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マダム・レイ

 三階建の小さなビルの屋上に、一人の女性がライフルを構え、スコープ越しにターゲットを捕捉していた。

「貴女の笑顔を見せて・・・」

「ターン!」照準が合うと軽く引き金を引く。

 任務遂行のためなら、彼女は何の躊躇いもなく引き金を引いてしまう。

「さっ最高よ貴女達・・・」

「はぅっ」彼女の奇妙な声とともに、通信が途絶えると彼女に指示を出していた俺は慌てて彼女に呼び掛ける。

 が、何の反応もない。

「やばいな、悦に入りやがったか」

「おい!マダム、返事をしろ!」

「ふぅ、ふぅ。少し危なかったけど私は大丈夫よ」

 俺はホッとして胸を撫で下ろし、彼女に帰還の指示を出すが返ってくる返事には力がなかった。

「本当に大丈夫か?なんなら回収しに行こうか?」

「いえ、大丈夫よ歩いて帰れるわよ。お気遣いありがとう」

「なら、無事帰還するのを待ってるよ」

 彼女への配慮をした後通信回線を切り、次のミッションを確認する。

 俺の名は、ダディ・ライト。様々な依頼を受け計画を立案し彼女に実行してもらう指示役だ。

 そして彼女はマダム・レイ。俺のバディであり、プライベートでも俺パートナーだ。

「ブゥブゥブゥ」

 (ちっ!連続任務かよ?今のマダムはには厳しいか?でもこのミッションは・・・マダムの大好物だな)

 不安を元に、再び彼女へ通信を行うが中々電話に出てくれない。仕方なくメールで追加の任務があると連絡を入れると彼女の方から連絡がくる。

「ダディ、私なら大丈夫よ。先程の任務だけじゃ少し物足りなかったからちょうどいいわ」

「任務の内容は、メールで知らせるが無理はするなよ?」

「ええ」

 程なくしてマダムに送ったメールの内容はこうだ。

「隣りの席に座っている男子の事が好きなのですが、男子が恥ずかしがり屋で、私と目を合わせてくれない。彼をふりむかせたいから協力して下さい。◯◯高校二年一組 川星 織姫」

「はうぅぅ」

「何て事!麗しき乙女が恋の蜘蛛の巣に捕まってしまってるわ!しかもこれは、キュン死を覚悟しなければならない案件ね!でも織姫ちゃん心配しないで、私達が必ず助けてあげる!」

「待っててねー!」

 そう私達二人は全国に蔓延る、成就しない恋を手助けする特務機関ラブラブファクトリーに所属するエージェント。

 内閣総理大臣より少子化を撲滅する為に作られたこの特務機関は政府の要人にも存在は明らかにされていない。

 ただ一つ何かあるとすれば、特務機関を利用してマダムが楽しんでるだけのような気はするが・・・

「ダディ聞こえる?ターゲットの学校に着いたわ」

「ああ聞こえてる。ターゲットは捕捉出来たか?」

「ええ、もう見つけたわ」

「今私は、彼女の教室の真向かいにある校舎の屋上よ」

「状況を説明するわ。ターゲットは窓際の席に座っていて顔を伏せるように窓の外を見ている。織姫ちゃんも顔を伏せながらターゲットの方を見ている状態よ」

「そうか、ならアレだな。ミラーを使えるな」

「ええ私もそう思ってた所よ」

 解説するとこうなる。

 屋上にスタンバイしているマダムがミラーを掲げ、太陽の光をミラーに当てる。ミラーの角度を変えることで太陽光はターゲットに照射され、眩しさのあまり織姫ちゃんの方を見てしまうという、ラブコメあるあるを意図的に作り出すのだ。

「行くわよ!」マダムのミラーが太陽の光を捉えると、少しずつターゲットの目に当たるように角度を変えていく。

「ビンゴ!」光の照射がターゲットの目に当たると、ターゲットは一瞬怯み目を閉じるが、マダムは照射をやめない。だが照射に根負けしたのか、ターゲットは織姫ちゃんの方を見るように照射から目を離す。

「今よ織姫ちゃん!」

 ターゲットの視力が戻ったと同時に、笑顔の織姫ちゃんが微笑みかけた。

「はぅぅ。完璧よ織姫ちゃん!二人の会話はわからないけど、妄想で大体わかるわ」

「はぁはぁ、ダディ一気に畳み掛けるわよ!」

「次は図書室イベントよ!」

「おい!マダムそんなに先走って大丈夫なのか?」

「大丈夫よ、こういうのはノリと勢いが大事よ!」

 (やばい、完全にスイッチ入りやがった。もう任せるしかないな)

 午前の授業が終わり昼休みになると私は女教師へと変装をする。ここから第二ミッションの図書室イベントが始まると思うと妄想だけで悦に浸れそうだわ。

 私は食事の終わったタイミングを見計らい二人の待つ教室へ突入する。

 (居たわ。間近で見ると二人とも良い感じの可愛い子じゃないの)

 教室後方の扉から入った私は、二人に手伝って欲しい事があると強制的に図書室へ連れ出す。

「昼休みのひと時にごめんね、今日、図書委員が休みで片付けが進まないの」

「私も次の授業の準備とかがあってコッチに時間を割けないのよ。後は本棚に本を戻すだけだからお願い出来るかしら?」

「は、はい。」

「ありがとう、今度飲み物でも奢るわね」

「じゃあこの二つに積み上げられた本を上から順番に直してね」

「わかりました!」

「じゃあ、また後でね」

 (フフフ、ここまでは完璧ね。あの積み上げられた本の最後の収納場所は脚立を使わないと届かない。積極的な彼女の性格からすると、脚立に登るのは織姫ちゃん!脚立に昇った織姫ちゃんを下から支えるターゲットは必ず赤面するはずよ。そして脚立はワザとバランスを崩しやすい様に細工済み。バランスを崩した彼女を支えようと彼女に触れた時に更に赤面するはずよ!)

「ふぅ、最後の一冊だね。」

「う、うん。それ戻したら教室へ戻ろう」

「げっ!最悪脚立使わないと戻せないじゃん」

「うわ、しかも一番上かぁ。私が昇るから支えてて」

「分かった。気をつけてね」

 (くっ、気遣いが出来る男子は一〇〇点よ!)

「上向かないでよ?」

「分かってるよ!」

 (スカートのヒラヒラが気になってるわね。フフフ、赤くなってる。これぞ生殺し作戦よ)

 本棚に本を直そうと右腕を上げた時、脚立が少し傾き織姫ちゃんはバランスを崩した。

「キャッ!」

「危ない!」

 脚立を支えていた手を離し、両手で彼女の腰を支えるターゲット。柔らかい女子の体に触れた彼は恥ずかしさのあまり、顔を更に赤らめる。マダムの手のひらの上で踊らされてるようなシチュエーションは、マダムを悦に浸らせる。

 (はぁう。ダメよ!まだ最後の仕上げが残ってるから、それ以上はダメよ!)

 ターゲットは織姫ちゃんを支えたまま下を向いて、彼女を気遣う。

「川星さん大丈夫?」

「はい」

 脚立を降りようとする織姫ちゃんにそっと手を差し伸べるターゲットの行動は更にマダムの精神にダメージを与える。

 「う、うん大丈夫。」

 (くっ、図書室イベント最高じゃないの。ダディに見せてあげられないのは残念ね。でも二人共ナイスよ、まるで二次元の世界に来たみたいよ)

「じゃ、じゃあ教室戻ろっか」

「う、うん」

「先生終わりました」

「先生?」

「あっ、おかけで準備が出来たわありがとう。何か大きな声が聞こえたけど何もなかった?」

「はっはい、全然大丈夫です。」

「失礼します」

 顔を赤らめた二人が図書室を出て行く姿を見送ると、マダムは糸が切れたマリオネットように力なく倒れ、机に顔をぶつけてしまう。

 (もうダメ・・・私の妄想を超えてこられると、理性が崩壊しそうよ)

 (でも、仕上げがあるわ。次は階段イベントよ!)

「マダム聞こえるか?大丈夫なのか?」

「ええ順調に事は進んでるわ。残すは階段イベントよ!」

「なんだって?なら今朝俺が渡したケースに特殊道具が入っているから、それを使うといい」

「ええ、ありがとう後で確認するわ」

 私は階段イベントを実行する為、屋上へと通じる階段を上がっていく。

「先生!」

 (この声は、ターゲットの男の子?)

 階段下から呼ぶ声に顔を向け、ターゲットを顔を確認した私は、ゆっくり階段を降り、彼に話しかけた。

「何?」

「先生って何処のクラス受け持ってるんですか?」

 (やばいわね、この子感が鋭いわ。)

「私?」

「はい、見たことない先生だなぁと思って」

 (さすがに怪しかったか)

「私はね、昨日赴任してきたばかりなの。訳あって昨日は来れなくて、今日が初出勤よ。さっきはありがとうね。これからよろしく」

「そうだったんですね。よろしくお願いします。じゃあ次体育なんで、もう行きます」

「怪我しないようにね」

「はい!」

 (これ以上噂になるとミッションに支障をきたすわね)

「ダディ聞こえる?」

「ああ、どうした?」

「派手に暴れ過ぎたみたいで、少し怪しまれてる」

「なんだって?分かった。ケースの中にその学校の教師の顔写真が入っている。今日休みの女の先生がいるから、変装するといい。ただマダムのナイスバディは隠せないから気をつけろよ」

「ええ、ありがとう」

 (さすがは、ダディね。私一人だと失敗してたわ)

 放課後、授業が終わって皆が教室を出て行くけど、二人は中々教室を出ない。私からしたら好都合な状況は最後の仕上げを実行しやすい。

「さっきは、ありがとうね」

「んっ?さっきって?」

「図書室のヤツよ」

 (フフフ、織姫ちゃん御礼を言いたかったのね)

「ああアレか、怪我がなくてよかったよ」

「今日は部活行くの?」

「き、今日は休みなんだ。」

 (織姫ちゃん、貴女の言いたいことは手に取るように分かるわよ。でも勇気を出して言いなさい!その後は私が完璧に二人を引っ付けてあげるわ)

「じ、じゃあ帰るんだ」

「うん。じゃあ途中まで一緒に帰るか?」

「はは、なーんてね」

「わ、私は一緒に帰りたい!」

 (良く言ったわ織姫ちゃん!後は任せなさい)

「えっ」

「私は帰りたい・・・一緒に」

「わ、分かったよ。帰ろ・・・一緒に」

 二人の気恥ずかしさを感じながら私は、織姫ちゃんの恋を成就させる為、悦に浸らず階段イベントのスタンバイにかかる。

 ターゲットの男の子は、織姫ちゃんと並ばず一歩先を彼女の歩くスピードに合わせ歩いている。

 実は既に、トラップは仕掛けている。六限目の体育の授業中にあらかじめ織姫ちゃんの携帯をカバンから出し、机の中に入れていた。

 携帯を取りに戻るというシチュエーションを、故意に作り出そうと考えてのことだ。

 二人が階段を降りていく途中、私はワザと二人の前を横切り、「しまった、携帯忘れた」と呟き、慌てて戻る演技をみせる。

 釣られた織姫ちゃんも携帯がないのに気づき、男の子に「待ってて」と伝える。

 踵を返し階段を上がる瞬間、私からの最後のプレゼントが発動する。

 (ごめんね織姫ちゃん、ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね)

「パシュッ」

 影に隠れていた私は、織姫ちゃんが足を上げた瞬間を狙って特殊粘着弾を打ち込んだ。粘着弾は靴裏に見事に命中し織姫ちゃんが足を床に付けた際に引っ付いてしまう。もう一段上がろうと足を上げた織姫ちゃんは、バランスを崩して後ろへと倒れそうになる。

「きゃっ!」

 (行くのよ彼ピー!織姫を助けるのよ!)

 下にいた男の子は、ダッシュで駆け上がり織姫ちゃんを後ろから力強く抱きしめて支える。

「おい!大丈夫か?」

「えっ、あっ、うん」

「気をつけろよ」

「う、うん・・・」

「忘れ物取りに行くんだろ?着いて行くよ」

「う、うん」

 (あっふぅ・・この二人のポテンシャルは未知数だわ。かろうじて意識を保つのがやっとよ。この先何を見せてくれるの?)

「はい」

 彼が無造作に出した手は、織姫ちゃんを困惑させてしまう。

「えっ?」

「足滑らしたら危ないから」

 (それって、手を繋ぎたいが為の口実じゃないの?織姫ちゃん、それは彼からのサインよ)

「う、うん。ありがとう・・・」

 (おそらく彼にとっては、勇気のいる行動だわ。それを顔に出さず笑顔で差し出すなんて、かっこよすぎよ)

 教室に着いた織姫ちゃんは、机の中にある携帯を取り出すと、振り返って彼に「私とLINEして?」と、精一杯の笑顔で返事を求める。

 (ここから先は二人だけの物語ね。私のエスコートはこれで終わりよ)

 教室の外で会話を聞いていたマダムだったが、二人の行方は見ないまま学校を後にした。

「マダム大丈夫か?」

「ええ無事ミッションコンプリートよ」

「それは良かった」

「ただ私は、この愛に満ち溢れた校舎には似つかわしくないわ。ダディ悪いけど迎えに来て」

「ああ、直ぐ行く」

 (今回も素敵なラブコメをありがとう)

 待ち合わせの公園に着くとベンチに座り、余韻に浸っていると、ダディの運転する青のオープンカーがブレーキ音を効かせ停車する。

 ベンチに座る私を見つけると、彼は公園の柵を飛び越え、私の方へ駆け寄ってきた。

「レイ、お疲れ様。帰るぞ」

 そう言ってベンチに座っている私の手を引き立ち上がらせると、その勢いを利用して私を抱き抱える。

「ちょっと何するのよ。お姫様抱っこって恥ずかしいわよ」

「フフ、歩くのもしんどいだろうと思ってね」

「バカ・・」

 (最高かよ、ダーリン)

 車に乗ると、彼は湾岸線を何も喋らず走らせる。

 気持ちいい風を浴びて二人の事を思い出していると、一通のメールがパソコンに届いた。

「今朝メールした川星織姫といいます。隣の席の男子と仲良くなる事ができました。」

「フフフ上手くいったみたいね。」

 私は直様彼女に返信をする。

「素敵な物語を作ってね。図書室の先生より」

 

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