カイナ・アルナ
私、カイナはツブキさん達と別れた後、教会の中にある懺悔室へ向かった。
懺悔室。そこは日々、自らの罪を告白し、神に許しを乞う者が訪れる場所だ。
私は別の目的でこの場所を使うことがある。
懺悔室に入れるのは、教会の人間と悩みを抱えた子羊――つまり、一人の客人だけ。
だからこそ、ここは人目を避けて話をするには都合がよかった。
私は懺悔室に入ると、すでに中で待っていた男に声をかける。
「……合言葉は?」
「神など信じない」
「よろしい。では、私が頼んだ仕事はしてくれたの?」
懺悔室にいたのは、黒いスーツを着た男、サング組の構成員、チェイサーだった。
チェイサーは口元を歪めながら答える。
「してあげたよ。僕達サング組にとっても、いい話だったからね。情報屋――いや、アマイ・フォンを殺せって依頼は」
チェイサーは肩をすくめる。
「しかし、あんたも汚いよな。教会の僧侶のくせに、こんな汚れ仕事を僕達ヤクザに頼むなんて」
「より良き世界のためです」
私は淡々と答える。
「私はあなた方など信用していません。ヤクザなんて、ゴミとしか思っていませんから」
「……言ってくれるじゃないか」
チェイサーは目元に手を当て、響かない程度の声で笑った。
「まぁいいけど。僕も自分の組の人間で信用しているのなんて、親父くらいしかいないしね」
「サング組のチェイサー。アマイはちゃんと丁寧に処理したの?」
私は背筋を伸ばしたまま、彼に問いかける。
するとチェイサーは、悪びれる様子もなく答えた。
「僕はやってないから知らないな。僕の舎弟にやらせたし」
「……」
「僕が頼まれたのは、アマイを殺すこと。それだけだよ。後のことは知らない」
その言葉を聞いた瞬間、私は背中に手を回し、ダガーを抜く。冷たい刃先を、チェイサーへと向けた。
「私は、ちゃんと丁寧に埋葬するところまで頼んだはずですが?」
「ふん。僕らにそこまでする義理はないよ」
チェイサーは刃を向けられているというのに、動じる様子がない。
「あくまで僕達は、こちらに得があれば動く。それがサング組ってものだからさ」
「……」
「君のパーティーのライトだってそうさ」
チェイサーは楽しそうに笑う。
「彼にツブキの情報を与えて、共倒れさせる――だったかな?」
「それも、できていなかったわね」
私はダガーを握る手に少しだけ力を込めた。
「驚きましたよ。ツブキさんが私のもとへ来た時は」
ライト・スクルドーー。
彼は勇者パーティーにいるには、あまりにもふさわしくない人間だった。
私が殺そうとも考えましたが、僧侶は人を救う仕事。
人の命を奪うことなど、本来なら許されることではない。
だからこそ、彼にはライトと共倒れしてほしかった。それなのに――
「ライトはクズだったから、死んで当然だと思いますが」
私は静かに呟く。
ツブキさんのせいで、今の勇者パーティーは残念な状態になっている。せめてライトと共倒れしてくれればよかったのに。
まさか、ツブキさん自身が私のもとへ来るとは思わなかった。
「あんたも、ひどい僧侶だよな」
チェイサーが口元を歪める。
「アマイは、あんたの幼馴染だったんだろ?」
「……」
私は一瞬、言葉を失った。
――なぜ、こいつがそれを知っている?私とアマイが幼馴染だったことを知る人間は少ない。
幼い頃、私とアマイはよく一緒に遊んでいた。
それも幼少期だけの話。それ以来、私達が顔を合わせることは一度もなかったが、久しぶりに彼女を見かけた時は驚いた。
まさか、アマイが、情報屋としてヤクザに情報を流す仕事をしているなんてーー幼い頃の彼女を知る私には、とても信じられなかった。




