チェイサー 2
「あまい!」
僕は槍の先端へ向かって剣を振り抜く。
ガキンッ!
槍の刃の部分が斬り飛ばされ、地面へと落ちた。
「俺の槍が斬られたか。仕方ない。決め手に欠けるから、今回は引くとするか」
「逃がすと思うのか?」
僕は異能を使い、地面に落ちた影をチェイサーへ向かって伸ばす。
影がチェイサーの身体を掴もうとした、その瞬間――。
「斬れなくても、殴るくらいならできるんだよ」
チェイサーはそう言うと、槍だった棒を振り下ろした。
ドンッ!
僕の伸ばした影が叩き飛ばされる。
「なっ……!」
まさか、棒で僕の異能を弾くとは。
そして次の瞬間、チェイサーの周囲から白い霧が広がり、僕の視界を覆っていく。
「くっ……!」
視界が完全に塞がれる。
僕は影を伸ばしてチェイサーを探そうとするが――気配がない。しばらくして霧が晴れると、そこにチェイサーの姿はなかった。
「逃げられたか……」
僕は周囲を見渡す。
チェイサーが僕を狙ってきたということは、少なくとも今のところミサキは狙われていないようだ。それならよかった。
まあ、もしミサキが狙われたとしてもナグモがいる。あいつなら、そう簡単にミサキをやらせることはないだろう。
僕はその後すぐに家へ戻り、その日は眠りについた。
そして翌日、僕は冒険者ギルドへ向かい、ギルドマスター室を訪れていた。
ギルドマスター室へ向かう途中、いつもならアマイとすれ違うことがある。
だけど――今日は会わなかった。
「……寂しいな」
思わずそんな言葉が口から漏れる。
もうアマイはいない。その事実を改めて実感してしまう。
僕は気持ちを切り替え、ギルドマスター室の前まで来ると、扉をノックした。
「サランドさん。僕です。ツブキ・ドゥンです」
「ツブキか。入れ」
「失礼します」
僕は扉を開けて中へ入る。
サランドさんはいつも通り机に向かい、書類仕事をしていた。
しかし、今日はサランドさんの近くに見知らぬ女性が一人立っていた。
女性の髪はピンク色のショートヘア、赤い眼鏡をかけ、緑色のセーターの上から白いパーカーを羽織っている。下は黒いズボンを履いていた。
僕が女性を見ていると、女性はサランドさんへ声をかける。
「親父。この方が話していた――」
「セツ。この場で『親父』はやめろ」
「……分かった」
女性は少し不満そうに答えると、サランドさんが僕を見る。
「ツブキ。紹介する。こいつはセツだ。組の者で、まあまあ実力もある」
「よろしくお願いします」
セツさんは僕に頭を下げると、サランドさんは続けて口を開いた。
「しばらく、こいつの面倒も見てくれないか?」
「僕がですか?」
「ああ。頼めるか?」
僕が返事をするより先に、セツさんが口を開いた。
「この人と一緒にいれば……姉さんの仇を取れるんですか?」
「姉さん……?」
僕の知っている人なのだろうか。
僕が疑問に思っていると、サランドさんが口を開いた。
「すまないな、ツブキ。こいつはアマイの妹なんだ」
「アマイの……妹?」
思わずセツさんを見る。言われてみれば、どことなくアマイに似ている気がする。
「アマイは、こいつになるべく危険なことをさせたくなくてな。危ない仕事をさせないようにしていた。私も同じ考えだったんだが……」
「サランドさん。当たり前です」
セツさんが強い口調で言う。
「私は姉さんの仇を討たないといけないんです」
「お前の姉さんは、そんなこと望んでないさ」
「……」
「お前には、幸せに生きてほしいと思っているはずだ」
サランドさんの言葉に、セツさんは一瞬だけ黙り込む。
「そうですね」
セツさんは俯きながら呟く。
「確かに姉さんなら、そう言うと思います」
しかし、顔を上げたセツさんの目には強い意志が宿っていた。
「でも……私は嫌です」
「セツ……」
「それじゃあ、姉さんが報われません」
セツさんは拳を握りしめる。
「姉さんを殺した奴らを、このまま許すなんてできません」
「お前の姉さんの仇は、組でけじめをつける。だからお前は――」
「サランドさん」
セツさんがサランドさんの言葉を遮る。
「私の好きにさせてくれるって、言いましたよね?」
セツさんは、机を勢いよく叩いた。
「私は戦います。姉さんの仇を討つために」
「……はぁ」
サランドさんは大きなため息をついた。
「分かった。お前の意思は固いんだな」
「はい」
「すまないな、ツブキ。ミサキのことも頼んでいるのに、こいつの面倒まで頼んでしまって」
「別に、受けても構いませんよ」
僕はセツさんを見る。
アマイの妹。姉の仇を討とうとしている少女。
「僕もアマイの件では怒っていますから」
僕はセツさんに向かって、そう答えた。




