ミサキ・サキル
「組の奴らって、サランドさんのいるタケイサ組の奴らですか?」
「確かに、うちの組にもいるかもしれん。だが、それは私がどうにでもできる。問題は敵対している組の方だ」
サランドさんの表情が険しくなる。
「最近、うちはサング組の奴らに、うちがケツ持ちしている店を狙われていてな」
「サング組……」
「それだけじゃない。最近のサング組は、外道な商売にも手を出しているという噂がある」
サランドさんは一度言葉を切った。
「先代は仁義に厚い人だった。だが、先代が亡くなり、今の組長――サザル・クルンガという男になってから、仁義に外れたことばかりしているらしい。まあ、あくまで噂の域を出んがな」
サング組か。この辺りにも組員が来ているのだろうか。
「サング組は、王都の北側にある組のケツ持ちをしていてな。どうやら、こちらの様子を探るために何人か送り込んできているらしい」
サランドさんは腕を組み、低い声で続ける。
「そいつらがうちのケツ持ちしている店で暴れでもしたら、こちらとしても黙っているわけにはいかん。だが……問題が一つある」
「問題、ですか?」
「奴らが、ミサキが私の妹の娘だと知っている可能性がある」
「……!」
僕は思わず息を呑んだ。サング組がミサキの素性を知る可能性があるなら、確かに護衛が必要だな。
「だから、ツブキ。お前にミサキのことを任せたい」
そう言って、サランドさんは僕に頭を下げた。
「えっ、ちょっ……サランドさん! 頭を上げてください!」
極道には、できればあまり関わりたくない。
だけど……。
勇者パーティーで荷物持ちをしていた僕をひどく扱うどころか、ここまで高く評価してくれたのはサランドさんだ。その人から頼まれて、断るなんてことはできなかった。
「……わかりました。その頼み、引き受けます」
「そうか。よかった」
サランドさんは顔を上げると、どこか安心したように笑った。
「お前なら信頼して任せられる」
「ありがとうございます」
「ただし、一つだけ言っておく」
「はい?」
サランドさんの目が鋭くなる。
「恋愛とか、そんなものには発展するなよ」
「……え?」
「もしミサキの貞操を狙うような真似をしたら……私はお前に何をするかわからん」
「…………」
怖い。めちゃくちゃ怖い。
サランドさんから放たれる脅迫じみたオーラに、僕は首を勢いよく縦に振った。
「わ、わかりました!」
「よろしい」
サランドさんは満足そうに頷く。
……絶対にミサキには手を出さないようにしよう。
「それと、お前とは別に、うちの組の者にもミサキの護衛を頼んである。もう少ししたら来るはずだ」
「護衛ですか?」
「ああ。お前一人に任せるつもりはない」
サランドさんが言った瞬間、ギルドマスター室の扉が勢いよく開いた。
――バァンッ!
「サランドの親父ー! ただ今、来やした!」
「……」
「……」
部屋に、一瞬の静寂が訪れる。入ってきた男は、金髪のリーゼント。
口元には傷跡があり、黒いTシャツの上から赤いパーカーを羽織っている。下は黒い長ズボン。
どう見ても、堅気には見えない。その男は僕を見るなり――。
「あ? あんたは誰だ?」
ナグモが近づいてきた瞬間、そのリーゼントが僕の頭にゴツンとぶつかった。
「痛っ!」
「ナグモ。お前は元気があるのはいいが、もう少し落ち着いたらどうなんだ?」
ゴンッ!
「痛ぇ!」
サランドさんがナグモの頭を拳で殴った。
「いってぇ……! サランドの親父!何するんですか!」
「ここは冒険者ギルドだ。『親父』はやめろ。サランドさんでいい」
「あっ、そうでした!」
ナグモは頭をさすりながら、僕を指差す。
「サランドさん! こいつ、誰なんですか!」
「ツブキだ。ミサキの護衛を任せることになった冒険者だ」
「へぇ……」
ナグモは僕を上から下までじっくり眺める。
……なんだ?僕、何か変なことしたか?
「それよりナグモ。お前には話がある」
「わかりました!」
ナグモはキラキラと目を輝かせながら、サランドさんを見る。
その顔はまるで、親に呼ばれた子供のようだった。
……この人、本当に極道の人なのか?
僕はそんな疑問を抱きながら、ナグモを見つめていた。




