神の力です
フィーが前へと駆ける。
「ヒヒャハァ!」
それに対して、氷帝もまた手を前に構える。
「氷よ。」
今までのように、手から氷の魔法が吹き荒れる。
しかし、その氷は今までとは違い…。
「さぁ。奴を飲み込め。」
フィーを飲み込むように、周囲に氷が渦巻く。
逃れようにも、身動き一つ取れない。
そこから更に、氷帝が手を空にかざすと…。
「これでおしまいだ。」
フィーの上空に、大きな氷の塊が浮かび上がる。
その氷の塊は、ゆっくりとフィーへと落ちていく。
「潰れろ。」
逃れようにも、氷の渦で動けない。
ならばと、フィーが氷の塊へと剣の鞭を伸ばす。
「ヒヒッ。」
氷の塊へと剣の鞭を引っかける。
それにより、渦から逃れると同時に氷の塊へと迫る。
そうして、氷の塊へと下駄を向けると…。
「ヒヒャッ!」
その勢いで、氷の塊を砕ききる。
そうして、そのまま氷帝へと向き直すのだが。
「かかったな。」
その言葉と同時に、砕けた氷の中から氷柱が現れる。
氷の塊は、氷柱を隠す為に放ったものだ。
そんな砕けた氷に紛れて、飛んできた氷柱がフィーへと突き刺さる。
「ングヒッ。」
もろに受けたフィーが地面へと落ちる。
その際、剥がれた仮面が地面に転がる。
それを見たリーグルが叫ぶ。
「フィー! 駄目だっ。もろに食らっちまった。」
「お陰で暴走は止まったみたいだけど。」
「むしろ、悪化したような気がしますねっ。」
仮面が剥がれた事により、フィーの暴走が止まった。
そのせいか、フィーは倒れたままで起きない。
これなら、暴れていたままの方が良かっただろう。
それを見たディルが動こうとするのだが…。
「ちぃっ。やっぱり、任せられるような相手じゃなかったかっ。」
「それは、お前もだけどなっ。」
「くっ。」
ディルの動きを、武将の魔族が止める。
ディルもまたフィーを助けるどころではない。
その間にも、氷帝がフィーへと歩いていく。
「今度こそだ。中々楽しめたぞ。お前の力が尚更楽しみとなった。」
本気ではないとはいえ、帝と対等に渡り合えたのだ。
その力に期待を持つのは当然だろうか。
そんな氷帝へと、仲間達が動くのだが。
「くそっ。やっぱり俺達が動くしかねぇか。」
「うん。何とかしてフィーを…。」
そう言いかけた時だった。
「氷よ。」
「っ!」
仲間達を氷の壁が囲う。
これでは、フィーを助けに向かう事すら出来ないだろう。
「くっ。あの野郎っ。」
「ふん。虫けらと放っておいたが、邪魔は邪魔だった。二度目は許さん。そこで見ていろ。」
一度邪魔をされた事により、フィーの暴走を許したのだ。
害はなくとも、止めないといけないと判断したのだろう。
そんなリーグル達が氷へと蹴りつけるのだが。
「かてぇ。くそっ。」
「びくともしません。氷というより、もはや鉄です。」
「それでも、フィーには砕けたんだ。俺達だって。」
決して砕けないものではない。
それでも、氷というには固すぎる。
そんな氷に手間取っている間にも…。
「無駄な事を。それよりも、早く撤収するぞ。準備をしろ。」
「あぁ。では、こちらも終わらせようか。」
氷帝に応えるように、剣を構え直す武将の魔族。
それを警戒するように、ディルもまた構え直すのだが。
「っ。何をっ…。」
「決まっている。」
そう言いながら、剣を思い切り振る武将の魔族。
その一撃に、ディルの剣が弾かれると…。
「なっ。」
「ではな。剣聖との貴重な一戦。存分に味わえた。」
「なにをっ。」
そう言いかけたディルへと、武将の魔族が蹴りつける。
それにより、ディルを吹き飛ばす。
それを見たリーグルが顔を歪める。
「最悪だ。最悪な状況過ぎる。」
こちらに戦えるものはいない。
一方、向こうは無傷だ。
圧倒的な状況に、何も出来る事がない。
「ねぇ! 起きて、フィー!」
「にゃんすけもよ! いつまで寝てるの!」
いくら呼んでも動きはない。
その間にも、氷帝がフィーへと手をかざす。
「フィー! にゃんすけ!」
止められるものは誰もいない。
と誰もが思った時だった。
「氷よ!」
「っ。」
いきなり、目を開けたフィーが氷の魔法を放つ。
それに対して、氷帝が腕で振り払う。
それを見た仲間達が叫ぶ。
「「「フィー!」」」
「無事だったか!」
どうやら、まだフィーは動けるようだ。
それでも、氷帝は表情一つ変えない。
「ふん。まだ動けるか。しかし、もう限界は来ているだろう。」
「だろうな。ただし、私一人の場合の話だがな。」
そう言いながら、起き上がるフィー。
そうしながらも、地面に落ちている仮面を拾う。
その様子を見た氷帝が笑う。
「またそれか。意味のない事を。」
既に、纏う力は砕かれた。
だというのに、フィーは顔の横に仮面を構えると…。
「試してみるか?」
「何?」
「私達の力が無駄なのかどうかをな。」
そう言いながら、仮面を顔に装着するフィー。
すると、仮面がフィーの顔へとひばりつく。
それと同時に、仮面と一つになったフィーの目が見開く。
その直後だった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
フィーが雄叫びをあげる。
それに合わせて、フィーの体から膨大な聖火と瘴気が溢れる。
その光景に、氷帝が目を細める。
「また暴走か? いや、違う。これは…。」
暴走のような禍々しさは感じられない。
瘴気こそありつつも、聖火によって邪悪さは抑えられている。
それどころか、聖火と瘴気が混ざっていく。
ただ、事情が分からない仲間達が不安そうに見つめる。
「大丈夫か? 大丈夫なんだよな? どうなんだ? イルラート。」
「分かりません。ただ、悪い事ではなさそうには見えますが。」
イルラートでさえ、何が起きているか分からない。
状況を見守るだけしか出来ない。
その時だった。
ぱりーーーーーーん!
甲高い音と共に、氷の壁が砕ける。
それと同時に、アマガセと天空人の女性が飛び込んでくる。
それを見たリーグルとイルラートが叫ぶ。
「お前らっ!」「皆さんっ!」
「どうも。間に合いましたかね?」
「結構手遅れだがなっ。」
「すみません。壁を壊せる程の力が残ってなくて。」
月を壊した影響だろう。
あれだけの大きなものを壊したのだから無理もない。
しかし、アマガセの意識はすぐにフィーへと向けられる。
「ところであれは?」
「分からん。面を被ったらああなった。」
「では、心装? にしては、異常ですが。」
アマガセですら知らないようだ。
心装にしては、今まで見た事のない状況だ。
ただ一人、天空人の女性が見つめる。
「もしかしてあれは…。」
「知っているんですか?」
「えぇ。神獣様が人に与えた力の事は知ってますね?」
「はい。確か、聖や魔の力と混ざる力ですね?」
「えぇ、そうです。」
アマガセの言葉に頷く天空人の女性。
聖や魔と一つになる力。
それにより、心装や魔装が可能となっているのだ。
しかし、アマガセが疑問を持つ。
「しかし、私が知っているものとは違いますが。」
「それはそうでしょう。なにせ、これは続きの話なのですから。」
「続きですって?」
伝えられた言葉は一部だけ。
だから、分からぬ人間に理解出来る訳がない。
その伝えられていない話が紡がれる。
「聖や魔の力が分かり合える姿を神様に見せる為に、聖獣様が人に混ざる力を与えた。だけど、与えた力はそれだけではない。」
「他にも力があると? その力とは?」
「混ぜる力です。」
「混ぜる力?」
「前文では、あくまで人が混ざる力です。それもその筈で、聖と魔の力は相反するものどうし。この二つは絶対に混ざる事はありません。」
聖なる力と魔の力の関係は、まさに水と油の関係だ。
それらが、一つになる事などありえない。
「それでも、神獣は人に与えた。」
「それは、何故です?」
「人の可能性を信じたからです。聖と魔が言葉だけでなく、心から分かり合える時が来るだろうと。そして、その力こそが堕ちた神を止められる力だという事を。」
神に分かってもらうだけでは意味がない。
堕ちた神を止めてこそ、与えた意味が生まれる。
その為の力が聖と魔に。
そして、人にあると信じて。
「だから、与えたのです。可能性を生む力を。神に届きえる力を。不可能を可能に変えてみせたものへの奇跡の力を。」
絶対に混ざる事が出来ない二つの力。
その常識を乗り越えた者へと与えられた奇跡の力。
それが、生まれようとしている。
「さぁ、目覚めますよ。」
そう天空人の女性が呟いた時だった。
フィーから溢れる力が、完全に混ざっていく。
すると、その力がフィーの体を纏っていく。
胴体には和製の鎧を。
両腕には和製の籠手を。
両足には和製のすね当てを。
そのように、全身を鎧で固めたフィーが姿を現す。
「神装、鬼神。」
直後、全身から膨大な神気が溢れる。
その力は、天へと向けて何処までも昇っていく。
その神気に、離れた位置にいる巨大な獣が吠える。
「現れた! 遂に現れたぞ! 奇跡を起こしたものがっ!」
その咆哮が、辺りの全てを振動させる。
抑えられない歓喜の気持ちが天に轟く。
そうとも知らず、フィーはただ神気を溢れさせる。
ただそれだけで、空間が歪み瓦礫が砕けていく。
それだけでなく、氷の壁すら砕けていく。
その光景に、氷帝が笑う。
「まさか、これ程までの力を持とうとは。欲しい。欲しいぞ! その力っ!」
そう叫びながら、氷柱の海を作り出す氷帝。
その氷柱の海がフィーへと向かうのだが。
「っ!」
フィーが腕を振るう。
ただそれだけで、氷柱の海が砕けていく。
それを見た氷帝が手を構える。
「面白い。」
氷帝の手から、複数の氷柱が放たれる。
しかし、フィーに到達する前に砕けてしまう。
「面白い。」
ならばと、氷の塊を落とす。
しかし、フィーが片手で止める。
それだけで、氷の塊が砕けてしまう。
「面白い!」
ならばと、フィーの下から氷の柱を発生させる。
しかし、すぐにひび割れ砕けてしまう。
「面白いぞ!」
ならばと、今度は吹雪を放つ。
その吹雪は、獰猛な生き物の口を作りフィーへと噛みつく。
それにより、圧倒的な雪による圧力が加わる。
それでも、神気で吹き飛ばした吹雪の中から無傷で現れる。
「山だろうが根こそぎ砕く力だぞ! それをはねのけるとはっ!」
氷帝の攻撃は、微塵も通じる気配がない。
だというのに、氷帝は歓喜に震えながらも高らかに笑う。
圧倒的な力をもねじ伏せるフィーの力に興奮している。
そうしながらも、フィーの姿を冷静に見つける。
「なんという力だ。あまりの力に、自身の体が耐えられていないではないか。」
フィーの体は、常に裂けては戻ってを繰り返している。
その皮膚の中では、骨が砕けては戻ってを繰り返している。
見るからに、己の力に耐えられているようには見えない。
「やはり、人の身には勿体ない力だ。私が頂いてやろう!」
そう叫びながら、氷の魔法を展開する氷帝。
直後、氷帝の前に複数の魔法陣が生まれる。
「食らえっ! 流星群!」
氷帝が叫ぶと同時に、魔法陣から無数の氷の塊が放たれる。
その数は、百や千ではない。
万をも越える氷の塊がフィーへと向かう。
「これだけの数だ! 島一つ消し飛ばす! 果たして、貴様に耐えられるか!」
圧倒的な数の暴力だ。
ただの人が受ければ、骨一つ残さない。
そんな力に対して、フィーが上空に剣を立てると。
「っ。」
剣に神気を流すフィー。
すると、たちまち剣が大剣へと姿を変える。
そうして作り出した剣を掲げると。
「はあっ!」
迫り来る無数の氷の塊へと剣を振るう。
すると、そこから放たれた神気が氷の塊を消し飛ばしていく。
それでもと、氷帝は楽しそうに笑う。
「良いぞ! もっとだ! もっと見せ…。」
そう言いかけた時だった。
吹き荒れる神気の中から、複数の光の輪が飛び出す。
すると、その光の輪が魔法陣を切り裂いていく。
そして、その内の一部が氷帝へと向かう。
「ぬっ。」
「氷帝!」
咄嗟に、氷帝の前に武将の魔族が飛び出す。
それと同時に、光の輪を剣で防ぐ。
しかし、防がれた光の輪が複数に分断する。
「しまっ。」
そのまま、武将の魔族の皮膚を裂いていく。
それどころか、氷帝の腕を斬り飛ばす。
更には、後ろの建物を切り裂いていく。
その光景に、流石の氷帝の顔が歪む。
「ぐっ。やってくれたな。」
「不味いな。このままだと帰れなくなるぞ。」
「分かっている。撤退だ。口惜しいがな。」
痛む傷口を押さえながらも、身を翻す氷帝と武将の魔族。
流石の氷帝も、帰る手段を奪われるのは堪らないのだろう。
あれ程求めていたフィーを放ってでも、扉を開いて奥へと向かう。
そんな氷帝達へと、リーグルが叫ぶ。
「おいこら待て! ここまで荒らしといてとんずらかよ!」
「案ずるな。いずれまたその時が来る。それまで、その力は預けておこう。」
奥へと向かう際、振り向いてフィーを見る氷帝達。
これで終わりではない。
それでも、リーグルが叫ぶ。
「そんな事を言ってるんじゃねぇよ! どう落とし前をつけるかって聞いてんだ!」
ここまで荒らしておいて、何も無しは許されない。
とはいえ、こちらの声など聞く筈もなく…。
「さらばだ。人間。貴様の顔、しっかりと覚えたからな。」
その直後、扉が閉まる。
すると、幻だったかのように建物が霜に溶けていく。
そして、遂には姿を消してしまう。
「くそっ。なんだってんだ。」
その身勝手な氷帝達に憤るリーグル。
しかし、その相手はもういない。
こうして、二つの国をまたいだ大事件が幕を閉じたのだった。
お察しの通り、鬼神は例の作品からのオマージュです。
なるべくパクリにならないようにはしましたが、和製の鎧だけは譲れないのでご勘弁を




