絆を繋いで旅立ちました〈完〉
片付けを終えた劇団員達が馬車で移動する。
向かうのは、こちらの国の港町だ。
「わざわざすまないな。」
「気にしなさんな。どうせ途中なんだからね。」
港町は、国境近くにある。
なので、寄り道にはならない筈だ。
「それに、見送りたいのはこいつらも同じだからね。」
「そうか。」
皆とも一緒に行動してきたもんね。
そう言いながら、後ろに付く馬車へと振り向くマーカスとフィー。
正確には、そこにいる劇団員達をだ。
俺達を見送りたい気持ちは同じなのだ。
そうしている間にも、馬車が港町へと到着する。
「着いたよ。」
「助かる。行こう、にゃんすけ。」
にゃ。
うん。
行こう。
止まった馬車から降りるフィーと俺。
他の者達は、邪魔になるので時が来るまでお留守番だ。
しかしと、マーカスが仲間達へと呼びかける。
「あんたら、着いてってやりな。ポーラもだよ。」
「おう。行こうぜ。」
「「「了解。」」」
先に出た俺達を追って仲間も町へと入る。
最後まで一緒にとの心遣いだろう
そうして、最後の一時を堪能する。
「これでお別れなんだねー。あんま、はっきりしないや。」
「昨日の今日ですしね。もう少し、いられたら良かったのでは?」
「そうしたいところなんだが、随分と長いしてしまったからな。」
にゃー。
準備とかでね。
「そうですか。」
俺達の言葉に寂しそうにするマーク。
とはいえ、事件が終わってから長く居すぎたのだ。
その分、満足できるほど一緒にいる事が出来た。
これ以上は、との判断なのだ。
そうしている間にも、俺達は港の船着き場へと向かう。
「さて、券を買ってくる。」
「行く先は決めてるのか?」
「決めてない。というか、決めるつもりはない。」
「えぇ……。」
やっぱりそんな反応になるよね。
もう慣れたけど。
どこの国でも同じ反応だ。
それでも、こちらも同じく動じない。
もはや、今更な事だからだ。
しかしと、タールが疑問を持つ。
「あれ? でもあなた、お金がないんじゃないの?」
「あ。」
あ。
その言葉に凍りついてしまうフィーと俺。
一連の事件で、すっかり忘れてしまっていたのだ。
すぐさま、フィーは自身の財布と相談する。
「ぐぬぬぬぬ。旅は一旦休みにして、どこかの島によって稼ぐか。」
「おおー。すごいその日暮らしなんだね。」
「まあな!」
「なんでそこで誇らしげなのよ…。」
「そっちの方が旅人っぽいだろ?」
「知らないわよ…。」
誇らしげなフィーに呆れるタール。
他の者達もまた笑いながらも引いている。
とはいえ、お金がない事実は変わらない。
その時だった。
「では、我の船に乗るといい。」
「っ!? いつの間にっ。」
というかどこから!?
いきなり、横からホルバーが割り込んでくる。
その後ろのアマガセと天空人の女性が、それぞれこちらへ挨拶する。
そんなホルバーは両手を開く。
「我の船ならどこへやらだ。どうする?」
「いや。それだと旅にならないからな。船もお金も自分で用意するさ。」
「そうか。それは残念だ。」
にゃ。
そういう事なんでね。
ホルバーの提案を断るフィー。
自分で用意してこそ旅と言えよう。
なので、なるべく自分達でどうにかしたいのだ。
そんなホルバーへとフィーが聞き返す。
「というより、いつまでここにいるんだ?」
「もうしばらくだな。また魔族が来ないと限らんからな。」
「はい。世界中で魔物が増えてる件での調査もしないといけませんし。」
「歌もまた聞きたいですしねー。ららー。」
「おい。最後っ。」
一人だけ完全に私用である。
それだけ、歌を気に入ったのだろう。
当の本人達は苦笑いをしている。
すると、話を聞いたディルが割り込む。
「剣聖が持ち場を離れるって大丈夫なのか?」
「えぇ。お頭……先に話した、私より強い者がいますしね。正直、過剰防衛なところはありましたから。」
「そうですね。あの方もまた帝とやりあえる方ですから。」
アマガセに同意する天空人の女性。
アマガセ一人でも、帝と渡り合う事が出来る。
ならば、同等以上の存在もまた帝と渡り合えるだろう。
それを聞いたフィーが疑問を持つ。
「組織のリーダーか。そんなに強いのか?」
「えぇ。闘気の威力が高い為、常に闘気の幕が張られてます。しかも、その厚さゆえに、最も平らな場所に直角に剣を入れないと横へと逸れるのですよ。」
「仮に入れられたところで、威力が落ちてしまうがな。その上、その闘気が放つ威力ときたらだ。」
「想像も出来ないな。」
「だろう? 規格外過ぎて、アマガセ殿以外には理解出来んだろうな。」
まったくだよ。
それ、なんて夢物語?
あまりの規格外差に、想像する事をやめてしまう。
もはや、夢物語の世界の話だ。
とはいえ、それが事実だ。
すると、アマガセがフィーと俺を見る。
「そういえば、お頭さんと連絡しましたよ。貴方の事を話したら、早く会ってみたいとの事です。」
「そうだな。私も早く天空に行ってみたい。その為にも、残りの国も回らないとだ。」
「その前に、お金をどうにしないとでしょ?」
「うぐっ!? そうだった……。」
「「「はははっ。」」」
肩を落とすフィーを見て、小さく笑う仲間達。
なにはともあれ、まずはお金なのだ。
すると、それを聞いたリーグルとリリアも悩む。
「最悪、俺達が貸すってのも出来るが…。」
「国の近くなら手配も出来ますが…。」
「すまないな。それも却下だ。借りを作るという考えもないんでな。」
「だよなぁ。」「ですよね。」
ありがたいんだけどね。
誰かに連れていって貰うのは嫌だ。
そして、借りを作るのもまた嫌なのだ。
それが旅というものだからだ。
そんなフィーは溜め息をつく。
「悪いが、全て自分で用意する。こればかりは譲れんさ。」
「じゃあ、自分のお金なら良いのね?」
「んおあっ!? また出たっ!」
またいきなり!?
今度は、ギルドマスターが現れる。
その後ろには、職員の者達もいる。
その当然の登場に、また俺達は驚く。
そんな俺達を、ギルドマスターが睨む。
「ちょっと。また出たって何よ。」
「そうだぜ。折角、見送りに来てやったというのによ。」
「あぁいや、気にするな。こっちの話だ。」
「そう?」
うん。
こっちの話だよー。
不自然な俺達を怪しんでいるギルドマスター。
そんな俺達の言葉に呆れているようだ。
そんなギルドマスターへと、シャルが代わりに質問する。
「それで、自分のお金ならってどういう事?」
「おっと、そうだった。依頼の報酬よ。はい。」
「依頼のお礼?」
どうして?
ギルドマスターからフィーへとお金が渡される。
そのお金を、フィーはまじまじと見つめる。
「なんのお金なんだ?」
「なんのって、受けていたでしょ? 今日の朝、村の人達からあなた達にって来てたわよ。出る前に渡せて良かったわ。」
「村の人って。私達は依頼をこなしていた訳ではない。むしろ私達は…。」
酷く荒らしてしまったのに。
依頼をこなすどころではなかった。
むしろ、多くの人達を犠牲にしてしまったのだ。
それなのに、報酬を受け入れられる訳がない。
しかしと、ギルドマスターがフィーの手に自身の手を添える。
「うけとりなさい。貴方達の事情は分からないわ。だけど、向こうは渡すに足りえると考えたのよ。断るのは、相手への侮辱だわ。」
「し、しかしっ…。」
受け取れる筈がない。
向こうは、何が起きたのか分からないのだ。
大切な者達を失わせたというのにだ。
ならばと、職員の男がフィーを見る。
「実はな。朝までここにいたんだ。」
「え? ここにか?」
「あぁ。演劇の後、ここに泊まってったんだ。まぁ、向こうにも生活があるから、待たずに帰っちまったがな。」
「だから、俺らも見てたんだ。渡すとこ。」
「皆、良い笑顔だったよ。あんたに感謝してた。」
村人達がギルドに訪れた時の事だ。
その様子を見ていた。
だから、村人達の気持ちが分かるのだ。
それを聞いたギルドマスターが頷く。
「えぇ。村人の男性から、貴方達に伝言を預かっているわ。貴方の言う通り、会えましたってね。」
「そうか。会えたのか。」
にゃ。
みたいだね。
「そうよ。貴方達はちゃんと依頼をこなす事が出来たのよ。」
夢で会えたのだろう。
失った筈の家族と。
そこで、失った筈の毎日を取り戻せたのだろう。
それを聞いたフィーが笑う。
「そういう事なら、受け取るとしよう。」
「良かったね。フィーさん、にゃんすけさん。」
「あぁ。」
にゃ。
本当に良かったよ。
シャルの言葉に笑顔で返す俺達。
会えたのならば言うことはない。
その事実に、心を温める俺達だった。
それを聞いたリーグルも満足そうに頷く。
「そういう事なら、公演の場所を増やす事も考えるべきか。」
「うん。お母さんに伝えておくね。」
「頼む。再び会えた時までに思い出しておいて欲しいからな。」
人はいつか死んでしまう。
ならば、またいつか再び会う事が出来るだろう。
その時に、記憶がないままだと寂しいのだから。
しかし、演劇を続ければ問題はない。
その事に満足したフィーと俺は、お金を握って受付へと向かう。
「それでは、チケットを買ってくる。」
「おう。待ってるぜ。」
「いってらっしゃい。」
「あぁ。行ってくる。」
にゃ。
行ってくるね。
受付へと向かった俺達は、チケットを購入する。
その代金に、渡されたばかりのお金を支払う。
そうして、仲間達の下へと戻る。
「どう? 買えた?」
「あぁ。お陰で、旅を再開出来る。」
「そう。良かった。」
チケットを買えたのなら、旅もまた続けられる。
だというのに、シャルが溜め息をつく。
「でもこれで、今度こそお別れなんだね。」
「えぇ。なんだか実感が湧いてきました。」
「この後はもういないんだよねー。」
「明日からもな。」
「そうなのよね。これからは、私達だけ。」
「残念だけどな。」
「寂しいですね。」
ここに来て、俺達がいなくなる事を実感する仲間達。
勿論、知ってはいた筈だ。
しかし、悲しむ気持ちとは別の問題だ。
そんな仲間達へとフィーが笑う。
「色々あったが、楽しかったぞ。」
にゃ。
うん。
そうだね。
「おうよ。こっちもだぜ。」
「いっぱい辛い事もあった。でも、どれも良い思い出だよね。」
そのシャルの言葉に頷く仲間達。
旅を通じて色々な目にあった。
それでも、今はどれも良い思い出だ。
そんな仲間達へと俺達もまた頷き返す。
「この思い出があれば、別れてしまっても関係ない。ずっと、強い絆で繋がってる事だろう。」
「そうだな。俺達はずっと一緒だ。」
離れてしまっても関係ない。
強い絆が、俺達を結び続けてくれるだろう。
これからもずっとだ。
そうしている間にも、何処からか汽笛の音が聞こえてくる。
「あの船か?」
「あぁ。あの船だ。」
「そんじゃ、皆を呼んで…。」
「待った。俺達が呼んでくるぜ。」
リーグルに代わり、職員達が去っていく。
待機している劇団員達を呼びにいっていくのだろう。
すると、入れ違うように両国の王族がやってくる。
「おーい。」
「あ。お父様達だ。」
「だな。間に合ったみたいだな。」
「うん。」
間一髪といったところだろう。
最後の最後に、王族達がやってくる。
すると、俺達の前に立ち止まる。
「間に合ったか。」
「あぁ。丁度、船が来ているところだ。」
「そうかそうか。良かったよ。」
間に合った事に、ほっとしているようだ。
そんな両国の王が娘を見る。
すると、王女の二人が前に出る。
それと同時に、二人が懐から何かを取り出す。
「良かったら。これを受け取ってくれないですか?」
「これは?」
「私達の新しい国章です。」
「新しい?」
にゃ?
国章?
イルラートの言葉に疑問を持つフィーと俺。
そんな俺達は、二人が差し出した物を見る。
そこには、二つが左右に分かれたような何かがあった。
それをリリアも覗き込む。
「あれ。出来てたんだ。」
「はい。元々のお互いの国章をベースに、手を加えたものです。」
「そして、お互いの国章を横に並べると…。」
そう言いながら、国章を手に持ち並べる両国の王女。
すると、二つの国章がぴったりとはまる。
「こうして、一つの国章になるんです。」
「これなら、もう二つに分かれる事はありません。」
「この先ずっと、一つの国だった事が伝わるでしょう。」
元は、二つの国は一つの国だった。
だけど、時が経つと共に忘れられてしまった。
そのせいで、争う関係となってしまったのだ。
しかし、これでもう忘れられる事はない。
それを聞いたフィーが頷く。
「そうか。まずは国章からって事なんだな。でも、どうして私達になんだ?」
「それは、証人になって欲しいからです。」
「証人に?」
俺達に?
それを聞いて疑問を持つ俺達。
その理由は、証人となって欲しい為だ。
すると、両国の王が頷く。
「我らの国は、仲良くしていく事に決めた。」
「しかし、我らだけの約束だと心配でな。」
「そこで、国とは関係のないものに証人になってもらおうと思ったのだ。」
「我らが、共に歩む事を誓った事をな。」
両国の約束だけなら、片方の決断だけで破る事が出来る。
それだと何も意味がない。
だからこそ、関係のない者を通す事にしたのだ。
それで、約束は確実のものとなる。
それを聞いたフィーが頷くのだが。
「それは分かった。しかし、私達で良いのか?」
「お主達だからこそだ。」
「二つの国を救った英雄以外に相応しい者はいないだろう。」
国を救った英雄だからこそだ。
まさに、俺達以外に考えられないだろう。
それは、両国の王女も同じで…。
「私達も皆が同じ考えです。」
「是非、貴方達に受け取って欲しい。」
「そういう事なら私もです。」
リリアもまた王女達に同意する。
それは、両国の王族たっての願いである。
それを聞いたフィーが頷く。
「そういう事なら受け取ろう。二つの国が幸せである事を祈っている。」
にゃ。
仲良くなれると良いね。
「ありがとうございます。私達も祈ってます。」
「貴方達の旅路に幸がある事を。」
「あぁ。ありがとう。」
にゃっ。
ありがとうねっ。
「「こちらこそ。」」
微笑みながらお互いを見やる俺達。
お互いにお互いの先を祈り合う。
未来に幸がある事を。
そうして俺達は、港に着いた船に乗り込んでいく。
「元気でな!」
「旅先でも頑張って下さいね!」
「俺達も頑張るからねー。」
「また一緒に演劇するのだからな!」
「今度は一緒に歌おうね! アイドルじゃなくてもね!」
「それまで、忘れなんじゃないわよ!」
「私達と共にいた時の事を!」
仲間達が俺達へと声をかけていく。
負けるなとエールを送ってくれる。
それに対して、俺達は頷き返す。
「勿論だ! 私達はずっと一緒なのだからな!」
にゃー!
だからそっちもね!
「だから、お前達も負けるんじゃないぞ!」
こうして、お互いにエールを送り合う。
お互いの絆を確認し合う。
こうしている間にも、船が動き出す。
「じゃあな!」
にゃー!
じゃあねー!
「「「じゃあ!」」」
船が段々離れていく。
その間、お互いに手を振り合う。
すると、何処からか声が飛んでくる。
「しっかりしなさいよ!」
「今度は一緒に酒飲むぞ!」
「今度も一緒にお喋りしよう!」
「また一緒に遊ぼうねー!」
劇団員の皆だ。
皆してこちらへと手を振っている。
それに対して、俺達もまた振り返す。
「了解だ! またな!」
にゃー!
またねー!
劇団員達とも別れを告げる。
また一緒に会えるようにとだ。
すると、更に声が聞こえてくる。
「私の事も忘れないでよね!」
「また一緒に暴れようぜ!」
今度は、イオフィ含むハンター達だ。
船の上から、こちらへと手を振っている。
それに対しても、手を振り返す。
「世話になった! 色々ありがとな! じゃあな!」
にゃー!
またいつかー!
ハンター達とも別れを告げる。
ずっとずっと手を振り続ける。
お互いが見えなくなるまで振り続ける。
そうして、見えなくなると手を降ろす。
「大変だったな。」
にゃあ。
そうだね。
「あぁ。でも、楽しかった。とってもな。」
にゃ。
うん。
楽しかった。
そう呟きながらも、手すりにもたれるフィー。
俺もまた、うんと体を伸ばす。
そうしながらも、国での経験を噛み締める。
しばらくして、体を起こして船の先を見る。
「さて、次はどんな旅が待っているのか。」
にゃ。
待ち遠しいよ。
繋いだ絆を噛み締めながらも、次の旅に向かう俺達。
そんな俺達を、淡い光もまた優しく見送るのだった。
八章無事終わる事が出来ました
お付き合い下さった皆様、ありがとうございます
ただ長い、長過ぎる
まさか、ここまで長くなるとは思いませんでした
最後まで見て下さった皆様、本当の本当にありがとうございます
それでもまだ続きます
残す国‘は'あと一つ
このまま最後までお付き合いいただけたらと思います




