デートは尾行するもの
いつものように、クルスは酒場でココアを飲んでいた。
ようは、今日もアリスが来るのを待っていたのだが、
「何だか機嫌が良さそうだね、クルスは」
「……それを言うなら、フラット、お前もじゃないのか?」
「当然です! だってデートしてもらえるんだから!」
そんなにこにこと機嫌よく自身の自慢の竪琴を、白い布で拭いているフラット。
それをクルスは、何かを聞き間違えたのかと思った。
けれどどう考えても、デート以外の言葉に聞こえないと判断したので、クルスはフラットに問いかけた。
「……誰とだ?」
「どうしてクルスはそんなに不思議そうな顔をするんですか。僕だって本気を出せば、女の子の一人や二人……」
「……何か裏があるんじゃないのか?」
「ひ、酷い。親友なのにそんな事を言うなんて」
フラットは自分の目をてで隠して、天井を仰ぎ見、そんな、親友がそんな事を言うなんてと大げさな素振りをして見せた。
けれどそんなフラットを見ながらクルスは冷静に、
「いや……今までのパターンだと、俺も巻き込まれるからな」
「まさか。流石に“今回”はないと僕は思うな!」
「……もしも俺が巻き込まれたら、アリスとレイナの分も含めてここでフラットの奢りな」
「そんな! だが、もしも本当に僕がデート出来たらどうする!」
「……天変地異の前触れかもしれない」
「お、覚えてろ、クルス。僕だって、見掛けだけは良いんだからな!」
「自分で言っていて悲しくないか?」
「ふふん、今は僕は、機嫌が良いので、そんな事を言われても平気なのです」
そう本当に機嫌が良さそうに、再び竪琴を磨き始めるフラット。
だがそこでクルスはある事に気づく。
「デートって何時するんだ?」
「今日です!」
「今日って……アリス達が来る日じゃないか」
「うん、というわけであのレイナはクルスにお任せします」
「……わざとか?」
「……イエイエ、フコウナグウゼンデス」
しれっと嘘をつくフラットに、クルスは深々と嘆息して、
「そんなにレイナが嫌か? 意外にお似合いだと思うんだが」
「……あのドSで性悪で鞭を持っているような性格破綻者の巫女なんてだいっ嫌いです」
「……そんな事を言っていると、また聞かれるぞ?」
「まさか。まだ時間はあるでしょう」
そういいつつフラットはそわそわと周りを見回そうとした所で、フラットの背後から声がした。
「あら、随分な言い草ね。どやらまだ私の教育が甘かったらしいわね? フラット」
血の気が引いたフラットが、おそるおそる背後を見ると、そこには仁王立ちして怒ったように笑うレイナがいた。
それを見ながらもフラットは現実逃避をするように、
「ぎくっ! き、気のせいだ、今のは空耳だ、空耳……」
「あら、聞こえないんだったなら、何を言っても良いわね」
「き、聞こえない、怖い女の声は聞こえない」
「フラット、私、貴方の事を愛しているわ」
「え! でもノーセンキューです!」
「……最近、紐を結ぶのも楽しくなってきたんだけれど、ちょっと試させてくれるかしら?」
「いやだぁああああ」
「待ちなさい! 逃げるんじゃないわよ! 鞭で打つわよ!」
「余計嫌です!」
「何を言っているの! 喜ぶ下僕が私には沢山いるのに、光栄に思いなさい!」
「ぎゃああああ」
フラットをレイナが追い掛け回している。
それを見ながらクルスが、またかと溜息をついていると、
「フラットとレイナは、本当に仲がいいね」
「アリス、来たのか」
「来ちゃ駄目だった?」
「いや……嬉しいかな。この前の事もあるし」
「でもクルスは強いし信頼しているから、だから私は安心してここにこれるの」
「そうか」
そう言ってもらえるのがクルスには嬉しい。
同時にアリスも自分の気持ちに気づいていた。
クルスが好き。
それはアリスの中で疑いの無い事実だから。
そこで、どちらとも無く手を伸ばし、クルスとアリスは手を繋ぐ。
その手の暖かさを感じて幸せだなと思うと同時に、こうしているのが当たり前のような気持ちになる。
アリスがクルスを見上げると、クルスが微笑んで、それにアリスも微笑む。
何処となく、二人だけの甘い世界が出来上がろうとした所で、そこでフラットがその世界に飛び込んできた。
「ア、アリスちゃん、助けて下さい」
「アリスに助けを求めるなんて……やっぱり調教が必要のようね。まだ暫く顔を合わせそうだから、貴方の性格を私好みにしてやろうかしら……」
「具体的には?」
「レイナ様の言うとおりでございますといって……何だか想像したら、気持ちが悪いからやっぱりいいわ」
「ひ、酷い、こう見えて顔だけは良いのに!」
「自分で言うな自分で。所で、デートする相手って誰?」
「この前、彼氏が二股をかけている事を教えてあげた子です!」
それを聞いてレイナが黙った。
ついでにアリスとクルスも黙って、そこで嬉しそうにへにゃっとした表情をしているフラットにクルスが、
「別の御礼をしてくれるんじゃなかったのか?」
「どうしてもデートして欲しいんです、ってお願いしたら『彼女になれないけれど良いの?』て笑われてしてくれることになりました」
「……そうまでしてデートして欲しいのか? フラット」
「……僕だって彼女といちゃいちゃしたいんだ!」
そんな哀れな叫びを上げるフラットを見て、そこでクルスがレイナに、
「レイナ、フラットとデートしてくれないか?」
「えぇ! そんなプライドを捨ててまでデートしてもらおうって根性が気に入らないわ」
「フラットはいい奴だぞ?」
「……知ってるわよ」
けれどレイナのその呟きは小さすぎて、アリス以外誰の耳には届かなかった。
そしてアリスもそんなレイナの気持ちが分ったので、黙って見守る事にする。
と、そこでフラットが呼ばれた。
以前酒場にいた同じ女性だが、今は私服姿でとても可愛らしい。
そんな彼女にフラットは嬉しそうに駆け寄っていく。
それをレイナはじっと目で追っていた。
けれどすぐに見えなくなった彼らに向けたものか、それとも自分自身の感情に対してか。
「……苛立つわ」
「だったら追いかける? レイナ」
「! アリス、でも今日は“暗闇遺跡”に行くんでしょう・」
「遺跡は逃げないけれど、フラット達がどうなるのかを見れるのは今日しかないもの。こんな面白い事、あまりないと思うよ?」
そうにやっと笑うアリスに、そういえばこの子はこういう子だったわねとレイナは見る。
次にアリスは、クルスに視線を移して、
「クルス、いいかな?」
「俺もフラットがどんな事をするのか楽しみだから、それでいい」
「決まりね!」
こうして、アリス、クルス、レイナの三人は、フラットの尾行を開始したのだった。




