事実発覚
アリスは朝起きると、何かが騒がしいことに気づく。
そしてその理由を聞いたアリスは、すぐに屋敷を飛び出した。
服だけは着替えて駆けて行く。
今日はいるかどうかわからない。
でも、どうしても伝えたいからと、転送の魔法陣をくぐりいつもの酒場に向かおうとする。
けれど地面の奥底で蠢くその音が今日はやけに大きい。
歯車が噛み合い、その動きはとても早い。
「……でも、きっと大した事がない。行かないと」
だって、私には……クルスの方が大事だから。
「……というわけです」
レイナがひと通りクルスとフラットに説明と、伝言を伝える。
遺跡や女神側の話に関してはクルス達よりも、レイナ達神殿側のほうが詳しい。
そして面識があるため、こうやってつなぎ役になっているのだ。
そしてここはいつもの酒場。けれどどこか張り詰めた空気が漂っている。
まだ一般市民には情報が開示されていない。
混乱が生じるからという理由だが、とはいえ、事前にどうにか防げる算段もある程度整っている。
「遺跡が自身で全て動いていると? 俺はまだ見に行っていないが……」
「女神様が何かを感じ取ったのでしょう。女神様が本気を出せば、こんなものです」
「……けれど強い魔物が来たら対応できるのか?」
「ではあの遺跡を、クルス様が“本気”を出せば壊せるのですか?」
「出来るが」
得意げだったレイナが、無表情になる。
次いでくるりとフラットに視線を移して、
「……フラット、まさか貴方も遺跡を壊せるとは言わないでしょうね」
「いやうーん、僕は……」
「やっぱり男はか弱いほうが、飼うにはちょうどいいわね」
ふっと嘲笑おうとしている表情を浮かべようとしているが、レイナは何処かホッとしているようだった。
それを見ながら、何故か負けたと思ったらしいフラットが、
「別に、本気を出せばこう見えても半階くらいは出来るんだ、僕だって……体が耐え切れず、死ぬか、今の僕の人格がなくなるかもしれませんが、ね」
「……そういえば、貴方方で高位の者達は、まだ魔物の本性を随分と残しているのでしたっけ」
「そうなんです。というか、僕だってがぶりとやれば一生意のままに操れる程度に、“吸血鬼”としての力は残っているんですよ?」
「あら、じゃあ私の首筋に噛み付いてみる?」
「……いやです。それにレイナは絶対にまずいと思うし」
いやいやと首をふるフラットにレイナは、
「何よ、あんた血とか必要ないっていうの? “吸血鬼”なのに?」
「血はクルスからもらっているから、足りています!」
それにその血に宿る王の力を持ってフラットは、なんとか正気で、体も保つことが出来るのだ。
その血が不味いはずはなく、極上であり、それ故に他のものはまずくて吸えない面もあるのだ。
以前、兄のノイズが与えようとしてくれたこともあるのだが、クルスのものとは比較にならないくらいまずかった。
そう、本当にまずくて、泣いてしまうほどで、あの時は兄のノイズをものすごく傷つけてしばらく部屋から出てこなかったほどだった。
そんなことを思い出していると、何故か、一方後ろに下がるレイナがいて、何でだろうなと思っていると、
「お二人はそのような関係で?」
「! ……絶対何かレイナが誤解してる! クルス様、なんとか言ってやってください!」
「……アリスに誤解されたくないので、今後はレイナに血をもらってくれ、フラット」
フラットがクルスに助けを求めると、何故か表情を消したクルスにフラットは言われた。
今更それは酷いと思うも、クルスの目は真剣だった。
つまり、とても怒っている……。
「違います! 僕は女の子の方が好きで……」
「それは分かっているし当然だと俺はいいたいが……周りからそう見られるのだけは避けたい。特にアリスには」
「えっと……はい、それはわかったのですが、血だけは頂ければなと」
「意外にレイナの血は美味しいかもしれないぞ」
「いやだ、絶対に嫌だ。レイナに舐めさせてもらうなんて、そんなの嫌だ。うう、何を要求されるかわからないのに」
そこで、フラットの様子にレイナが訝しむ。
「何で噛み付こうとしないのかしら」
「いえ、ヘタをすると一生操り人形になってしまうかも知れなくて」
「そうなの、ふーん」
そこでにやっとレイナが笑い、
「私に噛み付いて、一生私の面倒を見なさい?」
「い、嫌だ……何でそんな人生を棒に振るような……」
「あら、私のために人生を棒にふれるなんて、光栄なことでしょう?」
そうレイナがしなだれるようにフラットによりかかり、耳元で囁く。
やわらかな女の子の体が服越しに感じられて、甘い匂いがして、フラットは、
「うわぁああああああ」
「こうやってこの私が直々にくっついて、そして所望しているのよ? だから、私に寄越しなさい?」
「何を?」
「貴方を」
フラットは、ああ、自分の人生はこれまでだと思った。
初めて会った時から嫌な予感がしていたのだ。
なんかこう、逃げなければならないような、でも完全に嫌いきれなくて。
しかもこんな時に、自分から告白をしてくるから質が悪い。
でもこのまま認めるのは、フラットにはまだまだ癪だったので、
「デートからでお願いします」
「情けない男ね……こう、ここぞという時に言わないとダメよ?」
「うう、だって、まともに女の子とのお付き合いなんて、適当にあしらう程度しかしたこと無いし」
「ふーん、貴方程度で女があしらえるとは思えないわね」
「……覚えていろ、絶対にデートの時僕がエスコートしてやるんだからな!」
「ええ、楽しみにしているわ」
にっこりと微笑むレイナ。
非常時だからわざわざこんな告白をしてくる当たり、レイナ自身も不安なのだろう。
切欠としては上出来かなとフラットが思っている所で、人影が現れる。
彼女の名前を、クルスが不思議そうに呟いた。
「アリス?」
そこには、息を切らしたアリスがたっていたのだった。




