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 尾行と言っても、人の多い市街地。

 その人ごみに紛れ、壁伝いに彼らの視界に入らないように追いかけるだけである。


「目標捕捉! 二時の方向」

「えっと、二時って言うと……こっちだね。でもレイナ、もう少し分りやすく……」

「あら、分りやすいと思うけれど?」

「というよりは魔法で探査した方が早いんじゃないかな……。そうだよね、じゃあ……」

「市街地での魔法の使用は原則禁止だぞ、アリス」


 そこでクルスに、頭を軽くこつんとアリスはされる。

 痛くはなかったのだが、そこでアリスは小さく呻いて、


「ちょっとくらいは、ばれないと思うの」

「だがアリスはばれて良いのか? 下手すると牢屋行きだぞ?」


 それを聞いて身元確認される自分を思い描き、アリスはしゅんとうなだれて諦める。そこでレイナが、


「……フラットの癖に、あんな輝くばかりの笑顔をしていやがって……道行く女の人が振り返っているじゃない」

「自分でも言っていたからね、フラットは。顔だけはいいって」

「アリス、何だか笑いをこらえているように思うけれど、どういう事かしら」

「気のせいだよ。でも、フラットも普通に女の人の相手が出来るんだね」

「そうね。でもその内ぼろを出すわ。それを確認した所で姿を現してやる」


 くくくと、悪魔のような笑いを浮かべるレイナに、アリスは、


「レイナ、もっと素直になった方がいいよ?」

「私は欲望のままに生きているわ。だから欲望のままに行動して、こうなるの! だからこの行動も極めて私らしいのよ!」

「レイナ……それもそうだね。それでどうやってあの二人の関係をぶち壊すの?」

「ありがちな手だと『私の事を捨てる気なの!』とかそういった修羅場系だけれど……」

「フラットをあの女の人の前で捕まえて『獲物はいただいた!』と捨て台詞をしながら、攫ってくれば良いんだよ」

「なるほど、女に攫われるという屈辱をフラットに! そして調教へ……いいわ、それ良いわね」


 更に闇に満ちた笑みを浮かべるレイナに、アリスはそうだねと相槌を打っていると、そこでアリスはクルスに肩を叩かれた。

 見るとクルスは何処か引きつった笑みを浮かべている。


「アリス、煽らないでくれ。あんなにフラットは嬉しそうなのに邪魔するのは悪いと思う」

「レイナの本性は、とても良い子なの。素直だし」

「そうなのか。だが……」

「口で言うからって実際にするかどうかは別の話、でしょう?」


 そう問いかけると、クルスは本気でデートをぶち壊すつもりがないのだと気づく。

 なのでクルスはアリスを見てから、次にレイナを見て、


「一応あれでも俺の親友なんだ。あまり不安になるような事を言わないでくれ」


 と、苦笑するように告げる。

 けれどそんなクルスにレイナはぷいっとそっぽを向いてからアリスに、


「……アリス、貴方が普段から私の事をどう思っているのか分ったわ」

「間違っていないでしょう? でも前に、神殿の人にそれを言ったら卒倒されたんだよね」

「……いい、私は善人の振りをしているドSな女王様気質の巫女なの。アリスと一部の人には特別なだけで! だから他の人にそれは言っちゃ駄目よ?」

「うん、分った」


 そこでアリスが聞き分けの良い子供のように微笑んで頷くも、長い付き合いである親友のアリスの行動に不自然さを感じたレイナは、


「……どんな風に?」

「レイナが恥ずかしがりやだって事。これが、つんでれ?」

「違う! ちがくて……目標に変化あり、二人揃ってアイスクリームを買っている、だ、と?」

「いいね。私達も買おうか、アイス」


 そんなアリスの提案にレイナは渋るも、これもアリスとのデートみたいだよなと思ったクルスが頷き、多数決の結果食べる事に決まったのだった。






 その後も雑貨のお店などをまわって行くフラット達。

 普通に楽しそうなデートの様相である。

 ついでにアリス達も、ここの観光を楽しみながら追跡を開始する。が、


「人が多くて見失いそうね。やっぱり私達だけで追いかけるのは大変ね」

「レイナ、二手に分かれる?」

「はぐれる危険性を考えれば、止めたほうがいいかもね。でもここで手を打っておきますか」


 何処か残念そうなクルス。

 確かにアリスと二人っきりで追跡という名のデートが出来そうだ。

 が、まだまだこのクルスもレイナには不安がある。

 だからアリスはまだ渡せない。

 そしてアリスも残念そうで、そんなアリスにもう少し自分の立場を自覚しなさいと言いたくなったレイナ。

 けれどそれもまだ言うには時期尚早だろう。

 アリスが何なのかを。

 そんな事をレイナが考えているとは知らず、アリスは、ふと遠くでかすかに聞こえる歯車の音に耳を澄ます。

カチッ カ……チッ

 頭がくらくらするけれど、ここで倒れるわけにも行かないので歯を食いしばって我慢するアリス。

 暫くするとその音が聞こえなくなり、アリスはほっとする。と、


「大丈夫か、アリス。顔色が悪いが」

「うん、心配要らないよ、クルス」

「そうか? でも辛かったらすぐに言うんだぞ?」

「……うん、ありがとう」


 こんな普通に心配されただけでアリスには嬉しかったし、そんなささやかなところまでクルスが自分の事を見てくれているのもアリスには嬉しかった。

 そんな二人の様子を見ながら、何となく蚊帳の外なレイナがそこで小さく叫ぶ。


「下僕達! 出てらっしゃい!」

「「「「「はい! レイナ様!」」」」」


 一斉に何処からともなく五人の男性が現れた。

 誰もがタイプの違う美形で、その存在自体も圧倒的である。

 それこそフラットが霞むような、自分の美しさを最大限魅力的に見せる事を知っている、きらきらと輝くばかりの美形である。

 そんな彼らを突然連れてきたらしいレイナにクルスは驚きを覚えて、


「アリス、レイナは今何をやったんだ? あんな人間達はいなかっただろう?」

「うん、レイナの選別された下僕の人達で、レイナが呼ぶと何処からともなく現れるの」

「どうやって?」

「さあ。何だかレイナ様専用の転送魔法陣があるらしいと聞いたけれど、未だに私は見せてもらえないんだ」

「……そんなに秘匿されるべき魔法だという事か」


 そんな時空を越えるような魔法を転送陣も使わずに出来るとは、やはり神殿は侮れないとクルスは考えていると、そこでアリスが、


「うんん、レイナ様との繋がりであるものを人に見せるなんて出来ない。これはレイナ様と自分だけのものって……と、長々と一時間くらい陶酔するように言われて、断られたの。あれはどう考えても演技じゃないと思う」


 そう何処かとろんとした瞳で告げるアリスに、それ以上クルスは聞き出さなかった。

 それだけ好み子にはカリスマ性があるという事だろうとクルスは思って口をつぐむ。

 そこでレイナが下僕に指示を出す。


「あそこにいる、鼻の下を伸ばした男と女を追いかけなさい」

「レイナ様、鼻の下を伸ばしている男はここには一杯おります! ここは有名なデートスポットなのですから!」


 下僕に言われて周りを見回せば、あたりは確かにカップルだらけ。だからレイナは指を差し、


「あの駄目男よ! あいつを追跡しなさい、そして人気ひとけのない場所に誘い出すのよ!」

「「「「「はい! レイナ様!」

「よし、行け!」


 その言葉と共に走っていく彼ら。一方アリスは、そんな彼らを見送りながら、


「なんだか、あの下僕の人達を見ていると疲れるのよね? どうしてだろう」

「……普通の感覚だと思う。俺も何だか疲れた」

「二人とも失礼な。私の素晴らしさが良く分るでしょう? さあ、行くわよ!」


 そんな一人元気なレイナを追いかけていくクルスとアリス。


 やがて下僕の工作のためか、人気のない場所に連れてこられる二人。

 そこでキスするように、フラットとその女性が顔を近づけるが、そこで突然クルスが二人の下に駆け出した。

 それにレイナが次いで最後にアリスがそれに続こうとして……動けない。

 足が突然重くなってしまったように感じる。と、


「ぐっ!」


 そこで、先ほどまでデートをしていた彼女がフラットの首を絞めた。

 それを外して抵抗しようとするフラット。

 けれどその力は強くて振りほどけないらしく、焦りが見える。

 そこで声がした。


「貴方様の傍に負わす二人を、お預かりいたしますわ。そちらが“暗闇遺跡”と呼ぶ場所で、お待ちしております。我が君」


 その声と共に、フラットの首を絞めていた女の手が小さく発光してフラットの姿が掻き消える。

 ぎりぎりクルスは間に合わなかった。

 そして、二人といっていた事に気づいたクルスとレイナが振り返ると、後ろにいたはずのアリスの姿は何処にも見当たらなかったのだった。

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