帝の襲来です
月だったものの残骸が砂となって地上へと降っていく。
その砂を追うように、天空人の女性が戦艦の下を覗き込む。
「これなら、地上への影響はなさそうですね。」
「無論。あれ程の瓦礫となれば、我が戦艦にかかれば些細な問題よ。」
「みたいですね。とにかく、月を落とせて良かったです。」
「らららー。私も歌を守れて満足です。」
「って、結局その歌ってなんなんですかっ。」
見守るように、並んで下を覗き込む三人。
長い間に行われた魔族の支配も、これにて終了だ。
その事実に、ほっと安堵するのだった。
そうして訪れた平穏は、下の城にも及ぶ。
「月が壊れた?」
頭上で起きた出来事は、リーグル達も見ていた。
そんな頭上での出来事に唖然としている。
ただ、事情を知るイルラートが呟く。
「ホルバーさん達です。どうやら、月を壊してくれたようです。」
「そうか。結局、助けられちまったって事か。」
「うん。戦場でも私達を逃がしてくれたもんね。」
「あぁ。また、お礼を言う相手が増えちまったな。」
元々は、敵対していた関係だ。
だというのに、何度も俺達を助けてくれたのだ。
これには、感謝の気持ちが沸くのも当然だろう。
とにかくと、リーグルが辺りを見渡す。
「とにかく、これで終わりだな。無事に解決して何よりだ。」
「えぇ。気を失ってる両親に代わり、お礼を申し上げ…。」
そうシェルートが言いかけた時だった。
急に、その場に倒れてしまう。
「っ!」
「お、おい!」
突然、苦しむように倒れるシェルート。
そんなシェルートを、近くのポーラとタールが支える。
「これは、さっきと同じ現象です。」
「おそらく、霊脈とかいうやつの影響ね。」
「そうか。元に戻っちまったからか。」
全てが解決して元に戻った。
つまり、霊脈から解放された事も戻ってしまう。
それに気づいたマークが頷く。
「そうですね。原因を解決しないとですね。」
「もう人事じゃないもんねー。」
「原因を取り除いてようやくの解決と言えよう。」
「だな。それまで解決はお預けだ。だろ? フィー。」
「あぁ。そうだな。」
仲間達は、フィーの話を聞いていたのだ。
だからこそ、フィーの言葉を肯定する。
同じ思いを共有する仲間なのだから。
そんな仲間達に、フィーが微笑み返した時だった。
「弟よっ!」
「「「っ!?」」」
いきなり、兄の方の魔族が飛び込んでくる。
そのまま地面に落ちるなり無抵抗に転がる。
どうやら、まともに着地出来ない程にボロボロのようだ。
それでもと、弟の魔族の下へと体を引きずらせる。
「弟よ、体勢を立て直す。今は引きましょう。」
「いや、もう遅い。」
「なぬ?」
「もう、遅いんです。」
そう同じ言葉を繰り返す弟の魔族。
その顔は、心が抜けたかのように呆然としている。
その時だった。
ズズン!
辺りを、高密度な衝撃が走る。
「「「っ!!!!!?」」」
あまりの衝撃に、ここにいた者達の目が見開く。
それだけでなく、離れた位置にいるホルバー達もまた目を見開く。
次の瞬間、凍えるような豪風が吹き荒れる。
「な、ななな、なんだこりゃぁ!」
いきなりの豪風に、耐えながらも叫ぶリーグル。
すると、辺りが段々白く彩られていく。
ここにいる者達にも、白いものが覆っていく。
その白い何かにマークが気づく。
「これは雪? しかし何故っ!」
「まだ雪が降るには早いわよっ! どっから吹いてきてるのっ!」
「分かんないよっ! ってか、寒すぎるぅっ!」
雪が降るには早すぎる。
ならば、どこから吹いてきているのか。
原因が分からない現象に戸惑うばかりだ。
それを空の戦艦から見たホルバーが呟く。
「この気配。まさかっ。」
「ホルバーさん、今すぐに船を城へ!」
「無茶を言うでないっ!」
「それでもっ…。」
そう天空人の女性が呟いた時だった。
戦艦からアマガセが飛び降りる。
「先に向かいます!」
「ちょっと! 私もっ!」
「お、おいっ!」
アマガセを追って、天空人の女性もまた飛び降りる。
その先の城では、変わらずの吹雪が吹き荒れていた。
そんな吹雪の先を、兄弟の魔族が睨む。
「もう来たのですか。早すぎます。」
「だから言ったでしょう。我々は、見られていた。」
何か事情を知っているようだ。
口の端を引きつらせながらも、雪が吹雪く先を見る。
そんな魔族へとリーグルが叫ぶ。
「てめぇらっ、何か知ってやがんだな? 答えろっ。何が起きてんだっ!」
「そうですね。黒幕…と言えば良いでしょうか。」
「黒幕だと?」
「えぇえぇ、そうですとも。今回の件は、我らが考えた事ではないのです。」
「何だと?」
「樹の事も含めて、全ては与えてくれたもの。」
そう魔族が答えた時だった。
吹雪く先にて、氷のようなものが生えてくる。
すると、その氷が何かを形づくっていく。
柱や階段や床や壁や天井と、見るからに建物のようなものだ。
そこから氷の壁が伸びて、吹きざらしとなった空間を囲む。
そして、最後に建物のようなものに扉のようなものが作られる。
直後、その扉が左右に勢い良く開かれる。
それを見た魔族が呟く。
「そう。このお方に。」
そう呟きながらも、開いた扉の先を睨む魔族。
すると、そこから二つの影が現れる。
その二つの影は、ゆっくりと前に出る。
「双王よ。どうやら、失敗したみたいだな?」
そのうちの一体が、兄弟の魔族を睨む。
それだけで、魔族が震え上がる。
「い、いえ、まだです。月などまた作り直せばっ。」
「否。もう終わりだ。お前達は、私が与えた機会を不意にした。二度目はない。」
「くうっ。」
急に現れた魔族は、淡々と兄弟の魔族へと語る。
だというのに、それだけで全身が硬直する程の威圧を受ける。
その様子に、イルラートが呟く。
「なんて量の瘴気なのっ。ただの魔族じゃない。」
「ただのじゃないって、じゃあ何なんだ?」
「分かりません。ただ、今まで見てきた瘴気些細に思える程の遥かに越える力があるのは確かです。」
「な、なんだって!?」
今まで沢山の瘴気を見て、その身にも浴びてきた。
そんな、それらの瘴気が些細に思う程の力を魔族から感じる。
横で見ているイルラートですら、体が震える程の力をだ。
そんな魔族が、兄弟の魔族を睨む。
「さぁ。その命をもって、償って貰おうか。」
「くぅ。やるしかないようですねぇ! 弟よ!」
「えぇ! 兄よっ!」
やられる前にやってしまおう。
その為に、兄弟の魔族が二体の魔族を襲う。
「「魔獣化ぁぁぁぁぁぁ!」」
そう叫びながら、姿を変える兄弟の魔族。
そうして、二体の魔族へと迫るのだが。
「私が出ようか?」
横に立つ魔族が鞘から剣の半身を抜くのだが。
「必要ない。我が出よう。」
そんな魔族を押さえて、威圧する魔族が前に出る。
そうしながらも、迫る魔族へと手を向けると…。
「凍れ。」
そう呟いた時だった。
手の先から氷が吹き荒れ、兄弟の魔族を飲み込む。
それにより、兄弟の魔族が凍りついてしまうと…。
「さらばだ。」
そう言いながら、前へと向けている手を握る魔族。
直後、激しい衝撃と共に氷が粉微塵と消えていく。
その中に閉じ込めた魔族ごと消滅する。
その光景に、リーグル達が息を飲み込む。
「一撃かよ。なんなんだ、こいつはっ。」
それだけで、敵わない相手だと理解する。
そう思うだけで、体が硬直し震え出す。
そんな俺達を魔族が睨む。
「さて。」
「っ!」
「お前達には世話になった。準備をするのに時間をかけたのだぞ?」
その言葉には、怒りが滲んでいる。
邪魔をされた事に、苛立っているのだろう。
それを向けられただけで、血の気が引いていく。
それでもと、リーグルが勇気を出して口を開く。
「お、お前は一体、だ、誰なん…。」
「ん?」
「っ!?」
ただの一睨みで、リーグルが黙り込む。
どれだけ勇気を出しても、魔族の威圧に潰されてしまう。
ならばと、リーグルを庇うようにフィーが前に出る。
「代わりに私が聞こう。お前は一体誰なんだ?」
臆せずフィーが魔族を睨み返す。
すると、こちらを見る魔族の目つきが変わる。
「そうだな。名乗らぬのも無礼な話。汝の勇気に答える為にも名乗らせてもらおうか。」
そう言いながら、改めてフィーへと向き直す魔族。
そうしながらも、こちらを見下すように見下ろすと。
「我は氷帝。魔界に国を構える五人の…いや、四人の帝の一人なり。」
そう威圧しながらも、魔族は名を名乗るのだった。




