話し合い
アリスがいなくなってから、クルス達はこの状況でどうするのかを話し合っていた。
そしてクルスには、レイナに聞きたいことがある。
「……アリスは遺跡に守られているから大丈夫だとして、ここで幾つか聞きたいことがある。かまわないか? レイナ」
「ええ、私が答えるかどうかは別ですが」
「かまわない。幾らか受け入れてもらえる余地があるならば」
レイナは、警戒するようにクルスを見つめる。
そんなレイナにクルスは苦笑する。
「そう警戒しないでくれ。別に大した事を聞こうとしているわけじゃない。……ここは、女神の“本拠”のある遺跡。それは確かだな?」
「……ええ、そうです」
「どうしてここに来るのを一瞬躊躇した?」
「クルス様はどのようにお考えですか?」
質問に質問で返してくるレイナにクルスは嘆息する。
ここで無理やり吐かせることもクルスには造作のないことなのだが、
「アリスが異世界からの侵略を、“女神”として感じ取っているから戸惑いを覚えた。それが躊躇という形で現れた、か?」
「それでかまいません」
「もう一つは、“女神”がここによく引きこもっていたから、か?」
そこでレイナがクルスを見る目が半眼になる。
「……クルス様はその理由をご存知なのですか?」
「いや、“女神”は繊細だからという話だが……違うのか?」
「貴方のご先祖である始祖達と恋人同士になっているのはご存知ですよね?」
「ああ、“女神”と恋人同士にはなっていると聞くが、それがどうかしたのか?」
更にレイナが冷たい目でクルスを見て、その後深々と嘆息した。
「痴話喧嘩をすると、ここに来て引きこもるんですよ。そして、恋人であるクルス様のご先祖様が連れ戻しにいかないと戻ってこなかったんですよ」
「……え?」
「そちらの方には全く伝わっていないのですか?」
「ここが遺跡の中枢であるから、こもるのを理由に異界対策をしていたと聞いていたが」
レイナはそこまで聞いて僅かな重巡をして、次にフラットも見て、大きくため息をつく。
「仕方がないこととはいえ、我々はまだ貴方方を完全に信用しているわけではないのですよ?」
「それは、俺達が魔物の末裔という意味でか」
「そうです。ご自覚は有りますか?」
「すでに女神と共に有ることを望んだのに?」
「だとしても、今回のようにクルス様は異界へのお誘いが絶えないでしょう? そして、もしもその誘いに乗った場合、クルス様は……アリスを、我々の“女神”を連れ去って行かない保証もない」
「……昔、俺の祖先は“女神”に返り討ちにあったのでは?」
「今の貴方をアリスが返り討ちにできると思えますか?」
「実力で言えば、無理だ。圧倒的にアリスには経験が足りない」
「つまり力づくで幾らでも奪える状況です。警戒するには十分だと思いませんか?」
レイナの問に、クルスはなるほどと頷いて、
「いざとなれば、その手があるか」
「「クルス様!」」
レイナとフラットが諫めるようにクルスの名を呼んだ。
そんな二人の仲の良い様子にクルスは笑いながら、
「冗談だ。だが、レイナ、君達も“女神”を失いたくはないだろう?」
「……決めるのはアリス自身です」
「俺もアリスの心が欲しい。けれど……恋に狂った男がどんな行動をするのか、わからない年でもないだろう?」
レイナが歯ぎしりをする。
けれどそこでフラットが、
「クルス様、冗談でもそれは……」
「我々は信用されていないのであれば、これくらい言ってやればいい。それが我々の武器にもなる」
「……なるほど、これで女神側は、クルス様達の仲を邪魔に出来ないと。けれど下手にクルス様の知らない所で分断工作を取られてしまっては困るのでは?」
「だから、もしもの場合はさらいにいくと。アリスの感情に関係なくと言っている」
「クルス様……そうすると僕に、クルス様を諌めろだの何だのと来そうで嫌なんですが」
「いいじゃないか。頼りにしている、“親友”」
フラットがそれほど困っていないように笑う。
その程度はフラットも協力するといったような表情だ。
そしてそんな二人にレイナはようやく破顔して、
「性格が悪い」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
「……愚直なアリスには丁度いいですね。それくらいでないと」
「それは認めてくれたと受け取っていいのかな?」
「ただしきちんと口説かない方はアリスに会えないように私は邪魔をしますよ?」
「君はフラットのことで精一杯だと思っていたが?」
「面白い冗談ですね。こんな顔だけしかとりえのない男を中身まで調教して差し上げようとしている私こそ、感謝されるべきでは?」
「フラットの中身も君は気に入っているのに?」
「……気に入っていません」
言い訳もせずきっぱりと言い切るレイナ。
言い訳をしないのも潔いが、それは言い訳できないくらいにレイナの心がフラットに追い詰められていいるのを物語っている。
けれどそこを追求するのもはばかられて、クルスはレイナに別のことを問いかけた。
「それで、女神が“同一”とは?」
「……遺跡を動かす、変化のない“鍵”という意味です。でなければ人格も体も異ならなければ、貴方の祖先は何度も“女神”と恋に落ちていません」
「……言われてみれば。気付かなかったな……だが、“鍵”として機能する条件が何かあるのか?」
「“女神”はこの世界の始まりであり作り上げた存在。その変化は敏感に感じ取れてもおかしくはありません」
そう、レイナは特に疑問でもないように告げたのだった。




