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一つの始まり前編

 そして数日後の酒場にて。

 クルスがうんざりしたように嘆息した。


「様子見のために、アリス達を遺跡に連れて行けとノイズさんが言っていた」

「兄さん……」


 珍しく、疲れたように頭を抱えるフラット。

 囮にしようとしているらしく、周りには見かけない顔がちらほらいることにクルスは気づいていた。

 そんなフラットのいつもと違い余裕のない様子にクルスは問いかける。


「だが、遺跡にあったあの気配……あいつは誰かを探していたのだろう?」

「そうなんだよねー。というかあいつと関わるの嫌だなと。……本気を出さないといけなそうなのが特に」

「まさか俺達を狙っているという事はないだろう。流石に」

「女神に関しては憎々しげに言っていたから、魔物側かもしれないな」


 その暗に示す意味が分り、クルスは嫌そうな顔をする。

 つまりがクルス達も囮なのだ。

 魔物の、それも……極上の魔物の血を引くクルスを彼らが探している。


「……父様にも許可を取ったのか? 俺の」

「『部下を出し抜けるくらいじゃないと駄目だぞー』と聞いたらしい」


 父様と、クルスは呻いて、そっちがそういうつもりなら本当に出し抜いてやるぞと心の中に思って、かといってどうしようかと考える。

 現在の状況は確かに気楽とは言いがたいが、この状況であればアリス達に危害が加わる可能性がある。

 本当はこの状況で遺跡巡りを止めた方が良いのだが、アリスをどう説得するのかという理由もあり……本当は、こういった繋がりでしかアリスに会えないというクルス側の事情がある。


「それがどうにか出来ればいいんだが」


 ボソッとクルスは呟く。

 もう少し心の距離が近づけば、こんな事を気にせずにもっと違う場所に連れて行ったりも出来るのにと、クルスは思って、それはクルスの側の問題だと嘆息した。と、


「どうしたの? クルス」


 アリスがクルスの顔を覗き込んで、クルスはぎょっとした。

 すぐ傍に来ていることにクルスは気づかなかった。

 けれど驚いたクルスも珍しいとアリスは思う。そして、もっと色んなクルスが見れたらなと思って、その意味に気付いて、アリスの顔がかあっと熱くなる。

 けれどそれはクルスにも丸見えで、


「どうしたんだ? いきなり顔を赤くして」

「う、ううん。なんでもない。それで、今日は何処へ行くの?」

「以前行った、花を摂りに行った遺跡だ」

「あそこかー。綺麗だったね。触手の遊具みたいのがあって」

「……ああ」


 目を泳がせるクルスにアリスは首をかしげる。

 そして理由の分っているフラットはにまにましていて……すぐ傍でどんよりしているレイナに気づいて悲鳴を上げた。


「ひゃわぁあああ」

「……何よその悲鳴は」

「いえ、あの、なんだか雰囲気がちがくないですか?」

「何でもありませんわ、フラット様?」


 様付けで呼ばれて、フラットはレイナを見て瞬時に悟る。

 バレてると思いながらクルスを見ると、クルスは状況を悟ったらしい。そこで彼もレイナを見て、


「話は幾つか聞いた」

「そうですか、こちらも聞きました」


 それだけのやり取りでは何がなんだか分らない。そして分らないようにいっているのだから当然だ。知らない人間に。

 とはいえ、好きな人と親友が自分に判らない話をしているのは、アリスには仲間外れにされたように感じて、


「レイナ、何の話?」

「そのうち分るお話。それよりももう行かないとあそこまでの道のりはきついわよ?」


 そうレイナははぐらかして、アリスがむくれたのだった。






 遺跡を歩きながら適当な雑談をしながらクルスはアリスを見る。

 流星神殿から聞いた話をクルスは、人づてで聞かされた。

 それはアリスが、“女神”の化身だという話だ。

 もともと彼女の家系も含めて幾つかが“女神”の血を引いており、その中で現れたのが彼女であったらしい。

 本来であれば神殿の庇護の下に、神殿の巫女として大事にされるはずだったのだが、以前そういう生活に関して試しに聞いてみた所、『そんな人がいたら、全員ぼこぼこにして逃げ出すから良いや』だったらしい。

 なので女神の機嫌を損ねるのもどうだろう、といった話から、現在の状況に至る。

 また、レイナも“女神”に仕える巫女の家系らしいが、普通に親友としてアリスを気に入っているらしかった。


「出会ったのは偶然だったのにな」


 クルスは呟くも、まるで運命に翻弄されている気がしてくらくらする。

 だってクルスはアリスに一目惚れをして、そもそもクルスの祖先は……。

 そこで、アリスの手がクルスの手に触れた。別にただそれだけの事だったのだが、クルスを意識しているとでもいうかのようにアリスが顔を赤くして、


「ご、ごめんなさい」

「いや、ただ触れただけだし、気にすることはないと思う」

「う、うん……」


 答えつつアリスは胸がどきどきする。

 自覚してしまったなら、それ以上はどうにもならなかった。

 確かに平静をよそおうことは出来るけれど、それでも何処までこうしていられるかアリスには分らない。

 クルスが好き。

 恋なんて今までした事がなくて、アリスには戸惑いが大きい。

 そこでクルスが足を止めた。

 人が少なかったのだ。

 それどころか今ここでは誰も居ない。まるで用意された舞台であるかのように。

 更に加えるなら、ふっと現れた人影にクルスが嘆息する。


「この前の遺跡でいた魔物か」

「やはり貴方様は素晴らしいようですね」


 その声と気配に、アリスは苛立ちと恐怖を感じる。

 そして前にどこかで見た気がするが、思い出せない。

 彼はそこでアリスに目を向けて、あざけ笑う。


「……なんですかその小娘は」


 一瞬何を言われたのかわからず、アリスはその魔物を見ると、次にレイナを見て、


「こちらは女の質も悪いな」


 軽口を叩いた。

 それにクルスは言い返そうとして、フラットはレイナが妙な行動を起こさないか焦った。

 けれど、その時すでに二人はその魔物に向かって走り出しており、クルス達が止めるよりも早く、アリスが持っていた筒を五本ほど一気に使った。

 巨大な炎の塊が絶え間なく降り注ぎ、ついでレイナの鞭を打つ場所に生じた魔法陣から、幾つもの雷の球が現れて襲い掛かる。

 今迄で見たことのないほどの容赦なさに、クルスとフラットも二人とも怒っているなと思いつつ、クルスはアリスを、フラットはレイナの手を引き自分の後ろに隠す。

 それにアリスとレイナが声を上げる。


「クルス、何でこんなふうに私を庇うの?」

「今の先手の攻撃で倒せていないからだ」

「そんな! だってあれだけ攻撃したのに?」


 そんなアリスに答えようとして、クルスは警戒するようにその魔物を見た。

 攻撃が振りまかれた時に生じた煙でかの魔物の姿は、ゆっくりと再び現れる。


「まったく、服が汚れたじゃないか」

「あれだけやったのに……」

「やっぱりこちらの世界の人間は弱いな。なのにどうして、貴方様はこちらにいるのかな?」


 アリスを無視して、目の前の魔物はクルスに視線を戻してニヤニヤ笑う。

 その台詞がクルスは彼の目的が自分だと悟る。そして、魔物だとアリスに話される前に、事を終わらせようとする。

 けれど、クルスが振りかざした剣はその魔物の少年を楽しませるだけだった。


「何故力を抑えているのですか?」

「……話す義理はない」


 その一言で、クルスの前髪に少年の攻撃がかすめて銀色の髪がはらはらと舞う。

 クルスが苛立ったようで、けれど、少年は逆に笑みを深めて、手を下す。


「え?」


 アリスは間の抜けた声を上げて、そして風に吹き飛ばされてその衝撃で意識を失う。

 ぎりぎりでフラットとレイナが風を弱めるも、全てを防ぎきれなかったのだ。

 倒れたアリスに向かうレイナ。

 フラットは本気を出すべきかを迷いながらも援護と防御のためにレイナとアリスの前に躍り出る。

 それに気づいてクルスはアリスに向かおうとするも、少年に阻まれる。


「あの娘を気にしていましたからね。これで気兼ねなく、貴方様の力を見ることが出来る」

「……他の者達は何をして……気配が、静か過ぎる?」


 そこで、これまでに感じていた人の気配があまりにも動かない事にクルスは気づいた。


「まさか、こちらの異常に気づいていない?」

「その程度の魔法は驚くに値しないでしょう。それよりも僕は貴方様を迎えにきたのです」

「……俺はこちらの人間だ」

「こちらの世界の王の力と血を引き、かの王の化身である貴方に言われたくありません」

「……俺はお前達の王の化身じゃない。末裔なだけだ」

「力さえ持てばわれわれは満足です。いい加減こちらに戻り、この世界も支配しましょう。そうすれば貴方が欲しいものを全部手に入れられますし。もっと良い従者を貴方様につけてあげられる」


 少年は呟き、フラットを見て笑う。

 フラットが少年を睨みつけ今にも攻撃しようとするも、クルスは手を横にやりそれを制しながら、


「フラットは俺の友人だ」

「あの従者からは貴方の血のにおいがしますよ? 吸血鬼などというか弱く美しい愛でられるだけの生き物が、貴方様の従者だとおっしゃられるのですか?」

「……フラットはお前を殺せるぞ?」

「見るからに弱いのに?」

「……お前が弱いから、分らないのだな」


 そのクルスの答えに、少年の魔物は機嫌を損ねたように、


「……貴方様といえどその台詞は聞き捨てなりません。僕はあの世界ではかなり地位も高く、力もあります」

「どの道、お前達が俺の祖先である王をこちらの世界に捨てたのだろう? 今更戻ってきてくれとは虫が良すぎるんじゃないのか?」

「好きだから、憧れるからこそ叩いてしまう心理も我々にはあった訳です。そして捨てたのではなく、祖先の王である貴方様がこちらに家出をなされたのでしょう? だから貴方様が戻ってきたくなるように、現在貴方様を受け入れる準備もこちらに出来ています」

「俺はこちらの世界が好きだ」

「それはあの娘が原因ですか? ではその娘も連れてこちらにいらっしゃれば良い」

「興味がない。だからお前の要求は一切呑めない」

「要求なんて人聞きが悪い。ですが……力づくでも戻ってきていただければ、自分が何処に存在すべきかがお分かりになるでしょう」

「舐められたものだな」

 

 クルスが剣戟を少年に加え、魔法で攻撃する。

 はじめは炎、水、雷。

 けれどそのどれもが少年にとって遊びに過ぎないと笑う。

 だがクルスに怪我をさせるわけには行かないために、後ろに下がっていく。

 もっともクルスはそれが狙いだった。

 フラット達を巻き込まないようにしながら、この少年に回りを気にせずに出来る攻撃をしたかった。

 だが、少年にも別の狙いがあった。

 ある場所にさりげなく誘導して、その場所までクルスが来た所で魔法を発動させたのだった。

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