一つの始まり後編
暗がりの中にアリスはいた。
カタカタと規則正しく流れていている音に、これで大丈夫と安心をしていると、風景が見える。
「なんだか見張っているみたい」
色々な場所に妙な人達がたって周りの様子を伺っている。
警備をするかのようなその様子に、アリスは疑問を覚えて周りを見回す。
そこでクルス達が見えて、フラットとレイナがアリスの様子を見ている。
「私よりもクルスを……」
呟いた瞬間フラット達の声が聞こえた。
「助けに行かなくて良いの?」
「クルスが本気を少しでも出すなら僕は足手まといだ」
「……そんなに強いの」
「ああ。だからアリスの様子を見て……」
「それは大丈夫。気を失っているだけ」
そう心配そうな二人を見ながらアリスは、そんなにクルスは強かったのかと思いながらも、アリスはクルスの様子を見る。
そこではクルスが何かの魔法陣の罠に引っかかっていたが、
「このまま貴方様をこちらの世界に連れて行きます」
「……ふざけるな」
「念入りに設定しましたからね」
くすくす笑う魔物の少年。
そしてクルスはもがいていて……。
けれど連れて行かれてしまいそうな気配を感じて、アリスは叫んだ。
「クルスは、渡さないから!」
歯車の音が、そのアリスの言葉と共に加速したのをアリスは聞いたのだった。
クルスが捕らえていた魔法陣の力が消える。
その時アリスの気配がすぐ近くにあった気がして、クルスは微笑む。と、
「“女神”め」
少年がそう叫ぶのを聞きつつ、クルスは剣に魔力をこめる。
その中でも焼き尽くす炎の魔力をこめていく。
ゆらゆらとクルスの体から噴出す気配に、少年は目を見開く。
「そんな、まさか……」
「そのまさかだ」
防御を固める少年に剣を振り下ろせば、少年に剣戟と炎の魔法が炸裂して、あっけなく勝敗は決まった。
「くっ……この、今は引く」
圧倒的な力の前に、少年の魔物はその場から消えてしまう。
勝てない相手だと、彼は悟ったのだろう。そもそも、クルス自身の本来の力すら使っていないのだから。
「次はからめ手に来るな」
それならば、消し去っておいた方が良かったのかもしれないが、思ってしまったのだ。
クルスは自分が彼らと同じものであると。
人間だと思っていたクルス。思っていたかったクルスだが、こうしてみると自分が違う事を見せ付けられる。
とはいえ、クルスがこちらにいることを望んでくれたのはきっと、アリスだから。
ふと気配を感じてクルスは見上げた。
アリスがいる。
戦闘で過敏になった感覚が、それを感じ取る。
一方アリスもクルスに真っ直ぐ見つめられている気配を感じて、焦る。
そこで目の前にふっとクルスが現れる。
「え! な、なんで……」
その一言しかアリスはいえない。
クルスに捕らえられて、そのまま唇を重ねられる。
とろっと魔力クルスに流れ込んでしまうのを感じて、そこで初めてキスされたと気づいたアリスは、
「冗談……」
「アリス、好きだ」
そしてする事と言いたい事は言ったと、クルスはすぐに消えてしまい、眼下の光景でクルスが歩いていくのが見える。
アリスは、今何があったのかを考えて、自分の頬を押さえて、大きく深呼吸した。
「多分、夢だと思う、うん、そう」
そう呟くと同時に、ふっとアリスの目の前の光景が霞んだのだった。
目を覚ましたアリスが真っ先に見たのは、クルス達三人の心配そうな顔だった。
「……あれ、魔物は?」
「クルスが倒したよ」
「そっかー、クルスはやっぱり強いね」
そう笑うアリス。けれどさっき何かをクルスに言われた気がして、けれど思い出せずにいると、
「いや、どうやらあの魔物は俺が目的らしい」
「そうなの? クルスが強いから?」
「……ああ」
けれど話はそれで終わってしまう。
クルスは困った顔をして、
「アリス、これからも俺と遺跡に来るか?」
「うん、何でそんな事を聞くの?」
アリスはそう答えて、首をかしげて……レイナに軽く頭をはたかれた。
「レイナ、痛いよ」
「だから今みたいに戦闘に巻き込まれても良いのかって事」
「うん、私ももうちょっと強力な魔道具を準備しないと」
「あのね……わかった。もう分った。私も次から本気出すからいいわ」
ようはアリスはクルス達とまだ一緒にいたいといっているのだ。
その理由がレイナには分るし、それがアリスの望みならば仕方がない。
その話は上にあげなければいけないが。
そこで再びアリスはクルスに向き直って、
「これからもよろしくね、クルス」
にこやかに言われてしまえばクルスは頷かずにいられないわけで。
ほっとしたようにクルスは微笑みアリスに頷いたのだった。
その様子をフラットとレイナは見て、この二人がくっつくのはまだ先かな……と生温かく見守る。
こうして、大きな変化がこの世界に訪れる前のささやかな出来事は、そうとは誰も知らずに始まっていたのだった。
少年の魔物は痛みに呻く。
どうにか元の世界に戻ってこれたは良いのだが、
「やはりあの方は強かった。だから今度は別の手を打たせてもらう。さしずめあの小娘も使うか」
そう、魔物の少年は闇の中笑ったのだった。
ここまでがストックです。これから少しづつ書き足していきますので、最後までよろしくお願いします。




