サランドさんからの頼み
僕がギルドマスター室に入ると、サランドさんが口を開いた。
「ミサキとはどうだ? 上手くやれてるか?」
「うん。上手くやれてると思いますけど……どうかしましたか?」
僕が聞くと、サランドさんは少し黙り込んだ。
そして、いつものギルドマスターらしい表情とは違う、真剣な顔で僕を見る。
「ここからはギルドマスターとしてではなく、私個人からの頼みだ。聞いてくれるか?」
「え? 個人としてですか?」
「ああ。今から話すことは、他言無用で頼む」
サランドさんは一度咳き込むと、ゆっくりと僕へ顔を向けた。
その瞬間、僕の身体にのしかかるような、凄まじい圧が襲ってきた。
なんで急に……こんな圧を?
僕は思わず息を呑む。
「私はな……ギルドマスターは本当は副業なんだ」
「副業……?」
「本業は――極道だ」
「…………え?」
極道?僕の頭が一瞬、真っ白になる。
「サランドさんが……極道?」
「そうだ」
サランドさんは淡々と答える。
「アマイのやつは知っている。あいつはうちの組の者だからな」
まさか、アマイさんまで……?
「実力はそこまでないが、自衛くらいはちゃんとできる。だから好きにさせている」
「そ、そうなんですか……」
「ちなみに組の名前はタケイサ組。そして――」
サランドさんは自分を指差した。
「私が組長だ」
「組長……!?」
まさか、サランドさんが?
王都スティティアには、いくつもの極道組織が存在する。
その中でも特に大きいのが、タケイサ組、サング組、キングラン組。
極道は冒険者とは違い、娯楽エリアや商業エリアなどの護衛を主な仕事にしている。
もちろん、縄張り争いや護衛の仕事で下手をすれば王都の騎士に捕まり、牢獄へ入れられることもある。
だからこそ、サランドさんがその一角を担う組長だという事実に、僕は驚きを隠せなかった。
「でも……なんで極道に?」
僕が尋ねると、サランドさんは少しだけ笑った。
「私は昔、冒険者だったのは知っているな?」
「サランドさんが冒険者の時は有名でしたから僕も知ってますよ」
王都ステイティアでサランドさんのことはよく知られている。逆に知らない人を探してみたいくらいだ。
「ああ。だが、極道と冒険者を同時に続けることはできない。だから冒険者を辞めて、ギルドマスターになった」
「それじゃあ、最初からギルドマスターになるつもりだったんですか?」
「いや」
サランドさんは首を横に振る。
「私としては、冒険者も極道も両方やりたかったんだ。だが、王様がうるさくてな」
「王様が……?」
「ギルドマスターになるなら兼業してもいい、と言われた。それで下積みをして、ギルドマスターになった。そして今は、タケイサ組の組長だ」
「そ、そうですか……」
まさかサランドさんがそんなに苦労していたとは。
僕が呆然としていると、サランドさんが真剣な表情に戻った。
「それで、本題だ」
「本題?」
「ああ」
サランドさんは僕を真っ直ぐ見つめる。
「ミサキと、しばらくパーティーを組んだままでいてくれ」
「え?」
「そして――ミサキを守ってやってほしい」
「守る?」
僕は首を傾げる。ミサキを?なんで?
「ミサキはまだまだ経験が浅いとはいえ、実力はある方だと思いますよ」
「そうだ。ミサキには実力がある」
サランドさんは一度言葉を止めた。
「だがな……」
そして、低い声で続ける。
「ミサキは私の妹の娘なんだ」
「……え?」
僕は言葉を失った。ミサキが……サランドさんの姪?
「ミサキに迷惑をかけたくないから、私の方からは何も言っていない」
サランドさんの表情が険しくなる。
「だが、ミサキが私の妹の娘だと気づいた組の者がいるかもしれない」
「組の……者?」
「ああ」
サランドさんは拳を握る。
「そいつらが何をするかは分からない」
その声には、今まで聞いたことのないほどの警戒心が込められていた。
「だから頼む。ミサキを――そいつらから守ってやってくれ」
僕はしばらく何も言えなかった。ただのパーティーメンバーだと思っていたミサキ。その少女が、まさか極道の組長の姪だったなんて。




