ザドン兄妹
ヤシオを殺した後、僕とアスベルはザドンに案内され、南ステイティアの路地裏へ向かった。
そこには一軒のボロボロな家があった。
家の中に入ると、そこには一人の幼い女の子がベッドに横たわっていた。
白い肌に、白く長い綺麗な髪。けれど、その体はとても細かった。
十分な栄養を取れていないのか、見るからに弱々しい。
「これは……」
僕が思わず呟くと、ザドンが女の子を見ながら口を開いた。
「俺たち二人は親に捨てられて、ここでなんとか生きている。俺は……妹のカミラが幸せなら、それでいいんだ」
ザドンはカミラと呼んだ女の子の頭を優しく撫でる。すると、カミラはゆっくりと目を開けた。
「あ、お兄ちゃん……」
「カミラ。すまない。起こしてしまったね」
「ううん。ごめんね……私、体が弱くて、お兄ちゃんに迷惑ばかり……」
「そんなことはないよ。いいから、もう少し寝ていなさい」
「ありがとう……お兄ちゃん」
カミラはそう言うと、再び目を閉じて眠りについた。
「この子、体が弱いだけじゃないな。何かあるのか?」
アスベルがザドンに尋ねる。
体が弱いだけじゃない?僕はカミラの細い体を見て、栄養が足りていないからだと思っていた。
「よくわかったな。カミラには異能がある。それに、かなりの魔力も持っているんだ」
「異能と魔力……?」
「そうだ。その両方にカミラの体が耐えきれないんだ。だから、すぐに疲れてしまう」
「魔力が多いと疲れたりするのかは俺にはわからんが……異能は何なんだ?」
「危険を察知する異能だよ。それもかなり特殊でね。未来のことまで見えてしまうことがある」
え、それはすごい異能というか……。もはや未来予知じゃないのか?
「あくまで、自分に関係する危険を察知するだけだ。未来が見えるのも、自分が関わる範囲に限られる。だから、俺と一緒にいる時に起こる危険も察知できるんだ」
ザドンは眠っているカミラを見つめながら続ける。
「カミラの異能は、使うたびに頭に負担がかかるせいで疲れるんだ。さっき起きたのも、俺が帰ってきたことや、何か伝えたいことがあったからだろう。でも、俺は妹に迷惑をかけたくない。カミラには、自分のことだけを心配していてほしいんだ」
ザドンは優しい目でカミラを見つめていた。
すると、アスベルの目にじんわりと涙が浮かぶ。どうやら、ザドンとカミラの兄妹愛に感動したらしい。
「お前ら二人は、俺がなんとかしよう」
アスベルはそう言うと、ザドンに向き直る。
「とりあえず、ザドンはカミラを連れて俺の家に住め。空いている部屋が一つある。そこを二人の部屋にするといい」
「……本当にいいのか?」
「ああ。こんなところで二人だけで暮らすより、そのほうがいいだろ」
「……ありがとう」
ザドンは深く頭を下げた。アスベルはそんなザドンの肩を軽く叩く。
「礼なんかいらん。それより、カミラを大切にしてやれ」
「ああ」
ザドンは静かに頷いた。
その後、アスベルはザドンたちを連れて行くことを僕に伝えると、僕に一つ頼み事をしてきた。
「ツブキ。すまないが、組長に大剣のヤシオという男を始末したことを報告しておいてくれ。たぶんギルドのほうにいると思うから」
「わかりました。それでは、僕はギルドに向かいます」
ギルドには、おそらくナグモとミサキ、セツもいるだろう。
サランドさんと話した後、三人とも合流しよう。
僕はそう考えながら、アスベルたちと別れてギルドへ向かった。




