最後の演劇です
舞台に向けて、シャルとタールとポーラが立ち並ぶ。
「それじゃ、行ってくるね。」
「おう。一番手、しっかりと決めてこいよ。」
「うん、頑張る。」
「任せなさい。」
「私も、一生懸命やってきます。」
舞台が盛り上がるかは、この三人にかかっている。
だからこそ、一番緊張している事だろう。
そんな三人へと、フィーが声をかける。
「私も応援しているぞ。後、リリアとディルもな。」
「二人も?」
「あぁ。頑張れって、離れてても一緒だってな。」
「そっか。そっかそっか。だったら、尚更みっともない姿は見せられないね。」
その言葉を聞いて笑顔になるシャル。
シャルにとって、最大級の励ましだろう。
シャルを見て、横の二人も笑顔になる。
そうしていると、舞台に音楽が流れ出す。
「それじゃ行くよ!」
「了解よ!」「了解です!」
音楽に合わせて、アイドルの三人組が飛び出す。
そして、いつも通りに観客達へと叫ぶ。
「皆、お待たせ! マーカス劇団、始まるよーーーっ!」
「「「おおおおおおおおっ!」」」
シャルの声に、観客が盛り上がる。
そんな観客に迎えられながらも三人が歌い出す。
まずは順調な盛り上りだ。
その光景を見て、他の団員達の士気が上がる。
「やるねぇ。」
「負けてらんねぇぜ。」
「あぁっ。ベテランの意地見せてやらぁ!」
新人達には負けてられない。
そうしている間にも、三人が歌い終わる。
「さ、次はこの人達。全力で楽しんでいってね!」
シャルの言葉に合わせて、劇団員達が舞台に出る。
その際、次の演目の仲間達同士で手を叩き合う。
そうしながらも、それぞれが己の演技をこなしていく。
そんな中、仲間達もまた完璧に決めていく。
手を叩き合いながらも、順番に出ては演劇を繋いでいく。
演技が決まる度に、観客もまた盛り上がる。
そうして、マークが舞台にはけていく際に俺達を見る。
「次は二人の番ですよ。頑張って下さい。」
「あぁ、やってやるさ。行くぞ、にゃんすけ。」
にゃ。
勿論っ。
そう言いながら、マークと手を叩き合う俺達。
そうしながらも前に出る。
「私達の最後の舞台へ!」
俺達の最後の舞台へ!
マークと入れ替わるように、俺達が舞台へと飛び出す。
俺達の最後の演劇をこなす為に。
そうして、俺達もまた演技をこなしていく。
演舞による、激しい果実の奪い合いだ。
俺達が飛び交わす度に観客が盛り上がる。
そんな中、果実を奪い取る事が出来たのは…。
「はっはっはっ。まさか、引き分けとはな。そんなこともあるもんだな。」
舞台袖にはけた俺達を、笑いながら迎えるリーグル。
それを聞いたフィーは、悔しそうに拳を握る。
「ぐうっ。まさか、あそこで果実を切ってしまうとは。」
にゃ…。
お陰で物足りないよ…。
結果は引き分けだ。
つい斬ってしまった果実が二つに割れた。
直後、お互いへと飛んでいってしまったのだ。
お陰で、お互い物足りない結果となってしまった。
それでもと、リーグルは満足そうに頷く。
「だが、良い演技だったぜ。さてと、次は俺の番だな。」
「あぁ、頑張れよ。」
にゃ。
頑張ってね。
そう言いながら、俺達と手を叩き合うリーグル。
そうして、フィーと入れ替わるようにリーグルが舞台へ出る。
用意された斧を担いだリーグルが、己の演技をする。
そこで、観客達の盛り上がりは最高潮となる。
そんな観客に満足しながらも、リーグルが戻っていく。
「どうよ! 俺にかかればこんなもんだぜ!」
「うん。一気に盛り上がったよね。」
「まぁ、一番盛り上がる演目だからね。なかなかやるじゃない。」
「うん、凄かった。」
「そうだろそうだろ。そんじゃ、次はお前らが見せる番だ。最後の締め頼んだぜ。」
「「「了解っ!」」」
そう返事をしながら、リーグルと手を叩き合っていくアイドル組。
そうして、三人が再び舞台へと向かう。
リーグルと入れ替わるように舞台へと出ると…。
「皆! 盛り上がってるぅ?」
「「「おおおおおおおおっ!」」」
「それじゃあ次が最後! 歌に合わせてのパフォーマンスです! 最後まで盛り上がっていってねぇ?」
「「「おおおおおおおおっ!」」」
遂に最後の演目が始まる。
三人の歌に合わせて、劇団員が演技をしていく。
劇団の大人や子供が入り交じって舞台を盛り上げる。
それを見ている観客は、誰もが楽しく笑っている。
誰もが立場を忘れて声をあげている。
こうして、最高潮のまま演劇が終わる。
「残念だけど、これで演目はおしまい。演じてくれた皆さんに盛大な拍手を!」
シャルに合わせて、観客達が拍手で劇団員を称える。
そんな拍手に応えるように、劇団員達が舞台へと出てくる。
そうして、各々が観客達へと手を振っていく。
その際、ポーラが観客席の男性に気づく。
「お父さんっ!?」
そこにいたのは、ポーラの父親だ。
そんな父親は、劇団員を、自分の娘を、胸を張って見守る。
それに驚くポーラへとシャルが耳打ちする。
「ようやく気づいた?」
「知ってたの?」
「うん。団長と話してね。サプライズで脅かそうって。」
「え? お母さんが?」
シャルの言葉に、舞台袖の母を見るポーラ。
すると、そこにいたマーカスがポーラへとウインクする。
明らかに、全てを知っているような仕草だ。
その事に動揺しながらもポーラは手を振り続ける。
それを横目に、タールが観客席の奥の異変に気づく。
「どうやら、会いに来てくれたのは私達も同じのようよ。」
「え?」
タールの言葉に、シャルもまた観客席の奥に気づく。
そこには、淡い光のようなものが人の影をかたどっていた。
それを見たシャルが微笑む。
「約束。果たしに来てくれたんだね。」
「みたいね。」
そこにいたのは、約束を交わした者達なのだろうか。
だとすれば、その約束を果たしに来てくれたのだろう。
そんな影へと、シャル達が手を振る。
そうしながらも、演劇の幕が降りるのだった。
それからしばらくが経ったころ。
観客達が、それぞれの場所へと戻っていく。
そうして、空となった観客席で仲間達が寝転ぶ。
「終わったな。」
「あぁ、終わったな。まるで、夢を見ている気分だ。」
そうだね。
なんだか心がフワフワするよ。
観客席と共に、心もまた空になる。
全力で演劇をこなした反動だろう。
だけど、それが何処か心地良い。
「成功して良かったですね。」
「そうだねー。上手く盛り上げられて良かったよ。」
「やったかいがあったというものだ。」
「うん。これを気に仲良くなっていくと良いね。」
「じゃなかったら困るわよ。」
「そうですね。これだけ頑張ったんですから。」
これだけ盛り上がったのだ。
二つの国は、これで仲良くなってくれるだろう。
その為に頑張ったのだから。
それでもと、フィーが呟く。
「しかし、これで上手く行かなかったら。」
「その時はまた演劇をすれば良いじゃない。今度は、もっと沢山の観客を連れてね。」
「だとすれば、この舞台じゃ足りないかもな。」
「あぁ。もっと、大きな物を用意しないとだ。」
「遠くまで見渡せるぐらいにねー。」
「では、団長に頼みますか?」
「いえ、流石のお母さんも困ると思います。」
「だよなー。」
また仲が悪くなったら、その者達を全員連れてこれば良い。
たとえ、その数が沢山になったとしてもだ。
その者達を、まとめて笑顔にすれば解決するのだから。
それでもと、シャルが呟く。
「でも、そこにはもうフィーとにゃんすけはいないんだよね。」
その言葉で、黙り込んでしまう一同。
正真正銘、俺達の演劇はこれで最後だ。
その頃には、次の旅に出ているだろう。
「ねぇ、ここに残る気は……ないよね。」
「すまないな。私達にも目的があってな。」
にゃあ。
旅を続けなきゃだもんね。
「そっか……そうだよね。」
ここにいたいという気持ちはある。
しかし、俺達は旅の途中なのだ。
いつまでも、ここにいる訳にはいかない。
それを聞いたタールが呆れる。
「あんまり無茶を言っちゃ駄目よ。気持ちは分かるけど。」
「分かってるって。ちょっと聞いてみただけだよ。」
ただ聞いてみてみたかっただけだ。
そうして、はっきりとフィーの口から聞きたかったのだろう。
しかしと、リーグルがフィーを見る。
「でも、戻りたくなったら戻ってこいよ。ここは、お前達の場所でもあるんだからな。」
「あぁ、そのつもりだ。今回の演劇で、にゃんすけとは五分のままになってしまったからな。決着をつけないとだ。」
にゃ。
このままなんてのもあれだしね。
今回で決着は着かなかった。
そのせいで、お互いが五分五分のまま終わってしまった
このままなのは、納得が出来ないのである。
すると、それを聞いたシャルがフィーを見る。
「ほんと? 嘘じゃないよね?」
「あぁ。またいつか帰ってくる。そして、みんなとまた演劇をしよう。」
「じゃあ、約束だね。」
「あぁ。約束だ。」
にゃ。
約束だね。
またいつか一緒に並び立つ為に。
新たな約束を交わすのだった。
これでまた、いつか会う事が出来るだろう。
しかしと、マークが呟く。
「でもこれで、折角作り直した演劇の順番も戻さないとですね。」
「うっ。それはすまない…。」
「いえ、元に戻すだけですから苦労はしませんよ。ただ…。」
「なんだか物足りなくなるって言いたいんだよねー?」
「はい。そうです。」
折角増えた演劇の順に慣れ始めたところだ。
そこから一つなくなるのだ。
物足りなくなると感じるのも無理はない。
それを聞いたリーグルが呟く。
「そうだなぁ。せめて、数はそのままに出来れば良いんだが。」
そう言いかけた時だった。
「では、私達がその穴埋めましょうか?」
「え?」
突然の声に、そちらを見る俺達。
すると、そこにはリリアとディルが立っていた。
それに気づいた俺達が体を起こす。
「お前らっ。帰ってなかったのかよ。」
「はい。フィーさんとの会話を聞いていたみたいで、残りたいなら残りなさいって。」
「でも、王女さんがこんな所にいるなんてよ。」
色々と大丈夫なの?
安全とはいえ、王女がこんな場所にいるというのはどうだろうか。
ただでさえ、国にとって重要な存在なのだからだ。
それでも、リリアは首を横に振る。
「それなら大丈夫です。ディルがいますから。」
「ってか、俺がいるからってのもあるけどな。」
「そういう事です。それに、皆さんとなら大丈夫だとお墨付きも得てますから。」
国を救った英雄達になら任せられるとの事だろう。
そうして、ここに娘を置いていったという事だろう。
それを聞いたリーグルが頷く。
「そうか。そういう事ならだ。それで、穴を埋めるっていうのは?」
「勿論、私達も演劇に参加したい。という事ですよ。」
「そういうこったな。まぁ、公務がない時に限るけど。」
要するに、フィーが抜けたところに入ると言うのだ。
これなら、物足りなくなる事はなくなるだろう。
それを聞いたシャルが前に出る。
「もしかしてアイドルに!?」
「じゃないでしょ。よね?」
「え? えぇ。流石にあんな風に盛り上げるのは難しいと思いますし。」
「それに、四人だと数が微妙だろうぜ。」
「ほらね?」
「じゃあ、ディルがアイドルになれば丁度良くなるよ!」
「あぁ。って俺ぇ!?」
「「「あはははっ!」」」
そのやり取りに笑い合う仲間達。
突っ込みを入れたディルもまた笑い出す。
誰もが何気ない会話を楽しんでいる。
そんな中、リーグルもまた笑いながら二人を見る。
「だけど、二人なら大歓迎だぜ。」
「そうだね。一緒に戦った仲だもんね。」
「おうよ。それに、ディルの実力は確かだしな。」
ディルの実力は知っている。
なので、即戦力として優秀だろう。
しかしと、リリアが困った顔をする。
「先に言っておきますが、私は上手く出来るとは限りませんよ?」
「おう。大丈夫だ。フィーより酷くはならないだろうよ。」
「酷くて悪かったなっ。」
まぁでも事実だし。
どうなるか不安なのだろう。
それでも、フィーほど酷くならないのは確かだ。
ならば、選択肢はあるだろう。
すると、それを聞いたシャルが手を上げる。
「じゃあやっぱり…。」
「ストップ。くどいのは引かれるだけよ?」
「じゃあ、こっそりと洗脳をしておくか。」
「えぇっ!? 何かされるんですか? 私っ。」
「させないから安心なさい。てか、諦めなさいよっ。」
「じゃあ、仕込むのがありならすんごい大道芸を…。」
「いやいや。すんごいって何よ。ってか、何がじゃあよっ!」
「「「はははははははっ!」」」
そうして、再び笑い合う俺達。
未来がどうなるかは分からない。
それでも、一同はやはり楽しそうだ。
そんな中、笑いを堪えながらもリリアが宣言する。
「ふふっ。まだまだ新米で右も左も分かりませんが、よろしくお願いします。」
「「「よろしくっ!」」」
リリアの言葉へと揃って返す仲間達。
それに頷いたリリアは、横のフィーと俺を見る。
「そういう事なので、安心して旅に出て下さいね。」
「だな。あんたらがいない間は、ちゃんと守ってやるからな。」
「そして、いつか一緒に舞台に立ちましょう。」
「勿論だ。」
にゃ。
勿論だよね。
いなくなった穴を埋めるだけではない。
いつかは舞台に立ってみたい。
いつかは肩を並べて立ってみたい。
俺達もまた仲間なのだから。
そんな話をしていた時だった。
どこからかマーカスが現れる。
「そんなら、話は早いじゃない。」
「おわっ!?……なんだ、団長。」
「なんだてなにさ。なんだって。人を化け物みたいにさ。」
驚くリーグルを睨むマーカス。
いきなり現れて驚いただけだろう。
しかし、マーカスは納得がいかないようだ。
そんな二人の間に、ポーラが割り込む。
「まぁまぁ。それで、なんのようなの? お母さん。」
「ん? あぁ。丁度、フィーとにゃんすけの送迎会をしようと思っててね。ついでに、二人の歓迎会もしちゃおうかってね。」
既に、お祝い事の準備は進んでいるようだ。
ならばと、一緒にしてしまおうとの事だ。
それを聞いたリリアが恐縮する。
「そんな。良いんですか? 私達の為に。」
「良いって良いって。いつもより、派手な食事を用意するだけだしね。まぁ、用意してくれたのは、二人の親なんだけどね。って事で、既に皆待ってるよ。」
マーカスが後ろを見る。
すると、火を囲んだ劇団員がグラスを持ってこちらを見ている。
「後はお前達待ちだぜ。」
「皆、待ってるわよ。」
「ほら。早く始めちまおうぜ。」
「だとさ。早く準備しちまいな。」
「「「了解っ!」」」
「は…了解ですっ。」
にゃ!
了解っ!
マーカスの指示で、俺達は団員達と合流する。
そうして、俺達もまたグラスを持つ。
それを見たマーカスがグラスを掲げる。
「そんじゃ、劇団と新人と旅立つ者の未来を祝って乾杯っ!」
「「「かんぱーーーーーいっ!」」」
乾杯だよ!
これからの劇団を祝して、グラスを交わしていく。
そうして、用意された食事を楽しんでいく。
時には、笑いながら。
時には、会話で盛り上がりながら。
時には、子供に混ざってはしゃぎながら。
時には、飲み合いで競い合いながら。
沢山の劇団員が、一つとなって未来に希望を抱く。
それからしばらく経った時だった。
地面に倒れる劇団員達の姿があったのだった。
「で、結局こうなるんかいっ!」
にゃー。
もはや、恒例行事だねー。
お約束とばかりに、酔いつぶれてしまったようだ。
そんな光景に呆れるフィーの突っ込みが、夜の闇に虚しく響くのだった。




