第43話 蜂蜜ケーキと香草茶の午後
昼の鐘が鳴る頃、俺は宿の前に戻った。すでに仲間たちは揃っていて、それぞれの買い物を誇らしげに見せ合っていた。リィナは新しい羊皮紙を広げて語り、ソフィは薬草の香りを嗅ぎ分け、レオンは研ぎ直した剣の刃を月光に見立てて自慢していた。エラは紙袋を抱え、嬉しそうに中身を見せようとしている。
「さて、腹ごなしがてら町を一回りしてみないか?」レオンが声を上げる。
「いいわね。せっかくだし、どんな所なのか見ておきたいもの」リィナが頷く。
「市場じゃなくて、川沿いの店に行かない? 珍しいお茶もありそうだし」ソフィがさらりと提案した。「わたし、甘いものがいいな」エラが小さな声で加える。
「はは、結局そこか」俺は笑って肩をすくめた。
異論はなく、俺たちは肩を並べて石畳の通りを歩き始めた。
ルシアリスの昼は、朝以上の賑わいを見せていた。水辺を渡る風が涼やかで、川沿いの道からは湯気混じりの香ばしい匂いが漂ってくる。白い布張りの屋根を掲げた小さなカフェが並び、果実を浮かべた冷たい水や香草茶の香りが通りに溶け込んでいた。
黒板メニューを抱えた店員が、テラスの木卓に立て札を置いた。
レオン「一番ボリュームのあるランチを二つ。いや、三つで」
ソフィ「量で選ぶのはやめて。私は香草茶。ミントとレモンバームを半々で」
リィナ「私は果実水と……蜂蜜ケーキ。景色に甘いもの、映えるでしょ?」
エラ「わたしもそれにする。クリームは、ちょっと多めで」
俺「俺は薄めのブロスで。」
レオン「シンが真面目に選ぶと落ち着くな」
ソフィ「誰かがバランスを取らないと、あなたはすぐ暴走するから」
やがて陶器の皿が次々と置かれ、湯気と香りが卓の上に広がる。水面にきらめく光が、カップの縁にも小さな揺らぎを作っていた。
リィナ「……こうして町を歩いてると、旅って不思議ね。昨日まで知らなかった人たちと、今日は肩を並べているんだもの」
ソフィ「出会いは偶然でも、続くかどうかはお互い次第よ。……それが旅の厳しさでもあるわ」
レオン「堅いことはほどほどにな。俺はまず腹を満たす。話はそれからだ」
エラ「ちゃんと食べておかないと、だよね」
俺「まあ、どっちも正しい。」
エラが蜂蜜ケーキにフォークを入れた瞬間、小さな蜂がふらりと飛んできた。
エラ「あ……来ちゃった」
レオン「おわ、でっかい!」
ソフィ「動かないで。ミント、貸して」
ソフィは自分のカップを蜂に近づけ、立ちのぼる湯気をそっと送る。蜂は一瞬ためらい、やがてふわりと離れていった。
リィナ「さすが。最小の手間で最大の効果」
ソフィ「蜂は無駄な衝突を避けるの。人間も見習うべきね」
レオン「俺も甘味に突撃しないでおくか……一口ちょうだい」
エラ「だめだよ。これは、がんばったぶんのごほうび」
飲み物が出揃い、自然とカップが中央に寄る。
リィナ「辿り着くべき場所へ」
ソフィ「無事に、ね」
レオン「でかい戦果と、そこそこの安酒を」
エラ「おいしいの、たくさん」
俺「じゃあ――明日に乾杯」
軽くカップを触れ合わせる音が、水面のきらめきに溶けた。




