勇者
僕はアスベルたちと別れた後、冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに到着すると、中にいたナグモたちと合流し、依頼の掲示板を眺めていた。
すると、僕のもとへ見知った顔が近づいてくる。
「ツブキ。何でお前がここにいる?」
「ディアモ……」
久しぶりに会った、かつての仲間。
ディアモ・アルマ。
いつもは直接ギルドに来ることなんてないのに、今日は珍しい。いったい何の用だろう?
「お前、なんか俺たちにしてるだろ」
「え? いや、パーティーを抜けてからは何もしてないけど……」
「嘘をつけ! お前がパーティーを抜けてから、何もかもうまくいかなくなった。お前が何かしてなければ、こんなことになるはずがない!」
「いや、それはさすがに……」
「だから――」
ディアモは突然、腰の剣を抜いた。
そして、僕に向かって斬りかかってくる。
「えっ!?」
ここ、冒険者ギルドの中だぞ!こんな場所で剣を抜くなんて、正気か!?
僕はすぐさま異能を発動させた。
床に伸びた僕の影が大きく揺らめき、そこから伸びた黒い影がディアモの体に絡みつく。
「なっ!?なんだ、この影は!?」
影に拘束されたディアモは、身動きが取れなくなった。
「ナグモ!」
僕はナグモに向かって声をかける。
ミサキを任せたことを、ここで説明するわけにはいかない。でもナグモなら僕の意図を理解してくれるはずだ。
ナグモは僕の顔を見ると、静かに首を縦に振った。
よし。これで大丈夫そうだ。じゃあ、こいつは僕が連れていこう。
「ディアモさん。ちょっと外でお話ししようか!」
「てめぇ! やっぱり何か隠してやがったんだな! このクソがぁ!」
勇者なんだから、もう少し言葉遣いを考えたほうがいいと思うんだけど……。まあ、今さらか。
僕はディアモを連れて、王都の外へと移動した。
そして、周囲に人がいないことを確認すると、拘束を解いてからディアモをある程度の距離まで投げ飛ばした。
「ぐあっ!」
「お前も異能を使えたとはな! だったら、なんでパーティーにいたときに使わなかったんだ!」
地面に転がったディアモが、すぐさま立ち上がって怒鳴ってくる。
「いや、だってディアモさんが、荷物持ちと道具の補給以外は何もするなって言ったんじゃないか」
「うるせぇ! お前が先に異能を使えるって言わなかったからだろうが!」
いやいや、パーティーに誘われたとき、ちゃんと話そうとはしたよ?
でも、ディアモさんは――。
『お前は荷物持ちっぽい空気だから、荷物持ち以外のことはするなよ』
なんて意味の分からないことを言ってきたじゃないか。
あのときの僕に、どうしろっていうんだよ……。
僕は剣を抜き、ディアモに向かって構えた。
すると、ディアモも剣を握り直す。
「俺に剣を向けるとはな。大人しく殺されていればいいものを!」
「何で急に僕を狙うんだよ。僕を追放したのは、ディアモさんたちじゃないか」
「お前が死ぬと、俺に金をくれる奴がいるのさ」
「……え?」
思わず、耳を疑った。僕が死ぬと、金をもらえる?
「俺はその金で、また娯楽エリアで遊ぶんだよ。俺は勇者だからな!」
ディアモはそう言って、口元を歪めた。
もはや、ただのクズじゃないか。こんな奴が勇者だなんて、とても信じられない。
僕がパーティーにいた頃は、ここまでひどい性格じゃなかった気がするんだけど……。
いや、昔からこんな感じだったか?少なくとも、今よりは少しマシだった気がする。
「僕を殺して得をする人って、いったい誰なんだ? 僕はただ、勇者パーティーで荷物持ちをしていただけの男だよ」
「そうさ。お前は俺の勇者パーティーで、それだけの男だった」
ディアモは剣を構え直し、僕を睨みつける。
「だがな、俺に金をくれるって奴からすれば、そうじゃないらしいのさ!」
「……どういう意味だ?」
「さあな。依頼人のことは教えねぇよ。それが、その人との約束だからな!」
ディアモは再び、僕に向かって斬りかかってきた。




