友
大きな気配を、クルス達は近くで感じた。
それはフラットも同様らしく表情がこわばる。
「……この都市の、地下奥深くに魔物の、大量の魔物と大きな力のものが一つ。だが、こんな所に、遺跡はあったか?」
「いえ、僕が調べた限りではありませんでした」
そう呟くフラットだが、そこでレイナが、
「あるわよ、ここの地下に」
下の方を指差して、レイナが呟く。それにクルスが、
「では異界との接点が? どこから入るんだ?」
「出入口はアリスがいないと無理よ。それにそもそもこの地下は確かに、遺跡の中で重要な部分で……だからそこを狙ってきた?」
「もしくは裏をかいてきたか。……すでに皆、各々の遺跡に強い連中は配備されているから、ここまで呼んでくる時間はあるか?」
「そもそも先程も申しましたように、アリスがいなければこの地下の遺跡へと入ることは出来ません。ですが逆に、こちらへと来ることは難しいでしょう」
「……地上への入り口は、フラットが本気を出せば作れる程度だと思うが? そしてそのおおきな気配はフラットよりも強い」
レイナがそれを聞いてクルスを見て、深々とため息を付いた。
「どの道アリスがいなければ入り口ができません。ですから彼らがその入口となる出口を作るまで、我々は動けないでしょう。とりあえず、上に連絡を……」
「そうだな、フラット。こちらも連絡を……」
そう呟くクルスに、フラットは白い紙のようなものを取り出して、何やら書き込む。
レイナも同じでその白い紙に何かを書き込む。
同時に、小さく言葉を発すると紙は鳥の形になり、大空へと羽ばたいていく。
本当はすぐにでも戻れればよかったのだが、現在の状況ではここに滞在するよりほかない。
そう、これは仕方がないことなのだとクルスは笑う。
それに気づいたレイナが、
「クルス様、笑顔が怖いです。アリスの前でそんな顔しないでくださいね、腹黒さが丸見えですから」
「……何か気に触ったのか?」
「私達の女神様が、また、貴方様に取られるかと思うと……フラットに八つ当りしたくなります」
「じゃあ好きなだけフラットに八つ当りしてくれ」
「分かりましたわ……逃げるな」
「ひいいいいいい」
レイナがフラットを捕まえて、フラットはレイナから逃げようとして、次に恨めしそうにクルスを見た。
「酷いです、先程から色々」
「彼女を優先しないと嫌われるぞ?」
「僕の主はクルス様だけなのに……そもそも、何を思いついたんですか? 悪い顔をしたということはそういうことでしょう?」
「父たちと素直に手を組んで出し抜くつもりはなかったが……ここで抑えれば、出し抜けたことになるかと思っただけだ」
そのクルスの答えにフラットは顔をしかめる。
「クルス様、まさか自分から飛び込んだりはしませんよね?」
「それこそまさかだ。確かに俺は父を出し抜きたいが、こんな時まで見えを張るつもりもない。ただ、もしもの時は俺達が動けば良く、そうすれば出し抜けるのではと思っただけだ」
「それならかまいませんが……そうでないことを僕は願いますよ。……クルス様の御身が大事なのですから」
「……だから、レイナの前でそういうことを言うのはやめておけ」
嘆息するようなクルス。
けれどそこでフラットは真剣な表情で、
「僕は、本当にクルス様の身に何かあってはと僕は心配しているのです。……僕を、外に出れるように、自由に何処にでもいけるようにして頂いた御恩を未だに忘れていないのです」
「……大した事はしていないだろう」
まさか未だにそれを恩に思われていたとは思っていなかったクルスは、呆れたようにフラットを見返す。
同時にだから、“友”として付いてきてくれているのだろうかと気づく。
「……もう友達ごっこはしなくていいぞ?」
「! そんなつもりで僕はクルス様と一緒にいるのではありません! 確かに切欠はそうですが、それでも……本当の友人のように、クルス様を思っています。……失礼なこととは思っていますが」
「失礼? そうお前が思うこと自体が俺に対して失礼だ」
クルスがそう、フラットをまっすぐに見て告げた。
その視線の強さにフラットはうっと押し黙る。
これまで言葉に出したことはなかったが、確かにクルスとフラットの間には主従を超えた友としての絆が存在していたのだ。
その信頼に今更ながらフラットは実感し、これからもクルスに付いていこうと心の中でフラットが決めていると、そこでフラットの背後からレイナの手が伸びてきて、フラットを捕まえながら、
「本当に仲がいいわねお二人は。この私を捨て置いて、男といちゃつくなんてひどい人」
「……今、結構感動的な話をしていたような気がするのだけれど、あれ?」
「女は嫉妬深いのよ~、でも私は優しいから、貴方を調教するだけで許してあげるわ。……来なさい」
「い、いやぁあああああ」
「待て! 逃げるんじゃないわよ!」
レイナがフラットを追いかけ回す。
それをクルスは見ながら、なかなかいい組み合わせなのかもしれないなと、何処かほのぼのとした気持ちになり……そこで、クルス達の座る床が、ポッカリと穴を開けたのだった。
アリスは急いでクルス達のもとに行こうとするが、ふと立ち止まる。
クルス達がどこかに連れて行かれたような感覚。
「……駄目だよ、クルスは……私のものだもの」
小さくアリスは呟く。
あの日、あの場所で出会ったのは偶然でも、それでも、必然と思えるくらい、別の出会いをしても愛せるくらい大切な人。
「絶対に渡さないよ? だって……私が勝ったんだもの」
けれどこの時の呟きは、アリス自身気づいていなかったのだった。




