フィーの暴走です
突然の雄叫びに、動きを止める一同。
ディル達もまた、あまりの事態に動きを止める。
「な、なんだぁ!?」
声がした方を見ると、フィーが氷に包まれながらも叫んでいた。
その度に、体の氷が剥がれていく。
それを見たリーグルが、笑いながらも叫ぶのだが。
「フィー! お前、無事だっ…た?」
リーグルの言葉が詰まる。
それもその筈、フィーの異変に気づいたからだ。
「どうしたの? 何が起こってるの?」
「分かりません。でもこれはっ。」
仲間達の前でフィーが叫び続ける。
その声は、明らかに異常だ。
そんなフィーを、仲間達が見ていた時だった。
フィーから、大量の瘴気が溢れ出す。
「オオオオオオオオオオッ!」
瘴気が溢れる度に、氷が剥がれていく。
代わりに、フィーが瘴気に飲まれていく。
その光景を見たイルラートが呟く。
「これは、瘴気。」
「瘴気だと? 今度はフィーかよ。なんだってまたこんな時にっ。」
「おそらく、あの時フィーさんの剣が纏っていたもの。やはり、予想通りの結果になってしまいましたか。」
最後の大樹を切り落とした時の事だ。
剣を纏う瘴気をイルラートが指摘した。
「そういえば言ってたよね? それで結果通りって?」
「フィーさんが樹を斬る度に瘴気が流れていた。それが、いつの間にかフィーさんを蝕んでいたのです。」
気づかぬうちに、瘴気が溜まっていたのだ。
そうとも知らずに、その時は何でもないと受け流していたが。
「まさか、ここまで進行していたとは。やはり、あの時どうにかするべきだった。今となっては、いくら言ったところでですが。」
今まで、溜まりに溜まった瘴気が解放されているのだ。
ここまで来たらどうにもならない。
そんな瘴気がフィーを完全に包み込む。
直後、爆発するように瘴気が拡散すると…。
「コンソウ。」
瘴気の中からフィーが現れる。
先程とは違う姿へと変貌した姿となって…。
「ラルクーデル。」
今まであった、混装による変化だ。
そうして姿を変えたフィーは、邪悪な笑みを浮かべる。
「ヒヒッ。」
その口から、フィーとは違う声が聞こえる。
そんなフィーは、瘴気を漂わせながらも飛び上がる。
「イヒヒッ!」
そのままフィーは、下にいる氷帝へと落ちていく。
その最中、鞭のように伸ばした剣を振るう。
「ヒヒッ!」
「むっ。」
迫る剣を手で払う魔族。
その手が触れた場所が凍りつく。
それでもと、フィーが一回転しながらも剣を振り直す。
そうしながらも、氷帝へと突っ込む。
「ヒヒィッ!」
「ふっ。」
迫る剣を氷帝が腕で防ぐ。
そうして、防がれたフィーは氷帝の奥の地面へと着地。
そこから、再びすぐに氷帝へと剣を振るうが。
「ヒッ!」
「ふっ。」
それでもと、防がれてしまう。
それでもと、振りと共に横を抜けたフィーが剣を振り直す。
「ヒッ!」
やはり防がれるも、同じように横を抜けて振り直す。
「ヒッ!」
何度振ろうとも、同じように防がれる。
何度防がれようとも、同じように剣を振るう。
それを何度も繰り返す。
その度に、剣が鞭のように宙に曲線を描いていく。
しかし、氷帝はただ受けるだけではない。
「くどいっ。」
剣を受けた氷帝は、すかさずフィーへと吹雪を放つ。
それにより、フィーが後ろへと吹き飛ぶ。
そこへと、氷帝が手を向けると…。
「氷よ。」
着地したばかりのフィーへと氷柱を放つ。
それに対して、フィーが剣をしならせて砕く。
そうしながらも、氷帝へと剣を伸ばす。
「ヒヒィッ!」
伸びた剣が、氷帝の顔へと伸びていく。
それに対して、氷帝が腕を振って剣を弾く。
そこからすぐに、フィーへと氷柱を飛ばす。
「はっ。」
「ヒッ!」
飛んでくる氷柱をフィーが避けていく。
そうして、最後の一つを戻した剣で回転しながら叩き割る。
そこからすぐに、氷帝へと踏み出す。
「ヒィッ!」
「ふんっ。」
それを見た氷帝が、前へと氷の波を放つ。
それに対して、フィーが前に回転するように飛んで避ける。
そして、そのまま氷を滑るように突っ込んでいく。
「ヒヒッ!」
「ふんっ!」
それを見た氷帝が、新たな氷の波を生み出す。
それに対して、フィーが新たな氷の波へと移る。
「ヒィッ!」
「では、これならどうだっ。」
ならばと、氷帝がまた氷の波を生み出していく。
ならばと、フィーが氷の波を乗り継いでいく。
そうしながらも、一気に距離を詰めると…。
「ヒィッ!」
後ろへとたなびく剣を氷帝へと振り下ろす。
それを見た氷帝は、すぐさま腕で振り払う。
「ふん。いくら来ようがっ…。」
そう言いかけた時だった。
氷帝の頭上へと、フィーの下駄が迫る。
「ヒィッ!」
「っ!」
剣を振った勢いで、一回転して下駄を振るったのだ。
それを見た氷帝が、咄嗟に逆の腕で防ぐ。
「やはり、小細工か。しかし、そちらから来たのは好都合か。」
そう言いながら、フィーの足へと手を伸ばす氷帝。
直接掴んで凍らせるつもりだろう。
それに対して、フィーもまた逆の足を振るう。
「ヒィッ!」
そのまま、氷帝の手を蹴り飛ばすフィー。
そこからすぐに、足をクロスさせて氷帝の首を挟むと。
「ぬうっ。」
「ヒッ!」
そのまま前へと飛び込んだフィーが地面へと手を着く。
その拍子に、足で氷帝を投げ飛ばす。
「ぐうっ。」
投げ飛ばされた氷帝が飛んでいく。
そんな氷帝へとフィーが剣を伸ばす。
「ヒィッ!」
「ぐっ。」
そうして伸びた剣が氷帝へと巻き付く。
それを見たフィーが宙へと飛ぶと…。
「ヒヒヒィッ!」
氷帝が巻き付いた剣をフィーが振るう。
すると、氷帝が壁へと叩きつけられる。
それでもフィーは止まらない。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒャァ!」
叫びながらも、何度も何度も剣を振るう。
その度に、空間を囲む氷の壁を壊していく。
その異常な光景に、仲間達が動揺する。
「どうしたんだろう。まるでフィーじゃないみたい。」
「まるでどころか全くだろっ。完全に気がおかしくなってやがるじゃねぇかっ。」
フィーの様子は、仲間達の知るものではない。
明らかに、異常と言える光景だろう。
そんなフィーを見てイルラートが呟く。
「見るかぎり、瘴気が強すぎて意識を乗っ取られているのでしょう。」
「乗っ取られてるって誰にだよっ。」
「フィーさんと混ざった何か。でしょうか。」
それが何かは分からない。
ただ、フィーの意識によるものではなさそうだ。
そんなフィーは、今もなお不気味な笑いと共に剣を振るう。
「イヒヒヒヒャハハヒヒヒハハヒハヒャハハハハハァァァッ!」
楽しそうに子供が玩具で遊ぶかのように。
ただただ剣を振り続ける。
しかし、氷帝が地面へと落ちた時だった。
「くっ。」
その拍子に、地面と手を凍らせて固定する。
そうして剣の振りに耐えると、剣へと氷を流し込む。
すると、剣を伝いフィーへと氷が向かうのだが。
「ヒヒヒヒィッ!」
それを見たフィーは、あえて剣を短く戻していく。
それにより、縮む剣に引っ張られていく。
そうして、氷が迫る直前で剣を持ち替え下駄を突き出すと。
「ヒィッ!」
下駄で氷を砕いていく。
そうしながらも、氷帝へと迫ると…。
「ヒイッ!」
「っ。」
最後の氷を突き抜けたフィーが氷帝の前へと現れる。
そんなフィーの下駄が氷帝へと直撃すると…。
「ぐうっ。」
そのまま氷帝を地面へとめり込ませる。
そうしながらも、フィーが後ろへと回って距離を取る。
そして、着地と同時に高笑いをする。
「ヒヒハヒャァ!」
楽しそうに、口を大きく開いて笑う。
それに合わせるように、フィーの体から瘴気が溢れる。
その光景に、武将の魔族が倒れている氷帝を見る。
「どうした。いつまで遊んでいる。」
「ふっ。どうやら、人に対して警戒が過ぎたようだ。」
「みたいだな。かつての敗北にひびり過ぎだ。ここに奴らはいない。」
「あぁ。いや、一人だけいるか。」
そう言いながら、氷の壁を見る氷帝。
正確には、その向こうにいる存在をだ。
そこからは、何度も衝撃が走ってくる。
「全体を氷で覆っておいて正解だった。しかし、時間の問題か。」
「では、早く用事を済ませて去らないとだ…。」
そう言いかけた時だった。
武将の魔族へと、ディルが剣を振るう。
「させるかっ!」
「ふん。」
「っ!?」
迫る剣に対して、武将の魔族が振り向かずに剣で受ける。
そして、ようやくディルを見る。
「手負いの剣では届かないと言った筈だ。」
「でも、時間がないんだろ? だったら、いくらでも稼いでやらぁ!」
「ふっ。無駄な事を。私を止めたところでだ。」
そう言いながらも、再び剣の打ち合いが始まる。
そんな二人の後ろで、氷帝が立ち上がる。
武将を止めても、氷帝が動くなら意味がない。
「では、少し本気で行こうか。」
「ヒャァッ!」
氷帝が氷を放ち、フィーが剣で斬り飛ばす。
そうして、フィーと氷帝もまたぶつかり合う。
その時だった。
現実ではない場所でフィーが目を覚ます。
「っ!?」
跳ね起きるように体を起こすフィー。
そして、周りを見渡す。
しかし、そこは城ではない。
「ここはどこだっ! 帝はどうなったっ! 皆はっ!」
そう問いかけるも返事はない。
代わりに、横に寝転ぶ俺が目を覚ます。
にゃ!?
何ごとっ!?
俺もまた跳ね起きるように体を起こす。
そして、フィーと同じように辺りを見渡す。
にゃ?
ここはどこ?
「さあな。私も考えているところだ。」
二人揃って、何も分からないのである。
ただ、見知らぬ場所を見渡す事しか出来ない。
その時だった。
ヒヒッ!
「その声はっ!」
その声はっ!
何度も聞いた声が聞こえた。
忘れる筈もないその声を。
その声の出所を探っていると。
「っ! これはっ。」
辺りの景色が変わっていく。
いつか見た森の光景へと。
それを見ながらも、俺達は立ち上がる。
「ここは、あいつと会った場所か。」
にゃ。
みたいだね。
その場所もまた、見慣れた場所。
全ての始まりとも言えよう場所だ。
しかし、そこにある筈の建物はない。
代わりに、巨大な大樹が現れる。
そんな巨大な大樹を、ただ見つめる俺達だった。




