演劇前の見回りです
会談から二日後。
二つの国境付近に人が集まってくる。
その大きな池が見える場所。
つまり、魔族と大樹をかけて争った場所に。
「またここに戻って来るとはな。」
「だな。まぁ、整地された場所と言えばここぐらいだしな。」
にゃ。
でも、分かりやすくて良いよね。
その場所で、組み立てられたステージを人が囲む。
その上から、リーグルとフィーと俺が周りを眺める。
かつて来た場所に想いを馳せながら。
そんな俺達をマーカスが呼ぶ。
「あんたら、準備は出来たのかい?」
「おう。順調だぜ。」
「こちらもだ。」
にゃ。
良い感じだよ。
準備は順調に進んでいる。
後は、その時が来るのを待つだけだ。
それを聞いたマーカスは満足そうに頷く。
「そうかい。今日は今までで一番の大舞台だからね。しゃんとするんだよ!」
「了解だぜっ。」「了解だっ。」
にゃっ。
了解だよっ。
今日の舞台は、今までで一番の大舞台。
なにせ、人の数が今まで以上なのだから。
それゆえに、今まで以上に身も心も引き締まる。
そして、それはマーカス自身もだ。
そんなマーカスを、リーグルが見る。
「なんと言うか、ありがとな。今回の件、引き受けてくれて。」
「はっはっ。何言ってるんだい。マーカス劇団、困った人がいるなら何処にでもだ。むしろ、こんな舞台を用意してくれて誇らしいよ。」
「そうか…。」
やっぱり良い人だね。
リーグルの感謝に笑って返すマーカス。
今回の一件、マーカスは喜んで受け入れてくれた。
予想通りとはいえ、感謝が尽きない。
そんなマーカスは、楽しそうにリーグルの背中を叩く。
「そういう事なんで、しっかりと皆の様子を見とかないとね。そんじゃ、本番までに気を緩めるんじゃないよー。」
そう言い残し、手を振りながら去っていくマーカス。
どうやら、励ましに来てくれたようだ。
このように、他の劇団員も励ましに回るのだろう。
それを見送った、リーグルは肩を回して気合いを込める。
「そんじゃ、俺も仕上げに行くかな。フィーとにゃんすけはどうする?」
「私か? 私はまぁ、演劇に使う果実は確保したし本番を待つだけだしな。それまで適当にぶらついてるよ。」
「そうか。そんじゃ、また後でな。」
「あぁ。後でだ。」
またねー。
そう言い残し、リーグルが自分の持ち場へと戻っていく。
そこで、本番までに最後の仕上げをするのだろう。
そんなリーグルを見送った俺達は改めて客席を見る。
「では、本番まで適当に挨拶をして回るか。」
にゃ。
そうだね。
本番まで時間がある。
それまでする事がない。
ならばと、俺達は舞台から降りる。
「さて、誰から話そうか。」
にゃ。
どうしようかね。
舞台から降りて観客達を見渡す俺達。
そこには、見知った顔や知らない顔が多々ある。
ここにいる殆どが、招待された者達だろう。
そんな観客達を見ていると、いきなり声をかけられる。
「お、ハンターのねぇちゃんじゃねぇか。」
「ん? あぁ。お隣さんのハンターか。」
本当だ。
ってか、もう飲んでるし。
真っ先に声をかけて来たのは隣国のハンターだ。
酒に酔ってるのか既に顔が赤い。
誰もが騒ぎながら酒を飲んでいる。
ただ、見慣れない顔がいるのにフィーが気づく。
「あれ。見慣れないのがいるが。」
「ん? あぁ、向こうのハンターだ。ほれ、助けに来てくれただろ?」
「あぁ。確かにな。」
あのバーサーカー達の事ね。
「あれから息があってな。再開ついでに盛り上ってるって訳だ。」
「そうか。それは何よりだ。」
仲良くなる為に集めたもんね。
盛り上ってくれるのはありがたいよ。
一緒に戦った事により、打ち解けあったようだ。
ハンター達に関しては、目的を達成したと言っても良いだろう。
しかし、目的を達成したのはハンター達だけではない。
「こっちにもいるわよー。フィーちゃん、にゃんすけちゃーん。」
「うわっ。ギルドリーダー。」
例の怠け者のギルドリーダーがそこにいた。
いや、それだけではない。
その周りには、港町の職員達や隣国のギルドの職員達がいる。
「皆も一緒なのか。」
「せっかくだしね。お互いのギルド同士の交流もって事でね。」
「こうして話し合うのも必要な事だからな。」
「これからは、一緒にやってく事になりそうだしね。」
そうだよね。
これからは、一緒にやっていくんだもんね。
二人のギルドリーダーに、イオフィもまた同意する。
これからは、国同士が仲良くやっていくのだ。
ならば、ギルドもまた仲良くやっていく筈だ。
その為にも、こうして交流するのは必要な事だ。
すると、フィーが横にいる港町の職員達に目が行く。
「それで、あんた達も同じなのか?」
「ん? まあな。今回の件でもっと連携を深めようってなってな。」
「ちょっと忙しくなりそうだけどな。」
「まぁでも、こうして念願の演劇に来れた訳だしね。これ以上に嬉しい事はないよ。」
「おうよ。それに比べりゃ忙しくなるぐらい問題ねぇぜ。」
「休む暇がなくなってもか? 魔物達の数も少しずつ戻って来ると思うが。」
「あー。そこまでいくと勘弁だが。」
まぁ、そうなるよね。
でも、その為の連携だもんね。
致し方なし。
こちらの魔物がいないのは、魔族が隣国に送っていたからだ。
その魔族がいなくなった以上、魔物の数は増えていくだろう。
そうなると、職員にしわ寄せが向かうのは仕方のない事だ。
それでもと、こちらのギルドリーダーが否定する。
「だーいじょうぶだって。これからは、じゃんじゃん働いていくからね。ハンターの皆が。」
「って、俺達かよっ。まぁ、知ってたけどよっ。」
国がどう変わろうが、本人の怠けぐせは変わらないようだ。
それでもと、そんなやり取りに本人とハンター達は笑い出す。
そんなギルドリーダーの振る舞いに、イオフィが恐れを抱く。
「これが噂の怠けぐせ。恐ろしいわね。」
「こっちに仕事を振らないだろうな?」
「さあ? どうだろうな。」
「否定はしないんだな。」
出来ないからね。
本来ならありえない事だ。
しかし、否定が出来ないのが恐ろしいところだ。
その事に、隣国のギルドマスターも体を縮込ませる。
そんなやり取りに、港町の職員が笑う。
「ま、こんなやり取りが出来るのもフィー達が平和にしてくれたからだよな。」
「そうだよな。あん時に適当に捕まえて飯を奢ったのが、今じゃ立派な国のヒーローだ。」
「あぁ。珍しい体験をさせてもらったもんだよねぇ。」
「だな。しばらくは仕事場で自慢させてもらうぜ。」
「ははっ…。まぁ、そっちが良いなら。」
にゃ。
ご自由に語っちゃって下さいな。
初めて会った時は、ただの観光客。
そして、今は国のヒーローだ。
そんな相手に初めに会ってご飯を奢ったのだ。
ならば、自慢したくなるのも無理はない。
そんな話で盛り上がる一同と別れた俺達は次へと向かう。
すると、どこからか聞き慣れた歌が聞こえてくる。
「らららー。睨みあっていた者達はー、拳の代わりに肩を組んでー、共に未来へ歩いてくー。……どうでしょうか?」
「どうでしょうと言われましても。」
「うーむ。反応に困るな。」
「そうですか。出直して参ります。」
アマガセとホルバーと天空人の女性が、なにやら話し込んでいる。
どうやら、アマガセの歌に首を傾げているようだ。
そんなアマガセ達へと、フィーが質問する。
「えーと、何してるんだ?」
「おや、お二方。見ての通り私の歌を聞いて貰っているのですよ。」
「時間まで暇だったからな。どうせならと歌を聞いていたのだ。」
「まぁ、どうやら私達には…その…早かったみたいです。」
「そ、そうか。」
なんか凄い言葉を選んでるね。
暇を潰す為に歌ったのだろう。
しかし、二人には伝わらなかったようだ。
つまらなさそうに、寝ている魔物を撫でている。
その事に、アマガセは肩をすくめる。
「まぁ良いでしょう。本番はこれからなのですから。」
「ん? そういえば、シャル達の歌に引かれたと言っていたな。」
「いかにも。初めて見た時に感銘を受けましてね。今回の演劇の話を聞いた時は、見逃せないと駆けつけてきた程でございます。」
「そして、ついでに我々もという事だ。」
「えぇ。アマガセさんを魅了した歌、楽しみにさせていただきます。」
「うむ。その為に、早く仕事を切り上げたぐらいだしな。」
なんだかんだいって、二人とも興味があるようだ。
アマガセが気に入る程のアイドルの歌を。
当の本人を含め、今か今かと待ち受ける。
しかしと、フィーがホルバーの言葉に疑問を持つ。
「仕事? そういえば、三人は今まで何をしてたんだ?」
「後始末です。残った魔の樹を取り除き、魔族から戻った人達を介抱してました。」
「戻った人達? そうか、実験に付き合わされた町の人達か。」
「だな。それと、森の中に仕組まれていた樹もな。」
魔族に襲われた時の森だね。
こちらでも、大樹によって魔族に変えられた者がいる。
しかし、その者達もまた気を失っていただろう。
何をされたのか分からぬままに。
その者達を助ける為に動いていたようだ。
それを聞いたフィーが感心する。
「そこまで気が回らなかったな。任せてしまって済まなかった。」
「謝罪は不要なり。フィー殿もまた被害者なのだからな。」
「えぇ。私達は私達の仕事をしたまでです。」
「そうですね。頑張った分、これから堪能させていただきますので。」
「そういう事なので、演劇、頑張ってくれたまえよ。」
「あぁ、分かった。」
にゃ!
楽しませてみせるからね!
見えない所で頑張っていた三人の為にも意気込む俺達。
任せてしまった分は、楽しませて返すつもりだ。
そんな三人と別れた俺達が次へと向かう。
そこでは、両国の王族達が机を囲んで飲み物を飲んでいた。
その中のリリアが真っ先に俺達に気づく。
「あ、フィーさんとにゃんすけさん。」
「お、リリアか。」
にゃー。
どうもー。
手を振るリリアへと手を振り返す俺達。
そうしながらも、リリア達の下へと向かう。
すると、王達もまたこちらを見る。
「これはこれは。ようこそおいでくださいました。」
「どうぞ。開いた席にお座り下さい。」
「あぁ。すまないな。」
にゃー。
お邪魔しまーす。
開いた席へと座る俺達。
すると、従者によって目の前に飲み物が注がれたコップが置かれる。
それを手に取ったフィーが一口つける。
「ふぅ。どうやら、上手くやれているようだな。」
「おかげさまで。めでたい事に、険悪な事なくやれてるよ。」
「あぁ。案外、会話が弾むものでな。」
不安視していた険悪な雰囲気はない。
むしろ、楽しそうに交流をしている。
そして、それは民も同じ事。
「我々も含めて、皆が楽しくやれている。それだけでも、今回皆を集めたのは正解だった。」
「そうだな。やはり、交流する事は大事だ。」
「あぁ。いっその事、この場に交流出来る場所を設けようか。」
「おぉ。それはありだな。そうすれば、二度と途絶える事も無かろう。」
一度途絶えてしまったのは、交流が無くなったからだ。
ならば、交流出来る場所さえあれば二度と途絶える事はない。
そうして、その為の話に没頭してしまう。
女王達もまた混ざって盛り上がる。
俺達を放ったらかしにしておいて。
それを見たリリアが呆れる。
「おーい。駄目ですね。ずっと、こんな感じなんですよ。」
「お陰で、こうして私達ものんびりと話し合えている訳ですけどね。」
「はい。実りある時間を過ごさせて貰っています。」
盛り上がる親をよそに、王女の三人はしっとりと楽しんでいる。
三人も三人で会話を楽しんでいるようだ。
その内のシェルートをフィーが見る。
「そういえば、シェルートはもう大丈夫なのか?」
「はい。霊脈を調整したお陰で、もう苦しくありません。皆さんのお陰です。それと、二人もね。」
「いえいえ。私は付き添っただけですので。」
「うん。お姉さまがご無事なら何よりです。」
「ですけど、リリア。もう無茶はしないで下さいね?」
「あうっ。はい、心から誓います。」
シェルートに指摘され縮こまるリリア。
そのリリアの様子に俺達は笑う。
そんなリリアは、誤魔化すようにフィーを見る。
「えーと、そうだ。二人は、この後の演劇に出るんですよね?」
「あぁ、そうだが。」
「ですよね。本当は、私とディライトも付き添いたいのですけど。」
二人もまた仲間なのだ。
本当なら、劇団と共にいたい筈だ。
しかし、二人にはするべき事がある。
その事実に、指摘されたディルが肩をすくめる。
「見ての通り、俺達は席を外せねぇ。だから、皆には代わりに謝っといてくれねぇか?」
「私の分もお願いします。それと、頑張ってとも。」
「離れていても一緒だぜってな。」
「あぁ、分かった。二つの国を繋ぐ重大な仕事だもんな。伝えておこう。」
「頼みます。」「頼んだぜ。」
うん。
皆、喜ぶだろうね。
ここにいる事が、今するべき二人の仕事だ。
それでも、思いは同じ筈なのだ。
その思いごと、俺達は預かるのだった。
そうしながらも、俺達は飲み物を飲み干す。
「では、そろそろ行こう。」
「おっと、少し待ってくれ。」
「ん?」
どうしたの?
立ち上がろうとした俺達を、こちらの国王が呼び止める。
そうして、俺達を見ると…。
「頼まれていた人達、無事に連れてきた。今頃、従者が案内している筈だ。」
「そうか。助かる。」
「いや。これぐらいしかやれなくて申し訳ないぐらいだ。」
「気にするな。充分過ぎるさ。」
にゃ。
そうだね。
それだけ言葉を交わすと、王族達に別れを告げる。
そうして、目的の場所を目指して歩きだす。
「どれ、誘っておいて無視する訳にもいかないからな。行ってみよう。」
にゃ。
そうだね。
そう言いながら、次へと向かう俺達。
すると、従者達と共に行動する者達が見えた。
その者達の下へと俺達は行く。
「おーい。」
「あ。どうも。お久し振りです。」
その者達の正体は、初めに行った村の住人達だ。
こちらを見るなり、笑顔で迎え入れてくれる。
その代表として、村長が前に出る。
「お二人なんですよね? 我々を誘っていただいたのは。」
「このような場所に誘っていただき感謝しています。」
「えぇ。年甲斐もなく、ずっと心待ちにしていましてねぇ。ほら、子供達も。」
大人が見る前で、子供達がそわそわと演劇が始まるのを待っている。
そんな大人達もまた、嬉しさを隠しきれていないようだ。
そんな中、見慣れた男性が俺達の前に出る。
「本日はありがとうございます。最近は寂しいと思う事が増えていたので、本日はめいいっぱい楽しみたいと思います。」
「そうか。やはりまだ。」
「えぇ。すみませんね。」
その男性は、友の魔族の父親だ。
何故か、家族の記憶が消失しているのだ。
そんな男性は、寂しそうにうつむくのだが。
「でも最近、よく夢を見るんです。」
「夢?」
「はい。誰かと食卓を囲う夢を。」
きっとそれは、失った記憶だろうか。
それともまた、別の何かだろうか。
その正体は分からない。
それでも、それを聞いたフィーが微笑む。
「また見たいか?」
「はい。あの夢を見ると、なんだか温かいものが宿っていく感じがするんです。大切な何かが戻ってくるような感じが。」
「そうか。なら大丈夫だ。今日は一段とよく見れるぞ。」
「え? それはどういう事です?」
「その時が来たら分かるさ。」
にゃ。
うん。
きっとね。
きっとまた見れるだろう。
ここにいれば会いに来てくれるのだから。
それを知るフィーは、魔族の父を優しく見守る。
そんなフィーを見た村長も笑う。
「どうやら、迷いは無くなったみたいですね。」
「え? あぁ。お陰さまでな。自分なりに答えを見つける事が出来た。」
「そうですか。それは良かった。」
ずっと、フィーの事を心配していたのだろう。
しかし、フィーの笑顔を見て心配は消え去ったのだ。
「その答え、ずっと大事にしていなされ。そうすれば、もう迷う事はないでしょう。」
「あぁ。何となく分かるよ。この答えが、いつか私に力をくれるとな。」
そう言いながら、自身の手を見つめるフィー。
そこにもう迷いなど無い。
あるのは、友と交わした絆だけだ。
その絆を確認していた時だった。
『そろそろ、演劇が始まります。観客の皆様は、見えやすい席について…。』
劇団のアナウンスだ。
どうやら、演劇が始まるようだ。
それを聞いた俺達が慌て出す。
「おっと。行かなくてはだ。」
にゃっ。
始まっちゃうっ。
「それは大変。さ、急いで。」
「あぁ、すまないな。」
そうして、村人達と別れた俺達が舞台へ急ぐ。
ついた頃には、団員達が揃っていた。
すると、シャルが急ぐ俺達に気づく。
「あ、来た。」
「おせぇぞ。お前ら。」
「すまないっ。」
にゃっ。
申し訳ないっ。
なんとか滑り込むように到着する俺達。
どうやら間に合う事が出来たようだ。
そんな俺達を、マーカスが確認すると。
「これで揃ったね。では始めようか。今日の舞台は今まで以上の大仕事。そして…。」
そう言いかけたところで、フィーと俺を見る。
「フィーとにゃんすけの最後の舞台だ。恥ずかしい姿は見せられないよ。」
その言葉を聞いて、仲間達は目を伏せる。
旅を続ける俺達にとって、今回が正真正銘最後の舞台となる。
それでも、すぐに前を見る。
それを見たマーカスが続ける。
「でも、あんた達なら問題ない筈だ。さぁ、マーカス劇団。気合い入れて行くよ!」
「「「了解!」」」
にゃ!
了解!
気合い充分に声を上げる団員達。
こうして、二つの国を繋ぐ為の舞台の幕が開くのだった。




