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告白

 現れたアリスにクルスは目を瞬かせながら、


「アリス? どうしてここに?」

「はあはあ……いてよかった。……レイナ? 何でここにいるの?」


 そんなアリスの問いかけにレイナは、


「この二人にも手伝ってもらうことになっているの。アリスも知っているでしょう? 遺跡から魔物達が大量に出てこようとしているって」

「……聞いた。だから私、クルス達に……」

「逃げろって伝えに来たの?」

「……うん」


 そこでクルスがどこか剣呑な雰囲気のレイナを押しのけて、


「心配してくれたのは嬉しい」

「う、うん……でも、もう知っていたんだね」

「ああ、そうだな。でも、本当はまだ皆知らないんだ。冒険者達もいつもどおりだろう?」


 言われて周りを見回すアリス。

 そこはいつもの平和な酒場だった。

 まだ、彼らには伝わっていないのだろうか。

 違う。


「まだ、その徴候が少し現れたというだけで……本当は異界から魔物達が大量に来るのはもう少しあとのはずなんだ」

「そう、なの?」

「うん、実際に余裕がある時間で、人は避難させるから」

「でも、もしも……」

「そのために、俺達が色々動き回っているから」

「クルスも、そんな危険なことをしているの?」


 アリスが不安そうにクルスを見上げる。

 実際アリスは不安なのだ。

 クルスがとても強いことは知っているし、一緒にいるフラットだって強い。

 でもそれでももしもと考えてしまう。

 そんなアリスにクルスは小さく笑い、


「俺が強いことは知っているだろう? その力を見込まれて、こうして対応しているんだ」

「……そう、なんだ。私……」

「でもアリスが心配して俺のところに来てくれるのは嬉しかった」

「……私も、ついていっていいかな?」


 そこでアリスは、自分でも想像だにしない言葉が口から漏れてしまう。

 言ってしまってから、アリスはハッとするが、クルスは困ったように苦笑して、


「足手まといになるからダメだ。気持ちは嬉しいが」

「そうだよね、変なことを言ってごめん」


 分かっていたし、当然の答え。

 なのにアリスは落胆してしまう。

 私にだって力はあるのに、魔法だって使えるのに。

 でもそれは、クルスにとってお遊び程度にしか見えないものだったのだろうか。

 思い返せば初心者用の遺跡ばかり。

 一緒に行きたいなんてきっと自分は思い上がりが甚だしいのだ。

 けれど、そういえば自分は“女神”だったことをアリスは思い出す。

 この力の重要性というか、遺跡を動かすにはきっと必要になる。

 だったら、そう思ってアリスが口を開きかけて、そこでレイナが口を挟んだ。


「アリス、駄目よ。貴方は安全な場所にいなさい」

「で、でも私は女神なんでしょう?」

「そう、でももしも貴方に何かあったなら、私達まで危険が及ぶの。人質としての価値はとても高いから」

「……女神、だから」

「そう、分かったら屋敷に帰りなさい。そしておとなしくしていて。……全部終わったら教えてあげるから」


 レイナに言われて、もっともだと思う。

 けれど、感情が、アリスは抑えられなくて、


「私、ここにいたい。見届けたいの」

「アリス、駄々をこねないで」

「私の力はきっと必要になるから、だから駄目? レイナ」


 口から漏れた言葉は、何かの未来を暗示しているようでアリス自身もぞっとする。

 けれど、それに気付いたレイナが黙ってクルスの様子をうかがう。

 クルスもその言葉は気がかりであったのだが、それでもアリスには怪我一つ追わせたくなかったから、更にアリスに近づいてその手を取り、


「俺の女神様には、安全な場所にいて欲しい。……大切な女性だから」

「え?」


 間の抜けた声でアリスは聞き返してしまう。

 女神様、であるのはそうなのだけれど、俺の、って。

 俺の……大切な女性。

 主語が誰かはあえては言わず、アリスの手を握りながら……。

 それは、期待してもいいのだろうか。

 そうアリスは顔がほてるのを感じてそこで、


「続きは、戻ってきてからでいいか?」

「あ、うん。分かった、大人しく帰る」

「……また落ち着いたらここに来てくれ。言いたい言葉があるから」

「……うん」


 アリスは頷いて、その場を去る。

 恥ずかしくて一秒でもこの場にいられなかった。

 だって、今の言葉は……。

 そしてかけて行ったアリスが見えなくなった頃、クルスが疲れたように傍の椅子に座った。


「……何で俺、あんなセリフを言ってしまったんだろう」


 真っ青い顔をしてクルスは先程の恥ずかしい自分が言った台詞に苦悩する。

 もっといい台詞とか、普通のでよかったのでは、と思ってしまう。

 何が俺の女神様だ……死にたい。

 そんなクルスの苦悩を見ながら、レイナが、


「……好きな相手なら、恥ずかしい台詞も意外に行けるのかも、アリスは嬉しそうだったし」

「本当か!」

「……性格が変わっているように見えますよ、クルス様。いつもの様にもうちょっと傲慢な感じで接して頂ければと思います」

「……恋は人を狂わせるというのは、本当だな」


 クルスが深々とため息を付いて……その時だった。






 アリスは振り返る。


「何かがおかしい。でも、なにが?」


 呟くけれどわからない。

 けれどそれを知るのは、そのすぐ後だった。

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