を始める。

「ウイーン」

 (ちょっと何よこれ!回転が速すぎるわよ!うっぷ)

「ぎゃーっ!生首が回ってる!助けてくれー」

 高速回転する私の顔を見て警備員は信じられない速さで逃げて行く。

 (追い込まれた人間は、尋常じゃない力を発揮をするっての本当ね!っていつになったら止まるのよ!うっぷ)

「ちょっと待って勝手に走り出さないでー」

 高速回転をしつつ無音君は、ダディの方へ一直線へと向かうが、ダディの目の前に来ると停止し回転も止まる。

 (注文どおりの仕上がりだな!俺の想像どおりだ!)

「おかえりマダム」

「おかえりじゃないわよ・・」

「何なのこの道具は?」

「危うく口から何か出るとこだったわよ!」

「声が大きいぞ、バレたらどうすんだ」

 (くっ、後で説教だわ!)

「じゃあ無音君のポケットを見るか」

 (全然話聞いてない!説教プラス正座よ!)

「おっ!あった!コイツだなイニシャル入りの熊のキーホルダー」

「おいおい、生首が空飛んでるってマジか?寝ぼけてんじゃないのか?」

「マジだって!」

 さっき逃げた警備員が同僚を連れてグラウンドへ引き返してきたのをいち早くダディが気づく。

「マダム隠れろ、コッチに入れ」

 ダディが広げたマントに私が入るとダディは優しく抱きしめる。

 (ちょっとダディ、このシチュエーションは体育館倉庫に二人で隠れるヤツじゃないの?ダメよ、こんな所で)

「チュッ」

 (もう!何でキスするのよ!はぁぅぅっ)

 (マダムを大人しくさせるにはラブコメあるあるだな)

 (しかもダディ、キスが長いわよ。声が出せないからってやり過ぎよ!はふぅっ)

「居ないじゃないか。やっぱり寝ぼけてたんだろ?戻るぞ」

「マジだって信用しろよ!」

 さすがに嘘だろうと思った警備員の同僚は呆れながら戻って行くが私達からすれば、この状況は奇跡とも言える。

 (んっ、んっ)

「ダディ苦しいわよ」

「すまない可愛い顔のマダムを見たらキスしたくなった」

「もうバカ・・・」

 (真っ暗で顔なんて見えないのにね、キスしたかっただけでしょ)

「よし、キーホルダーは手に入れた。後はマダムの出番だよ。日付けは変わったから今日だな。後は頼んだ」

「もう、分かったわよ。ちゃんと考えてるから大丈夫よ」

 その日の放課後、私は女教師に扮し学校へと入る。今日のラブコメは簡単よ。

 廊下を歩く琴美ちゃんに愛する、笹園瑞稀ちゃんにノートを渡してもらうだけ。

 私は廊下を歩く琴美ちゃんを見つけると、偶然を装い彼女に近づく。

「椎名さん、確か笹園さんとクラス同じよね?」

「はい!」

「じゃあ、悪いけどこのノート彼女に渡してもらえる?」

「えっ・・・」

 この時、琴美ちゃんはキーホルダーを無くした事で罪悪感に苛まれ彼女との会話を避けていた。

「じゃあ、よろしくね」

「先生!あの・・・」

「私忙しいの、お願いね」

「は、はい」

「どうしよう、キーホルダーまだ見つかってないのに」

 渋々琴美ちゃんは、教室に戻るが瑞稀ちゃんは既に教室を出ていて見当たらない。ただノートを渡すだけだが、彼女の頭の中は、悪いことを想像してしまう。

 (全然いないよ、もう帰ったのかな?それとも最近喋ってないから怒ってるのかなぁ)

 泣きそうになりながらも、学校内を探すが瑞稀ちゃんの姿は見つけられない。幾らミッションと言えども、こっちが悲しい気持ちになる。

 見つけられず途方に暮れる琴美ちゃんを見ると手助けをしたくなるけど、ここは彼女に頑張ってもらうしかない。下駄箱の所でメールを送ろうとするが不安なのか手が震えて上手く文字が打てないみたいだ。

 (頑張って琴美ちゃん)

 込み上げてくる涙を堪えていると、後ろから彼女の声が聞こえてきた。

「琴美!こんな所で何してんの?」

「み、瑞稀ちゃん・・・」

「どうしたの?泣きそうじゃんか。誰かに虐められた?」

「こ、このノート先生が瑞稀ちゃんに渡してって」

「あれ?探してたノートだ。先生拾ってくれたのかな。ありがとう琴美」

 震える手でノートを瑞稀ちゃんに渡そうとするが、手が滑りノートを落としてしまう。ノートはマダムによって細工されていて、地面に落ちるとページが捲れてしまう。開かれたページには、探していた熊のキーホルダーが貼り付けられていた。

「あっ!キーホルダー!何で?どうして?あんなに探したのに?」

「確かにコレは私が琴美にあげたキーホルダーね。ってアンタその指どうしたの?傷だらけじゃないの!」

「えっと、コレは・・・」

 真剣な顔で琴美ちゃんを見る顔は、怒っていたが心配しているようにも見えた。

「怒らないから、ちゃんと言って?」

「う、うん。実はそのキーホルダーを無くしちゃってグラウンドを探してたの。瑞稀ちゃんに無くしちゃったなんて言えなかった。瑞稀ちゃんの悲しい顔見たくなかったの」

「そうだったんだ。だから最近喋ってくれなかったんだ。でも琴美の手がボロボロになる方が私は悲しいよ?ピアノ弾く時どうすんの?二人で並んで弾けないじゃん」

「ごめん瑞稀ちゃん」

「バカだな・・・でもそんなに一生懸命に探してくれたのは嬉しいよ。次からはちゃんと言ってね」

「うん、うん分かった。ありがとう瑞稀ちゃん」

 嬉しさのあまり瑞稀ちゃんに抱きつく琴美ちゃんは、緊張が切れたのか我慢していた、涙を溢れさせた。

「コラ、まだ学校だよ?じゃあ今日はウチに来てその指を治療しよ?」

「えっ?あっ、うん」

「じゃあ帰ろ琴美!」

 (いつもは手を繋いで帰るけど、私の痛々しい手をみると瑞稀ちゃんは、腕を組んでくれた。)

「明日先生にお礼言わなきゃいけないね。どんな先生だった?」

「うーんとね、金髪でめっちゃ美人な先生!」

「えっ?ウチの先生、年寄りばっかだよ?」

「うそ!」

「そんな先生聞いた事ないもん」

 (後ろから見るラブラブ百合カップル最高だわ!尊すぎよ!はぅっ)

 

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