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予期せぬ遭遇

 また妙な所に放り出されたように思う。


「クルス達の傍に戻してくれるわけじゃないんだ……」


 ポツリとアリスは愚痴をこぼして、けれどいつまでもここにいるわけにもいかないので歩き出す。

 周りは石で出来た壁が続いていて人気がない。

 もしかしたなら随分と深い場所なのかもと思って、上に上がる階段をアリスは探し始める。

 けれど少し歩いてみても、それらしきものは見えない。

 それどころか下の階へと繋がる階段に遭遇してしまう。


「こっちでいいような気がしたのだけれど、なんか違うみたい。でも今のところ魔物とも遭遇していないのは良かったかな」


 些細な弱い魔物すらもいない。

 まるで綺麗にされて、魔物といった闇の者達が存在できないでいるようだった。


「んー、綺麗すぎるのも、居心地が悪い? ような気がする。……でもいないに越したことはないし……要は程々、かな」


 と、アリスはそのまま歩いていく。

 上の階に行く階段を見つけないことには意味が無い。

 ただこちらの方に行くと嫌なものにアリスは近づいているように感じる。

 それは、以前にも経験があるような気がする。

 気がするのだがよく思い出せない。

 しいて言うならこの前さらわれた時の、女の魔物に似ている気がする。


「うーん。もしかして、“女神”として何かを感じ取っているのかな、私」


 いい加減認めないといけないらしいので、“女神”とアリスは呟いてみる。

 が、違和感しか感じない。

 他の人達がそう言うけれど認めたくなかったのは、多分アリスが自分でなくなるのが嫌だったからだ。

 けれど今も“女神”でいるのが怖いのは、やっぱり何処かアリス自身が不安だからだろうか。


「何が不安なんだろう。……大きな力を制御できるかどうか?」


 力があるといわれても、それを実感できないのであれば不安がる必要はない。

 分からないから不安がある、というものもあるが、それはあまり実感がわかない。

 他にあのうさぎは何を言っていただろうかと思って、そういえば、


「銀髪に青い瞳って……」


 それは、クルスと同じで。

 そしてあの場でクルスをちょっと大人にしたような人影を見た気がして。

 アリスはそこで、気づけば自分はクルスの姿を探しているのではと気づいてしまう。

 いや、そんなことはないと自分でも繰り返し心の中で言ってみるが、説得力がまるで無い。

 

「き、気付かれないようにしないと。だ、だって、気づかれたら……」


 気づかれたなら、きっと、好きか嫌いか、その内言わなくてはならなくなって。

 そもそも今みたいな関係でいられなくなって。

 ギクシャクしてしまったり、最悪、もう、一緒に冒険するのは止めよう、と言われる可能性も……。


「そ、それだけは絶対に避けないと。でないと唯一クルス達と一緒に入られる機会が無くなっちゃう」


 一応アリスだって貴族の姫なのだ。

 この機会を逃せば、それこそ一生クルスと会うことなんて無いかもしれない。

 それこそ来ると一緒に入られるのは今だけなのだ。

 しかもアリスは“女神”であったならば、


「然るべき人と、結ばされる?」


 恋愛なんてすることなどもっての外、アリスの気持ちなんて無視してそうなってしまうのだろうか。

 そもそも貴族の姫であるアリスに、自由恋愛なんて出来るかどうか。

 そこでアリスはぎゅっと自身の手を握る。

 さきのことを不安に思っていても仕方がないし、“女神”だからとか、考える必要なんて無いとアリスは自分の心に言い訳をいする。

 だって、そうしないと耐えきれそうになかったから。


「私、自分で思っていたよりもクルスの事が好きみたい」


 口に出してみれば、理由が形となって現れる。

 そう、アリスはクルスが好きで、あんな目にあってもそれでも離れられないくらいクルスが好きで。

 気づけば完全に溺れていたのだと、今更ながらアリスは自覚した。

 そしてこれは自分にはどうしようもないと、アリスはあっさり諦めた。

 つまり、問題の先送りという、将来の自分、頑張れという無責任な攻撃を仕掛けたわけだが。


「仕方がないじゃない。クルスに会わないでいるなんて無理だもの」


 アリスはそうして深々と嘆息して、ようやく気づく。

 目の前の魔物の気配。

 とても強くて恐ろしい物のように見える。

 けれど何処か出会ったような……やがて、その姿が現れる。


「? 若い、魔物?」


 歳はそれほど離れているようにも見えない少年の魔物。 

 けれど彼はアリスを見て、嗤う。


「なんだ、無自覚の“女神”がこんな所に一人でいるのか。……僕は付いているな。この前の仕返しもあるしな」

「……あの、どこかでお会いしたことがあったでしょうか」


 アリスは思い出そうとするが記憶に無い。

 けれど、どこかで見たような気もするのだ。

 だがはっきりと思い出せない。

 そんな戸惑うアリスに目の前の彼は更に笑みを深くする。


「クルス様に来ていただく手土産にはちょうどいいか。“女神”はこの世界そのものと同じであるから、こうやって面と向かわなければわからないからな……私はついてる」

「? クルスの知り合いなの?」

「ああ、知っているとも、クルス様は我々の大切なお方だ」


 その美しい少年は、冷たい笑みを浮かべて、アリスに攻撃を仕掛けようとする。

 アリスはそれに気付いて、何で私が狙われるの! という思いと、こっちに来るな! という思いを強く抱いた。


 目の前で余裕の笑みを浮かべていたその少年の魔物は、目の前の壁が急に盛り上がり、反対側の壁へと投げ飛ばされたのは、アリスが来るなと思ったのとほぼ同時の事だったのだった。


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