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かすかな自覚

 尖塔の中に入るとすぐに、大きくて広い階段が地下へと続いていくのが分る。

 その石の階段は簡素なもので、今までの遺跡と比べると確かに地味に見える。

 外から見たあの水に映る空に白い花。

 

「星空……」

「どうしたんだアリス」

「うんん、夜は星空が写って綺麗なのかなって」

「そうだな。そういえば、“女神”はこの場所がお気に入りであったらしい。でもそういったことはレイナの方が詳しいんじゃないか?」

「そうなの、レイナ?」


 アリスが話を振ると、レイナは何処か機嫌が悪い。

 先ほどフラットとの会話も含めて、どこか気まずいらしくレイナはフラットから少し離れている。

 けれどそれは完全にレイナがフラットを意識している、それを示しているのである。

 そこでレイナがアリスに、


「ええ、もともとここには、“女神”の住処――と言っても別荘ですが――が有りましたから」

「え? そうなの?」

「そうなの。けれどその住処はこの地中に埋もれていて、この遺跡の何処かに入口があるらしいの。……いつか目覚めるために」

「目覚める?」

「そう、“女神”は、いつだって“同一”だから」


 その時のレイナの表情は、どこか感情のない“巫女”の表情をしていた。

 なのでアリスは、レイナの頬をむにっと摘んで、


「ほら、笑え―」


 そのまま笑顔のような形にレイナをするアリス。

 それを見ていたフラットが、ゴフッと吹き出して、レイナに睨まれると指を指して更に笑い出した。

 そこでレイナはきゅっと鞭を取り出して引っ張って、


「フラット……少しは顔を背けるとか、そうする気持ちはないの?」

「いや、いつものレイナを知っている分、先ほどの顔はもう……うぎゃぁ!」


 レイナの鞭が飛んでフラットが逃げまわる。

 その様子をほのぼのと見ていたクルスとアリス。

 けれどそこでクルスはチラリとアリスを見やる。

 微笑ましそうに二人を見るアリスは……“女神”。

 その“女神”の概念について、クルスは不安を覚える。

 先ほどレイナは、いつでも“女神”は“同一”だと言っていた。

 では、もしも、“女神”……その時アリスはどうなるのだろうか。

 不安を抱えたまま、クルスはアリスを見つめる。 

 けれどもしも、アリスがアリスでなくなろうとしたならば、


「……捕まえて、取り戻せばいい」

「? 何が?」

「いや、アリスが一緒にいてくれるだけで俺は嬉しいって話だ」

「そう、なんだ……初めての時からずっと迷惑ばかりかけちゃっているから、そう言ってもらえるとは思えなかったから」

「この前の事があっても、まだそばに居てくれるのが、俺は嬉しい」


 そう言って微笑むクルスに、アリスは頬が熱くなる。

 動悸が激しくなって、そして、クルスが好きだからと再認識させられる。

 その衝動はどうしようもないほどで、きっとクルスがアリスを求めてくれたなら頷いてしまいそうだった。

 そこで、羨ましそうにじーと、フラットが現れる。


「僕がレイナに追い掛け回されているのに、二人はいい雰囲気に」

「そういう事もあるだろう」

「……僕もアリスちゃんみたいな子の方がいい……いでででで」


 そこでレイナにフラットは耳を引っ張られて、代わりにレイナはそのフラットの耳元にいきをを軽く吹き、


「ねぇ、いいコトしましょう?」


 何をするんですかとか、意味深な言葉にフラットも健全な男子であったために顔を真赤にして、


「もういやだぁああああ」


 そうさけんで走って行ってしまう。

 それを見送りながらレイナはニヤリと獰猛な肉食獣の笑みを浮かべて、


「初ね。弄びがいがあるわ……待ちなさい!」


 今度はレイナが叫び、フラットを追いかけていき、そしてそんな二人をアリスとクルスも追いかけていったのだった。






 遺跡の内部は石造りになっていたが、ところどころ薄い魔法の膜で溶岩をせき止めた明かりがともされている。

 けれど、そういった溶岩らしい熱さを感じない遺跡だった。

 そんな事を考えながらフラット達を追いかけて行くと、今度は道の両端が水槽と土の壁が交互に連なる道に出る。

 確かに格子模様に、空を写す水と花畑が交互に重ねられていたが、遺跡の内部からはその土の部分と水が水槽のように満たされているのが見て取れる。

 おそろしく透明で混じりけのない透明度の水。

 土埃やらなにやらが入り込む事もなく水は綺麗なまま。


「綺麗だけれど、寂しいね。こんな場所にいたら、誰かが恋しくなってしまうかも」

「俺がそばにいるだろう?」

「……うん」


 クルスがそばにいる、それだけで寒々としたこの場所の空気も温かいものに変わる気がする。 

 やっぱり貴方に出会えてよかったかも。

 何度だってそう思う。

 そう答えると、彼は照れくさそうに笑って……。


「あれ?」


 小さくアリスは呟いた。

 いま、何かを思い出しかけたような、別の誰かだけれどとても近しい誰かの記憶を思い出した気がする。

 それは別に恐ろしかったり怖かったりするものではないのだが、


「アリス、どうした?」

「……なんだか、ここは懐かして居心地が良くて、けれど寂しい気もして……よくわからなくなる」

「でもここに来ないといけない気がしたんだろう?」

「うん、そう。でも、何でだろう……うにゃああああああ」


 そこでアリスは、一歩、前に出した右足が地面に沈む感触を覚えて、同時に体が地面に穴が開いたかのようにアリスは沈んでしまう。

 焦ったクルスがアリスに手を伸ばすが、その手はアリスに触れると透き通ってしまう。

 まるで存在して触れるのを拒むようなその様子に、クルスはぞっとしてその様子を見た。

 

「フラット、レイナ、遊びは終わりだ。アリスが消えた!」

「ええ!」


 けれど驚いたのはフラットだけのようだった。

 レイナは特に不思議でもなんでもないような様子。


「こうなることを予想していたのか?」

「いえ、この場所の役割はしっていましたので、そこに行きたいとアリスが願ったのならば、こういったことになっても当然かと」


 回りくどい言い方。

 けれどアリスが一緒に行動していないのならば、クルスはレイナに聞きたいことがあった。

 それを考えるならば、今の状況は好都合で、そして。


「遺跡は、アリスを傷つけることはない」

「むしろ守ろうとするでしょう」


 淡々と、当たり前の事のようにレイナは答えたのだった。

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