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ちょっとした過去

「あ、レイナ達がここにいるのに気づいたみたい。おーい、レイナ~」


 窓際の席だったためか、アリスはフラットとレイナが走ってくるのを見ながら手を振る。

 紅茶を飲みながら、二人の時間を楽しんでいたクルスは、もう少し気を利かせてくれないかと思う。

 けれども、フラットが可哀想な表情で追いかけられていたのでこれ以上は気の毒だから仕方がないなと思った。

 そうやって待っていると、喫茶店のドアを起きな音を立ててフラットが駆け込んできて、


「アリスちゃん、慰めて……ぐすっ」


 そう言って、フラットはアリスの手を握った。

 それを見た瞬間少しクルスが殺気立って、フラットを見る瞳が鋭くなる。

 けれどフラットはちらりとクルスを見て、


「僕の心の平和を保てるのはアリスちゃんだけなのです」

「よく言う……そもそもフラット、お前はアリスが初めて来た時真っ先にどんなに可愛くても関わりあいたくないと言っていただろう?」

「フラット、確かにあの時は私が悪かったけれど、そんな事を言っていたんだ……」


 クルスとアリスに半眼で見られたフラットは嘘泣きしながらクルスに、


「酷い、僕達は過去ではなく未来を見るべきなのに」

「どの口がそんな事を言うんだか……レイナが来たな」

「びくっ」


 フラットがアリスの手を離さずにレイナを振り返った。

 そんなフラットを、まるで嫌いな虫を見るかのような蔑んだ瞳でレイナが、


「……貴方、何をやっているの?」

「えっと、レイナが怖いので、アリスちゃんに慰めてもらおうかなって」

「ふーん、可愛くて甘えさせてくれるなら誰でも良いのかしら?」

「基本的には」

「……なるほど」

 

 レイナがそのフラットの言葉に頷いた。

 まるで良い事を聞いたとでも言うかのようにニヤリと笑いながら。

 それを見たフラットがさあっと顔を青ざめさせていると、そこでアリスが、


「フラット、私が初めて酒場に来た時関わりたくないって言ったんだって」

「そうなの……アリス、一体何をやったの?」


 レイナに、同意ではなく問いかけられてアリスは黙って、代わりに誤魔化すように笑った。

 するとレイナはくるっとフラットの方を向いて、ガシッと顎を掴んでレイナから顔をそむけられないようにしてから、


「アリスが何をしたのか教えなさい」

「あの、顔が近い……」

「ねぇ、教えなさい?」


 甘くささやくような声で、唇が触れてしまいそうな距離でレイナがフラットに囁いた。

 それにフラットは驚でもなく硬直していると、そこでクルスの溜息が響く。


「……アリスが何をしたのか話すから、それ以上フラットを追い詰めるのは止めてくれ」

「仕方がありません、それで手を打ちましょう」


 レイナが笑ってフラットから離れる。

 そして当のフラットはふらふらとした足取りでクルスの横に座り、疲れたように机にうつ伏せになる。

 けれどフラットの顔が伏せられているが耳まで真っ赤になっていたのだった。






 いつものように酒場にやってきたクルスとフラットは、怒ったような少女の声を聞いた。


「何で私が駄目なんですか!」

「いや、女の子の、しかも子供が一人で遺跡に潜るのは危険過ぎる……」

「私子供じゃないです! 魔法使いです!」


 そう叫んでいる小柄な少女。

 元気が良さそうで、こういう気の強そうな子はどちらかと言うとクルスは好みな方であったのだが、そこでフラットが、


「うわー、絶対に関わりたくない」

「そうなのか? 元気がよさそうでいいじゃないか」

「いやいやいや、やっぱり女の子はもっとおしとやかで優しくて綺麗で妖艶で、でも活発な所があって、挑発的な人がいいなって」

「色々矛盾している発言のような気がするが」

「理想は高く持つべきと僕は思います。あ、綺麗なお姉さんがいる!」

「結局は見た目か」

「……見た目より中身です、僕は」

「……言っていることに説得力がないぞ」

「矛盾しているのが人間言うものです。というわけで今すぐ僕はあの……」


 そこで少女が癇癪を起こした。


「分かりました! 私の実力を見せます! “花よ、舞え”!」


 その魔法は花をお祭りの時に散らしたるするための魔法だった。

 けれどその魔法に使われた魔力が桁違いに多く、クルスはぎょっとした。


「止めろ!」


 そう叫んで、同時にクルスは魔法を使い、その花の魔法をクルスは止めさせる。

 こんな狭い場所で大量の花を召喚すれば、下手をすると圧死してしまう。

 どうにか少量の花がいくらか床に散らばる程度に済むが、そこで少女が振り返った。

 その瞳に、姿に、クルスは魅入られる。

 美しい少女。

 今まで見た誰よりも魅力的に感じられて、だから瞬時にクルスは考えて、


「素人が手出し出来るほど遺跡は安全じゃないぞ?」

「う……それは……」

「だから、俺達と一緒に行かないか?」

「! いいんですか! ありがとうございます」


 酒場のおじさんもクルスたちと一緒であればいいかと思ったらしい。

 こうして、アリスはクルス達と遺跡に潜ることになったのだが、


「アリス……」


 話を聞いたレイナが、嘆息するように名前を呼び、それにアリスが、


「た、たまたま失敗して……でもなんだかここに来ると力がわくようなきがするんだよね」

「……だからあまりこさせたくなかったのに」

「え?」

「なんでもないわ。それで、ここは外から見て終わりにする?」


 レイナが話をそらすように話題を変えるも、それを追求してレイナの機嫌を損ねたくなかったアリスは遺跡に潜ると答えたのだった。


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