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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
幻影染める月と二つの戦の国<後編> リラリアハル王国編

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お別れしました

 氷帝が去ったのを見届けたフィーが仮面を外す。

 それにより、フィーの姿が元に戻る。


「ふぅ。」


 力が抜けるのを感じながら一息つくフィー。

 その横で、俺は仮面から猫の姿に戻る。


にゃー。


 なんとかなったねー。


「だな。良い結果……とは、言えないだろうがな。」


 今回の事件の影響は、かなりの規模に及ぶだろう。

 今はただ、被害が止まっただけに過ぎない。

 本当に解決と言えるのは、この被害をどうにかしてからだろう。

 とはいえ、失ったものばかりではない。


「フィー! にゃんすけ!」


 守る事が出来たもの。

 そんな仲間達が駆け寄ってくる。


「大丈夫なのか? お前ら。」

「怪我とかないよね?」

「あぁ、大丈夫だ。かなり体が疲れてはいるが。」


にゃー。


 脱力感が凄いぐらいかな。


 今にも倒れそうな疲労が体を襲っている。

 それでも、体には傷一つない。

 あれだけ、体中が破壊され続けていたのにも関わらずだ。

 そんなフィーが仲間達へと聞き返す。


「それで、皆の方は?」

「おかげさまでな。ピンピンしてるぜ。」

「二人が守ってくれたからだね。」

「えぇ。私達も…それと、リリアさん達も。」


 そう言いながら、倒れているリリアを見るマーク。

 それに合わせて、他の仲間達もリリアを見る。

 その先で、リリアは姉に抱えられながらこちらへと手を振る。

 すると、横に立ったディルもまたこちらへと親指を立てる。

 それに応じるように、俺達も手を振り返す。


「まだ解決とはいかないが、今は皆が無事なのを祝おう。」


にゃ。


 それが何よりだよ。


「だな。誰も犠牲にはならなかった。それだけでもうけもんか。」


 あれだけの敵が現れて、誰一人も犠牲者は出なかった。

 今はただ、それだけで充分なのかもしれない。

 そうして、俺達はお互いの無事を祝い合う。

 そんな俺達を、アマガセ達も見つめる。


「どうやら、私達の出番は必要無かったようですね。」

「えぇ。天空の者としても、貴重な場面に立ち会える事が出来ました。」

「ですね。この出来事を歌に残したいぐらいです。」

「……その設定、まだ続けるんですね。」

「いえいえ。設定ではなく本気ですよ。ららー。」


 楽しそうに、今の状況を歌声で現すアマガセ。

 そんなアマガセを、天空人の女性が呆れつつも微笑んで見つめる。

 そこへと、イルラートが寄ってくる。


「楽しそうで何よりです。ところで、ホルバーさんはどこでしょう?」

「そういえば、置いてきてしまいましたね。」

「そうですね。文句を言われる前に迎えに…。」


 そう言いかけた時だった。

 どこかで、誰かが倒れる音がする。

 それと同時に、叫び声が聞こえてくる。


「フィー! にゃんすけ!」


 声がする方を見ると、フィーとにゃんすけが倒れていた。

 そんな二人へと、仲間達が寄り添うのだが。


「無事か…。」


 しゃがんだリーグルもまた倒れる。

 それだけでなく、他の仲間達もまた倒れていく。


「何よこ…。」

「一体な…。」


 そうして、また一人一人倒れていく。

 そして、全員の仲間達が倒れてしまう。

 ただ一人、ポーラだけが戸惑いながら仲間達を見る。


「どうしたの? 皆っ。」


 呼びかけるも返事はない。

 そんな光景を見たリリアが起き上がるのだが。


「皆っ。ぐうっ。」

「駄目よ。無理しちゃ。」

「で、でも…。」


 駆け寄ろうにも、体に力が入らない。

 代わりに、イルラート達が駆け寄る。


「こ、これは、何が起きたんですかっ?」

「分かりません。とにかく、安全な場所に…。」


 倒れた俺達に何が起きたのかは分からない。

 そんな俺達の為に、イルラートが動く

 その声を最後に、俺達は完全に意識を失う。



 そんな俺達は、見知らぬ場所にて目が覚める。

 目覚めるなり、仲間達が起き上がる。


「なんだ、ここは。」

「城ではなさそうですが。」


 見渡しても何もない。

 何もない空間が広がるばかりだ。

 その場所を、仲間達が不思議そうに見渡す。

 ただ、フィーと俺だけは違う。

 

「まさか、また私の心の中とやらか?」


にゃあ。


 確かにそれっぽいけど。


 この経験をするのは二度目だ。

 ならば、同じ場所に飛ばされたと思うのは当然だ。

 にも関わらず、何処からかの声が否定する。


「違うぞ。」

「え? 違うって…。」


 声が聞こえた方を見る。

 すると、そこには友の魔族が立っていた。

 そんな魔族へとフィーが質問する。


「お前がいるって事は、やっぱり私の中って事じゃないか。」

「いいや。ここはおいらが作った場所じゃないぞ。」

「じゃあ何処なんだ?」

「月だ。」

「月?」

「そうだ。ここは、月だったものの中だ。」

「月の中だったもの? って、先程壊れた月のか?」

「そうだ。」


 説明されても分からない。

 取りあえず、先程壊れた月と関係があるようだ。

 とはいえ、いくら見回しても違いが分からない。

 すると、横からシャル達が顔を覗かせる。


「ねぇ、この子は?」

「友になった魔族だ。」

「ほう。変わった奴と知り合いなんだな。」

「あぁ。危害は加えないから安心しろ。」

「まぁいたずらはするがな。ヒヒッ。」

「おいっ。」


 本当にしそうだから恐ろしいよ……。


 呆れるように魔族を見るフィーと俺。

 やると言うのならやるのだろう。

 しかし、仲間達は不思議そうに見ている。

 そんな仲間達をよそに、フィーが立ち上がる。


「とにかくだ。そいつによると、私達は月だったものの中に誘い困れたらしい。」

「月だったものの中? 何故です?」

「それは……。」

「さぁ? そこまでは知らないね。ヒヒッ。」

「そうか。」


 自分達がいる場所の事は知っている。

 しかし、何故ここにいるのかは分からない。

 ならばと、仲間達が辺りを見渡す。


「どうにかして、元に戻る方法を探さなきゃだねー。」

「とは言うが、何もなさそうだが。」

「全くよ。何処を見ても何も…。」


 そうタールが言いかけた時だった。

 ある一点を見つめて動きを止める。

 そんなタールをシャルがいぶかしむ。


「どうしたの?」

「………あ。」

「あ?」

「あれ。」


 その場所へと指をさすタール。

 その先を、シャルもまた見る。


「あれって、ど……れ………。」


 それを見たシャルもまた動きを止める。

 そして、他の仲間達もまた動きを止める。


「おいおい。あれって。」

「そんな馬鹿な。」


 誰もが目を見開いてそれを見る。

 そこにあるのは、複数の人の影だ。

 ただ、フィーと俺だけが怪しむように見つめる。


「誰なんだ?」


にゃあ?


 さぁ?


 名前も知らない者達。

 そんな存在に、俺達が疑問を持つ。

 しかし、それを見たシャルが前に出る。


「お母…さん? と、お父さん?」


 ゆっくりと、前に出る足が速くなっていく。

 そして、遂には駆け出す。


「お母さん! お父さん!」


 そう叫びながら、人の影の一人へと飛びついた。

 そうして、強く抱きしめる。


「会いたかった! ずっと!」


 そう目から涙を流しながら、強く強く抱きしめる。

 すると、抱きしめられた二人もまた優しく抱き返す。


「よく頑張ったわね。」

「ずっと、見てたぞ。」


 そう優しく語りかける。

 その横で、他の仲間達も影へと飛び込んでいく。

 一人は、シャルのように泣きながら。

 また一人は、照れくさそうに笑いながら。

 また一人は、どつきあいながら。

 また一人は、抱き合いながら。

 また一人は、握手を交わしながら。

 それぞれが、その者達の知り合いと再会を喜ぶ。

 そんな光景に、フィーと俺が影の正体に気づく。


「まさか、魔族に殺された者達か?」

「そうみたいだな。」


 皆の知り合いという事はだね…。


 仲間達の村は滅ぼされた。

 そうなると、仲間達の知り合いはもういない筈だ。

 ならば、再会を喜んでいる者達の正体は誰なのかという話だ。

 その答えは、考えるまでもないだろう。


「月の中に取り込まれていたんだな。」

「あぁ。殺された者は全員ここに…。全…員……?」


 そう魔族が呟いた時だった。

 魔族もまた、何かを思いついたかのように影へと向かう。


「お、おいっ。」


 どうしたの?


 フィーが呼び掛けるのも無視して一直線に駆けていく。

 そして、影の者達の中を挙動不審に見渡す。

 その時だった。


「こっちだよ。」

「っ!? ママっ!」


 魔族もまた、影の一人へと飛びかかる。

 そんな魔族を、女性が優しく抱き迎える。


「ようやく見つけた。こんな所にいたのね。」

「ママっ。ママっ。」

「はいはい。ママですよ。」


 抱きつく魔族へと、優しく呼びかける女性。

 その女性に、フィーが気づく。


「あの人は村にいた。」


にゃ。


 あの子の母親だね。


「あぁ。そうか、あの人も殺されているからな。」


 魔族の母親もまた殺されているのだ。

 ならば、ここにいるのは当然の事だ。

 その周りにも、見知った村人達もいる。

 ようやくの再会に魔族もまた喜ぶ。

 そこへと、フィーが歩いて行くと。


「ママっ、新しい友が出来たんだ。一緒に遊んでくれたんだぞ。」

「そう。良かったわね。」


 俺達を指さしてはしゃぐ魔族を母が撫でる。

 そうしながらも、フィーへと向き合う。


「ありがとうございます。息子の事、見つけてくれたんですね。」

「あぁ。本当なら、もっと別の形で会わせてあげたかったのだが。」


にゃあ。


 そうだよね。

 こんな形なんて…。


 本当なら、生きた姿で会わせてあげたかった。

 しかしそれは、もう叶わない事だ。

 それでも、魔族の母親が首を横に振る。


「いいえ。もう会えないと思っていた息子に会えたのです。それで今は満足です。」

「そうか…。」


 本人が言うなら仕方がないね。


 納得がいっている訳ではない。

 しかし、本人が言うなら認めるしかない。

 そんな母が息子の頭を撫でる。

 その時だった。


「っ!? 体がっ!」


 消えてくっ!


 魔族の母の体が薄れていく。

 それだけではない。

 ここにいる全ての影の者が薄れていく。

 それを見た魔族の母が呟く。


「そろそろ、時間ですね。」

「時間?」

「あぁ。もう姿を保つのが限界なんだな。」


 魔族もまた、その現象を理解する。

 いつまでも、こうしていられる訳ではない。

 すると、それを見たシャルが叫ぶ。


「そんなっ。もう一緒にいられないの? そんなのやだよ!」

「違うな。このまま、オイラ達は霊脈と繋がるんだ。だから、姿は見えなくても、いつも一緒だ。ヒヒッ。」

「それじゃ意味がない! 一緒に過ごせないなら意味がない!」


 それでもシャルが否定する。

 また一緒に過ごしたい。

 だから、概念の話をされても響かない。

 それは、他の仲間達も同じで黙りこく。

 しかし、そんなシャルを両親が撫でる。


「歌は届かない場所にも届く。じゃなかったのかい?」

「っ!?」


 その父の言葉に、目を見開くシャル。

 そんなシャルへと、母もまた語りかける。


「大丈夫よ。歌を通してならまた会える。」

「歌を通してなら、一緒に心を通わせ合える。」

「だから、またいつでも会えるのよ。」

「いつだってね。」


 歌があれば、どんな場所とも繋がる事が出来る。

 たとえ、霊脈の中でさえもだ。

 それを聞いたフィーが魔族へと質問する。


「そうなのか?」

「不可能じゃない。実際に、霊脈の力を引き出す力があるわけだからな。」

「まぁ、それもそうか。」


 霊脈を引き出す力がある。

 ならば、霊脈へと歌を届ける事は不可能ではない。

 すると、それを聞いたリーグルが気づく。


「じゃあよ。俺達が演劇をしたら、見に来てくれるって事だよな?」

「あぁ。届けば見に行ってやるさ。」

「なら、話は早いですね。」

「会いたいなら演劇をすれば良いのよね。」

「だから、お別れって訳じゃないんだねー。」


 声を歌にして届ける限り、いつでも会える。

 ならば、お別れにはならない筈だ。

 すると、それを聞いたシャルが泣きながらも叫ぶ。


「それじゃあ私っ。いっぱい歌うからっ!」

「えぇ! いつだって届けてあげましょうっ!」

「だったら、俺達は盛り上げてやらぁ! そうすりゃもっと届くだろっ?」

「ですね! 届けるなら、騒がしい方が良いですからねっ!」

「それなら、俺達の得意分野だもんねーっ!」

「だから、待ってると良い! その時が来るのを!」

「俺達の演劇が始まるのをな! そん時は、特等席で見せてやるからな!」

「絶対に絶対だよっ?」


 仲間達が呼びかける。

 すると、影達が見守るように頷いていく。

 そうして、約束を交わすのだった。

 これでまた、いつでも会える事が出来る。

 そうしている間にも、影達が更に薄れていく。

 そんな影達の前に魔族が立つ。


「この人達は、オイラが届けるからな。安心してくれよ。」

「頼んだぞ。」

「任せろ。ヒヒッ。」


 魔族の力ならば、届ける事が出来るのだろう。

 つまり、それは魔族もまた霊脈の中に向かう事となる。

 そんな魔族とフィーが向き合う。


「お別れだな。ヒヒッ。」

「あぁ。でもまた会えるのだろう?」

「まあな。約束があるからな。」

「だな。次こそ負けん。」


にゃ。


 諦めちゃいないからね。


「あぁ。残念だけど、次も勝つよ。ヒヒヒッ。」


 俺達もまた約束があるのだ。

 ならば、また会う事が出来るだろう。

 すると、影と共に魔族の姿も消えていく。

 それに合わせて、空間も消えていく。


「遂に空間もか。……なぁ。その、パパにもよろしく伝えてくれ。」

「私からも、よろしくお願いしますね。」

「任せろ。」


にゃ。


 任せて。


 父の事も心配なのだろう。

 とはいえ、会う事はもう叶わない。

 だから、俺達に託すのだ。

 そんな俺達の言葉に満足すると…。


「じゃあな!」

「あぁ、またな!」


にゃー!


 またねー!


 俺達と魔族が手を振り合う。

 一時のお別れの為に。

 しかし、永遠のお別れではない。

 すると、仲間達もまた手を振る。


「また演劇でな! ちゃんと来いよ!」

「絶対に聞きに来てね!」


 仲間達もまたお別れを告げる。

 それに対して、影達もまた振り返す。

 そうしながらも、影達が完全に姿を消す。

 そんな影達を見送ると…。


「そんじゃ、俺達も行くぜ。俺達の帰る場所へ。」

「「「了解!」」」


にゃー!


 了解だよー!


 こうして、大事な者達と別れた俺達が振り返る。

 帰る場所へと向かう為に。

 今まで以上に、晴々とした顔のままに歩いていく。

 そんな俺達を飲み込むように、空間が消え行くのだった。


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