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イイ性格

 遺跡の爆発を見て、クルスは人を分けて行くも人があまりにも多い。

 

「……進めないな、くっ!」


 体当たりしてきた人間に小さく呻いて、けれどクルスは更に進んでいく。

 その後ろレイナが続いていく。


「レイナはついてきているか?」

「ええ……私に先に行かせて、盾にしようとは思わないんですね」

「冗談としてはつまらないな」

「自分の身を守る事を最優先としない、それは褒められた事ではありませんわ」

「……レイナ、君が“弱い”からし方がないだろう?」


 クルスは冗談めいてそう告げる。

 けれどそれは本心であり、クルスに対してのその皮肉に対する意趣返しである。

 それを聞きながら、レイナは深々と溜息をついて、


「私の事を“弱い”だなんて、クルス様以外でしたら、そう、フラットでしたら、数日がかりで矯正コースです」

「無理だろう。フラットはずっと逃げ切っているじゃないか、君の鞭から」

「私が手を抜いているだけです」

「手を抜いてしまうなら、君は本気でするつもりがないんだろう? だからどの道結果は変わらない」

「……どうしてアリスといい、そんな事を言うのかしら」

「無自覚なだけだろう、君が」

「……クルス様は意外にイイ性格をしていますね。アリスの前とは随分と違いますね」

「先に言ったのは君の方だ。俺は言われたままだいるつもりはない」

「まあ、怖いですね」

「それよりも、君は随分と余裕だな。さっきまではあんなに心配していたのに」


 そうクルスが問いかけると、レイナは沈黙する。

 それに気づきながらイイ性格だとクルスはレイナを思う。

 言いたくない、伝えたくないのなら沈黙すいればいい。

 分らないから分っているのを装って沈黙するという手法もあるが、今回は前者だろう。

 先ほどまでのレイナの余裕のなさが明らかに消えている。

 同時に遺跡の爆発もあるが、うっすらと漂う遺跡を満たす気配が“光”にとても近い。

 だから何処となくクルスは居心地の悪さと、けれど愛おしさと心地よさを感じる。

 理由は良く分らないが、そう感じるのだ。

 そこでレイナがクルスの後ろから離れた。

 遺跡の中から逃げ出す人々が、ほぼいなくなったからである。

 それからすぐに人っ子一人いなくなり、あたりは静寂に支配されている。

 特に、“暗闇遺跡”と呼ばれるだけあって、中は薄暗く見通しが悪い。

 静かなために、歩く靴の反響がよく響く。

 けれど夜目の利くクルスにはこの程度の明るさで問題なかった。

 理由は、こここが初心者用で美しい遺跡の一つでもあると呼ばれる所以である。

 壁を這う蔓に咲く花は、幾重にも花弁を重ねて、白や青、ピンク、黄色と鮮やかに輝き、光り輝く蝶が何匹もゆらゆらと揺れる炎のように花を渡り歩いている。

 しかもその蔓に実る果実も淡い燐光を放ち、地面に零れ落ちて新たな蔓として芽吹いている。

 また、その蔓に寄生する様に光り輝く色とりどりのキノコが、そして所々天井には雲一つない夜空を落とし込んだがごとく瞬く光の粒が張り付き、小型の魔物を捕食して栄養としている。

 見ている分には美しい世界がこの遺跡には広がっていた。


「相変わらずクルス様がアリスを誘う場所は綺麗な場所ばかりですね」

「悪いか? 綺麗で安全な場所ばかりで」

「いえ、遺跡ではなく、普通に公園や店を楽しむわけにはいかなかったのですか?」

「レイナはアリスと長い付き合いだと思うが、アリスがそんな場所を望むと思うか?」

「……嫌いではないと思います」

「では、どちらの方が喜ぶと思う?」


 レイナが沈黙して、それを肯定した。

 アリスという少女の性格を、クルスは良く理解している。

 それがレイナには少し舌打ちしたい気分になる。

 何故みすみす隠していたものを奪われなければならないのか?

 確かにそれはアリス自身が決める事であるのだが、自分よりもはるかに短い時間しか出会っていないクルスがアリスを良く理解している、その事実がレイナには気に食わない。

 そう思いながらも駆けて行くクルスを追って、レイナもまた遺跡の奥へと走っていく。

 そこで、クルスとレイナ以外の足音が響く。

 それは二つ。

 しかもこちらへ……出口へ向かっているようだった。

 同時に話し声も聞こえてくる。


「アリスちゃん、速いよ。もっとゆっくり……」

「そう? これでもだいぶ遅いんだけれど……本当はもっと良い方法があるのだけれど壊れているみたいなのよね。でももう少し連れば直るかも」

「いや、アリスちゃん、何を言っているのか全然分らないのだけれど……あ、クルスとレイナがいる……」

「何でレイナに気づいて後ずさるのフラットは」


 そんな声が聞こえる頃には、クルスとレイナにも完全にその二人の人影が見えていて、その二人に向かってクルスとレイナも駆け寄る。

 そして、アリスがクルスへと抱きつく。


「クルス! わーい」

「……え? あの、アリス、どうした?」

「ん? クルスがいたから……駄目?」


 首をかしげて上目遣いでアリスがクルスを見た。

 その甘えた仕草に、そのアリスの可愛さにクルスは身動きできなくなる。

 どうしてアリスがこんな行動を取っているのか、とか、怪我していないかといった心配も含めて、クルスの思考は完全に停止した。

 そしてそんなクルスをアリスが不思議そうに見上げながら、


「どうしたのクルス? 何だか顔が赤いけれど?」

「ああ、うん……ここまで急いで走ってきたから」

「そっか、心配してくれたんだ。でももうね、私、クルスに守られなくても大丈夫なんだよ?」

「アリス?」


 そこでアリスの様子が、いつもと違っておかしい事にクルスは気づいた。

 そんな不安そうにクルスがアリスの名を呼ぶのをアリスは聞いて、けれどアリスはいつものように笑い、


「私ね、今なら何だって出来る気がするの。クルスのお願いもかなえてあげられるよ?」

「アリス! やめなさい! 何を言っているの!」

「レイナは次だね。大丈夫、皆叶えてあげるの!」

 

 にこにこと笑うアリスに、クルスは……どうやらアリスが何か大きな力を得てしまったらしいと気づく。

 抑えきれない溢れ出る魔力がちりちりと、アリスの体から漏れている。

 それに、クルスの叶えて欲しい願いは、確かにアリスは叶えてくれるだろうが――それはクルスの望んだ形ではない。

 なので、クルスはちょっとだけ考えてから、


「じゃあ、アリス、叶えてくれるか? 俺の願い」

「うん、いいよ、何をすればいいか……っ!」


 そこでアリスの前髪をクルスは手であげて、額に口づけする。

 それは一瞬の出来事で、まさかそんな事をされると思っていなかったアリスは凍りついたように固まる。

 次に額に触れたクルスの温かい唇の感触に、そしてクルスにキスされたのだとアリスは気づいて、かおを赤くする。


「な、なんで……だって叶えて欲しいお願いって」

「どういう意味だと思う? アリス」

「……もう無理かも」


 更に顔を赤くしたアリスが、ふら~、と倒れこむ。

 キスのついでに、眠りの魔法をクルスがかけたのだ。

 何分アリスの様子がおかしいから、少し大人しくさせておきたいというクルスの考えによる。

 別にキスをしなくても良いのだが、こんな風に抱きついてくるアリスが悪いのだとクルスは思う。

 自分から来たのだから、頂かれてしまっても文句は言えないのだと、アリスを見ながらクルスは小さく笑い、アリスを抱き上げる。そして、


「これで用事は済んだ。だが……そこで隠れて様子を見ているお前は、魔物か?」

「……お気づきでしたか、我が王、クルス様」


 そう、現れた先ほどの女の魔物が……何処かよそよそしい様子で現れたのだった。

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