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駄目だ

「何だか騒がしい感じがする。とてもおおきな変化があるような」


 アリスは、ベッドの上で眠れずにいた。

 とてもそわそわしてむず痒いような、チクチクとする感覚。

 邪魔だと思った。

 同時にそれらを繋ぐ糸のようなものが、ぷつんと切れる感覚を覚える。


「……これでいいかも。……仲良くできればいいのだけれど、落とし所が見つからないのよね」


 眠気を催しながら、アリスは呟く。

 その時アリスは自分で何を呟いているのかを気づいていなかったし、その声を聞く者もいなかった。

 けれど確実に、アリスは何かを行ったのだった。






「それで、本当にあちら側に行くと、そう父様はお考えなのですか?」


 クルスは、遠回しに探りを入れていたが、一向に答えない父にクルスがいい加減憤りを覚えて叫んだ。

 そんな感情的な息子に、クルスの父はほんの少し目を細めて、


「……お前はそんなにこの世界に愛着があるのか?」


 それはいつも以上に静かな声音だった。

 けれどそれを聞いて、クルスは黙ってしまう。

 この世界は、違和感がある。

 それはクルスにとって居心地の悪さを感じる。

 ここは自分の居場所でないような足元がグラつくそんな感覚。

 周りを囲む者達も、張り付いた笑顔でクルス様と呼ぶだけ。

 つまらなくて、味気のない世界だった。

 どうなってしまってもいいと思う程度に、無関心だったようにクルスはこれまでの自分を思う。

 けれど、今は違う。


「俺は、俺の居場所はこの世界です!」

「……女神がいるからか?」

「……女神だから、そんなもの俺には何の意味もなさない。俺にとって大切な女性がいる、それだけでここに留まる理由は十分だ」

「……考えなしの行動だと思わないのか」


 感情的に話してしまったクルスは、父の冷たい言葉に体をこわばらせる。

 例え知られていったしても……いや、ここで言い訳する必要はない。

 すでに言ってしまった話だしそれに、


「それでも、彼女が俺の世界に彩りを加えてくれたことには変わりありません」

「女神のせいで、我々はこんな所にいるというのに?」

「恋人関係なら構わないでしょう。そもそも我々の祖先です。どちらが悪いかなど、どちらの血もひいている我々が話しても意味がありません」

「つまりお前は、女神があちらの世界に行けば、ついていくのか」

「それは……取り戻しにいきます」

「ではどうしてこの世界に執着する」


 そう再びの問に、今更ながらクルスは自分がこの世界を、あまりにも見ていない事に気付いた。

 斜に構えて、自分の力を過信して、その足元は思いの外おぼつかないものだった。

 けれどそれでもこの場所にいたいと、クルスは思える。

 何故か。

 アリスなら多分ここにいたいと願うだろう。

 そんなアリスと共にいられたらとクルスも思う。

 けれどそんな答えだけでは先程のように返されて終わりだ。だから、


「そこに理由は必要ですか? 俺はここにいたいと思っている」

「そんな曖昧な理由で、納得できると?」

「では、父様はどうしてこちらに留まると?」

「お前の母親に、離婚しますよと言われるからだ」


 クルスは真面目な顔をした父のその発言に一瞬言葉を失った。

 失ってから、あまりにも酷すぎると思った。


「父様、俺と同じような理由じゃないですか」

「理由など、そんなものだ。残念なことに」

「……では俺の理由は認められるわけですね」

「いや、駄目だ」


 クルスは頭の痛みを感じる。

 これではまるで、初めから答えは決まっていて遊ばれているようではないか。

 遊ばれている?

 そこでクルスは理解した。


「あちら側に全くいく気が無いのですね?」

「さて、どうだろう。状況が変わればあちら側にいかざる負えない。それによって……どれほどの人数が、耐え切れず死ぬかは分からないが」

「……弱いものがこちらに残る訳にはいかないのですか?」

「王を、国を失った者達の末路を、お前は知らないのか?」


 そう問われて、クルスは黙るしか無い。

 もしも本当にあちらにいくならば、苦難の道程ばかりだ。 

 けれど今現在の状況を鑑みて、


「我々があちら側に行く必要性を感じませんが」

「あちら側の者達は我々を欲しているが、確かに我々はあちら側に行く必要性を感じていない。そもそも我々自体が女神に認められた者達だ。そして女神に愛される……もっとも女神後の欠片受け継ぐのは、人間と決まっているが」

「確か、我々側に女神がつかれるのは困ると、それが理由で人間側に血の一滴を与えて受け継いだと」

「そうだ。そして女神に気に入られているから、こちら側に我々はいられる」

「それがどうかしましたか?」


 そこで深々とクルスの父は嘆息した。

 そしてクルスを見て、

「女神の気分次第、お前が口説けるかどうかにもややかかっている。こんな現状では、どちらに転ぶかわからない。故に、あちら側とのつながりはあって損はない」

「それは……まさかそのために俺をあちらにといった話を持ちかけていたと?」

「持ちかけてはいない。ただそういった可能性もあると彼らと話をした」


 にやっとそこでクルスの父が笑う。

 そしてクルスは今更ながら、完全に父の手のひらの上だったと再認識させられる。そしてついでに、


「それで俺は、アリスを口説いてもかまいませんね」

「お前にそれがまだ出来るとは思えないが、頑張ってみるといい」


 今の関係は変えたくないが、それでもいい方に前進したいと思っているクルスのじれったい想いすらも見ぬかれているらしかった。

 いつになれば出し抜けるんだかと、クルスは嘆息する。と、


「たいへんな事が分かりました!」


 そう、一人の兵が部屋を叩いたのだった。


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