東の勇者
自分に厳しいからこそ、自分の体を鍛えたのか。それはすごい。だけど、オサヌにはなぜ常人離れした身体能力があるんだ?
「やつが異能も魔法も使えないのは、その体質にある。生まれた時から身体能力が異常に発達していた。その代わり、魔力を持っておらず、異能も使えない。本人も、なんとなく自分には異能がないと感じていたらしい。まあ、感覚でしかないがな」
ステイティア王は僕にそう説明する。
感覚で自分に異能がないと分かるって……異能って、そんなものなのか?
僕とステイティア王がアゲルとオサヌの方を見ると、アゲルは両手を上げていた。
「降参します。まさか、噂に聞く『異能がない代わりに、常人の何倍もの力を使える人』だとは。異能による肉体強化よりも厄介ですよ、ほんと。そんな人を相手に、私は一撃すら与えられる気がしませんので」
アゲルがそう言うと、オサヌは大剣を背中に戻した。
「逃げるというか、相手の実力を知り、時には引くことも重要だ。だが、君は商人だという。ならば勇者になるのはやめておいた方がいい。勇者とは、利益のために戦うのではなく、平和のために戦うものだからな」
「そこまで言われたら、私の完敗ですわ。大人しく下がっておきます。もしまた商売で会うことがあったら、その時はご贔屓に。東の勇者様」
アゲルはそれだけ言うと、訓練場から出ていった。
そして僕とステイティア王、カゲヤのいる待機部屋へと戻ってくる。
「ステイティア王。私は先に失礼します」
「うむ。余はお前も強いと思っている。だから王として、これからも頼りにさせてもらうぞ」
「ははは。私はただの商人ですよ。商売は頼りにしてもらって構いませんが、戦闘面ではあまり期待しないでください。それでは、みなさん失礼いたします」
アゲルはそう言って、待機部屋から出ていった。すると今度は、東の勇者――オサヌが訓練場から出てきた。
「良い世代が育っていますな、ステイティア王」
「そうだな。南の勇者は、今度は慎重に選ばねばならん。勇者の入れ替えなど、本来あってはならないのだから」
ステイティア王がそう言った直後だった。
待機部屋に、白い鎧を身につけた騎士団の男が入ってきた。
「む? 今日は騎士団隊長のランラが体調不良で休みだから、お前たち騎士も休みにしたはずだが?」
「いえ、ステイティア王。私は王をお守りするために来ました。ここに」
白い鎧を身につけた男がステイティア王へ近づいていく。
その瞬間――
オサヌが動いた。
「え?」
一瞬だった。
オサヌは背中の大剣を抜き、白い鎧の男を斬り伏せた。
「え、何で騎士団の人を?」
僕が驚いて声を上げる。
するとオサヌは、倒れた男を見ながら口を開いた。
「よく見るといい。こいつは王を狙っている奴だ」
「え?」
「君たち候補者の中に、王を狙う者がいると思われていた。だが、それは敵が流した誤情報だ」
オサヌの目が鋭くなる。
「王を狙っているのは、サング組の連中だ。あいつらはかなり性格が悪いぞ」




